/七臣蔵人の「林檎狩り」②
跳ぶ林檎! 垂直に3メートル程飛び上がる。
七臣は後ろに下がる。使う魔法は「炎」と「水」のみ。下級魔法二つだ。魔法を放った直後に叩く。七臣の思考は固まっていた。しかし、打ち砕かれる。
林檎の目の部分に「炎」の魔方陣が映し出される。来る! 七臣は構える。それは炎を避ける体勢であり、直ぐに迎撃に向かう体勢でもある。七臣は確かに聞く。学園長の言葉。
「――焼却処分だ」
轟!
七臣は反応していない。それは、「避けよう」と思って体が動いた訳ではない。「危険」――エマージェンシーシグナル。本能的に、そう、結果として、避けた。避けることができた。
――速すぎる。
魔方陣が映し出され、炎が発現された時には既に目の前にあった感じだ。七臣は回想する。そして、気付く。冷や汗。七臣は探る。
――迷彩の魔法で炎を一瞬だけ見えなくしたのか? しかしそれなら何故迷彩を僕の目の前で消した? と、言うより迷彩をどうやって発動するんだ? 使う魔法は炎と水のみ。この条件が必ずしも正しいと言う訳じゃない。山本が嘘の情報を流した可能性もある。しかし、どうやって発動する? 魔方陣は目に映し出された炎のみ。その他視認が可能だったのは受信の魔法陣のみ。迷彩の詠唱は聞こえなかった、というより迷彩を詠唱するヤツは頭が足りてない(迷彩の魔法は魔法を一時的に視認し辛くさせる魔法。詠唱して「唱えた」と相手に感付かれてしまえば、その効果は薄くなる)。
ならば、そもそもの魔法速があのスピード?
飛沫!
七臣は絶叫する。右足の甲に風穴。思考に耽りすぎて林檎の動きを追えていなかった。水の魔法が七臣の右足の甲を貫いたのは当然の結果であるか? 否、そうではない。七臣の戦闘センスは優れている。並の相手なら例え思考に耽っていようが文庫本を読んでいようが攻撃、魔法を避ける事は可能なのである。
誤算は、相手が林檎だという事。
七臣は左に転がるようにしてその場から離れる。林檎は追撃しない。白い床をその針金のような足でとことこと動く。台詞再生、「学園長様を崇めろ」。
七臣の右足から血が流れている。畜生、利き足じゃないか、と七臣は漏らす。それからゆっくりと立ち上がり、その感触を確かめる。――痛い。体重を右足にかけて移動するのは辛いな。七臣は確認して、深呼吸。
――やるしかない。
七臣の頬を冷や汗が流れる。それを袖で拭って、七臣は不適に笑う。
「――歩く速度」