/七臣蔵人の「林檎狩り」①
/「林檎狩り」開始より二時間
七臣は疲弊していた。魔力も枯渇寸前で、足も動かない。まずい――七臣は考える。如何に「それ」に攻撃を与えるか。七臣の能力は「それ」の攻撃を避けるのに非常に効果的ではあった。ただ、攻撃を当てることはできなかった。開始から二時間、パンチ、キック、魔法、掠りもしなかった。ちくしょう、七臣が小さく呻く。それを聞いた「それ」――
――林檎は、笑った。
「もうお疲れか? このクズ」
◇◇
――「林檎狩り」。
この学園における教師の最終試験を呼称するものである。つまり、通常は生徒が行うものではない。内容は非常に明快なのだが、少々の説明を先にしておく。
「学園長」――林檎の事だ。
学園長は林檎(に機械がついたもの)であるが、勿論林檎そのものではない。あの林檎は「受信機」だ。学園長はあの林檎に受信の魔方陣を書き込んだ紙を貼り付けている(「受信」の魔法には二種類有る。「思考」の受信と「魔力」の受信)。そして、魔方陣によって受信した魔力で、林檎を動かしているのだ。
内容に戻ろう。林檎狩りの目的。「受信」の魔方陣が書き込まれた紙を林檎から剥がす(燃やす、濡らす、破る、等も良し)、または林檎そのものを破壊する(「動作する事を不可能にすることを破壊と呼称する)。
先ほど記述したように、林檎は学園長の魔力で動いている。しかしこの場合の遠隔操作は学園長の意思を必要としない自動型である。故に、攻撃パターンが決まっている。
①自分を中心とした円1m以内に何かが入ってくれば動作を開始する。
②使う魔法は「炎」・「水」のみ。
③ランダムに学園長の言葉が再生される。
この三つである。
余談だが、この林檎狩りは合格までの時間が計られている。山本はこの林檎狩りを二分三十五秒でクリアした。
◇◇
/「林檎狩り」開始一分前
ドアを開け、入る。
山本に案内されたのは広さが教室と同じくらいで、窓が無い部屋だった。照明がついている。部屋全体が真っ白だ。白い壁紙、白い床、白い照明。いや、と七臣は思う。
赤だ。血を零したような赤。
部屋の中心に八十センチくらいの台が有り、その上に、林檎。「学園長」だ(正確には学園長が動かす受信機)。林檎の中心にある目は閉じている。既にこの「罰ゲーム」の内容を七臣は聞いていた。林檎を観察する。紙は確かについていた。これを剥がせばいいのか、と七臣は確認する。一度深呼吸。そして、踏み込む。「1m圏内」。
林檎の目が開く。
「ゲーム開始だ。着いてこれるかひよっ子さん?」