四月一日/「嘘の新年」
四月一日/「嘘の新年」/入学式
モニターに学園長(?)が映し出されている。場内で新入生たちがざわついた。司会役の教頭がそれを鎮める。「嘘の新年」、入学式の毎年の恒例行事である。「学園長からの有り難いお言葉」と教頭に紹介され、モニターに映し出された学園長。その容姿は、林檎であった。正確に言えば、林檎がベースであった。林檎の中心に大きな目が一つ、ついている(まるでギリシャ神話のキュープロクスのような目だ)。それから、林檎の下の方に設置されているのは? 埋め込まれているのは? 表現の仕方は分からないが、とにかく何かがついている。機械だ。長方形の銀色の機械がついている。その長方形から右、左にそれぞれ四本。計八本の細い針金のようなものがついている。「足」だ。それがかしゃかしゃと音を立てて、モニターに映っている。その大きな目がまばたきをする。シャッター音のような音。
「四月馬鹿ども」
合成音声で、嘘に騙された人――新入生――に林檎が語りかける。
「入学おめでとう。諸君らは学園に入学を許可された。これから君たちには数千、数万もの魔法公式、魔方陣を覚えて貰うことになる。君たちの頭は埋め尽くされるだろう。脳の容量は空けてきたか? 能力者諸君はまだしも、無能力者の諸君は大変な努力が必要になるだろう。もう死にたい! だとか、殺してくれ! だとか。そういう時には学園の優秀な教師陣に言うように。あらゆる手段、あらゆる能力、あらゆる魔法、あらゆる体術で、君たちを絞めて殴って切って煮て焼いて捻り切り磨り潰し――殺してくれるだろう。よく聞け、義務教育は終わった。君たちは魔力を持っているから此処に来た。もう遊びの時間は終わったんだよ。終わったんだ」
林檎中央の目が三日月状に歪む。笑っているのだ。
「以上をもって、異常を持って! 学園長からの有り難いお言葉とする。諸君、」
映像が消える。モニターは黒一色。
「今日はエイプリルフールだよ。全て、嘘という事にすればいいさ!」
合成音声だけ。
四月一日/1-A
七臣は溜息をついた。入学式が終了し、そのまま能力査定が行われ、クラスが割り振られて(能力の有無、性質などを考えて割り振られるらしい)、教室に入れたのが入学式から六時間後。既に時刻は三時頃だ。一時頃には帰れると思ってた、ともう一度溜息。それから、何故このA組だけ教室が五階の離れの離れなのか、とも溜息。他の一年生は四階、僕たちは五階じゃあ差別じゃないか、と七臣は考える。それから、七臣は周りを見る。十八人――七臣はカウントする。自分合わせて十九人。自分の後ろの席が一つ空いているだけだから、クラスの人数は二十人。みな大人しく椅子に座っている。入学一日目だから、こんなものか、と考える。
がらり、と教室の戸が開く。みながそちらに目を向ける。戸を開けた主――長身の女――は、「ひ!」と小さな悲鳴を上げた。みなの注目を浴びて吃驚したのだろう、と七臣は推測する。長身の女は腰を曲げて、頭をぺこぺこと下げながら移動し、七臣の後ろの席へ座った。ショートボブの髪が少し揺れる。色白で、鼻筋が通っている。目は大きく、まつげは長い。唇は薄いピンク。
――さて、突然であるがここで七臣について説明しよう。
七臣蔵人。十五歳。能力持ち。水系、氷系、縛系魔法が苦手(魔法はあまり得意ではない)。体術は得意。黒髪。髪型ツーブロック。眉にかかる程度の前髪。色は日本人の平均程度。右耳にピアス三個。舌にも一つ。左胸、右肩甲骨にタトゥーあり。あまり素行のいいようには見られないが、性格は世間一般の不良のイメージのように、見栄っ張りだとか、派手好きだとか、そういったことはない。能力については今は記述しないが、生まれたときから能力を発現していた、先天性。その他特筆すべき点はない。ないが、強いて言うなら――
――彼は超肉食系男子だった。
七臣は立ち上がる。椅子ががたりを音を立て、周りの注目が七臣に向く。後ろの長身の女生徒の机にだん、と手をつける。また、ひ、と小さな悲鳴をあげる女生徒。
「お名前は!?」
七臣は大きな声を出す。周りの生徒達が怪訝な顔をする。え、と長身の女生徒は聞き返す。お名前は!? とまた同じ質問をする。女生徒はしどろもどろになりながら、答える。
「は、花村……夏木です」
「ナツキ!」
「は、はい!」
ナツキは思わず背を伸ばす。七臣はぐい、とナツキに顔を近付ける。鼻と鼻が触れ合う位の距離だ。
「僕とセックスをしよう!」
七臣蔵人の不名誉な異名の理由は、ここから来ている。
「子作り」――入学初日に決まった、彼の異名の一つだ。