第297話 京都の暑さにやられた男 1
学生の頃の話。
真夏の京都で卓球の大会が行われた。
全国から大勢の選手が参加したが、その中でもひときわ目立つ男がいた。
その名は北大のジャージマン!
選手は皆ゼッケンをつけているから、何処の誰ということはすぐに分かる。
その男はクソ暑い京都でも終始ジャージを着ていた。
そして試合の時だけジャージを脱ぐ。
ユニホームの背中には北海道大学、何某と書いたゼッケンが貼ってある。
でも、誰も何某という本名で呼ぶものはいなかった。
北大のジャージマン。
その二つ名だけが大学の壁を越えて拡がっていった。
何故、彼はいつもジャージなのか?
あんな格好で暑くないのか!
わざわざ夏の京都で、頭がおかしいんじゃないか。
否、そんなはずはない、なんといっても北大だぞ。
陰で皆が彼の噂をしていたが、本人は飄々《ひょうひょう》としていた。
さて、大会も大詰めを迎え、いよいよ最終日の前夜。
レセプションが行われた。
大方の選手が参加している。
そこで主催者が舞台に引っ張り出したのが北大のジャージマンだった。
そして誰もが知りたい質問を彼に投げかけた。
「なんでまた、夏の暑い中、わざわざジャージを着ているのですか?」と。
するとジャージマンは意外にも説得力のある答えを返してきた。
「いや、その。北海道にいるとですね、京都は暑い、暑いと聞かされるものですから」
初めて聞くジャージマンの声だが、驚くほど普通のしゃべり方だ。
「それで、普段からジャージを着ておいて試合の時だけ脱いだら涼しく感じるのではないかと思ってですね」
なあんだ、そんな事か。
やっぱり頭がおかしい。
でも、そういう考え方も無いわけでもないんだろうな。
「あまり皆さんがジロジロと僕の事を見るものですから、なんか急にカッコ良くなったのかと思って喜んでいたのですが」
はあ?
何を言い出すやら、この人。
「僕がジャージを着ていたから注目されていたんですね。なんか納得しました」
あまりにも馬鹿馬鹿しい理由ではあった。
でも、主催者までが同じ疑問を抱いていたことが驚きだった。
紛れもなくあの夜の主役だった北大のジャージマン!
今は何処で何をしているのだろうか。




