第274話 あの頃アホだった男 1
「あの頃ぼくらはアホでした」というタイトルの本がある。
ミステリー作家、東野圭吾氏のエッセイ集だ。
主として学生時代のエピソードを語っている。
若い男ってのは例外なくアホだ。
オレもアホだった。
そんな話はいくらでもあるので少しずつ紹介したい。
今回は小学校6年生の時の話。
家が同じ方向のオレたち4人が下校する途中の事。
中学生3人組にでくわした。
小学校の塀に登って校庭を覗いていたのだ。
何をしているのかと思ったオレたちは知らないうちにジロジロ見ていたようだ。
見て見ぬふり、などという大人の対応を小学生に求めても仕方ない。
当然、中学生たちは怒り始める。
「おい、何を見てんだ!」
「文句あるのか?」
そう言われてオレたちは謝った。
というか、謝る以外の選択肢はない。
そのまま50メートルほど行き過ぎたとき、何となく4人で立ち止まった。
「あのさ、ここにいる全員、リレーの選手だよな」
何の偶然か、オレたち4人はクラス対抗リレーの代表選手だったのだ。
しかもその年には優勝もしている。
考えている事は4人とも同じだった。
全員で振り向いて中学生に罵声を浴びせた。
「バッキャロー!」
「何を覗きなんかやってんだー!」
遠目にも分かるくらい中学生たちは怒った。
そしてオレたちを追いかけてくる。
50メートルもあれば楽勝とばかりオレたちは走って逃げた。
道の突き当りは三叉路だ。
そこを二手に分かれて逃げる。
逃げて逃げて逃げ倒して「もう大丈夫」という所まで逃げた。
「じゃあな」
一緒に逃げていた速見に声をかけて別れようとした瞬間、息が止まった。
目の前の交差点に中学生が居たのだ。
幸い、オレたちには気づいていない。
速見とオレは来た道をそっと戻る。
途中で振り返ったときに、中学生もこちらに気づいた。
猛然と追いかけてくる。
再び走って走って走って……逃げた。
もう少しで中学生の手が背中に触れそうになる。
逃げながら速見が「もう無理だ、謝ろう」と声をかけてくるが、オレは無視して走った。
結局、気づいたらオレたちは隣の校区にまで入り込んでいた。
これはこれで別の危険が潜んでいる。
そこの学校の連中に絡まれるかもしれないからだ。
そういうわけで、四方八方に目を配りながら路地裏を伝い、ようやく家に辿り着いた。
この日はこれで済んだが、この話には続きがある。
1週間ほどして件の中学生にバッタリ出くわした。
むこうは1人、こっちは速見とオレの2人だ。
オレたちは先手必勝とばかり平謝りに謝った。
「俺はいいけどな、後の2人が無茶苦茶怒ってたぞ」
「ヒエーッ!」
「お前ら見つかったら殺されるかもな」
「すいません、すいません」
余計なことをしたばかりに大変な事態を招いてしまったのだ。
幸いなことに、その後は中学生3人組に会うことはなかった。
だから殺されずに済んでいる。
それにしても「あの頃ぼくらはアホでした」以外の言葉が見つからない。
呆れた話だ。




