第12話 律儀に納税する男
今年の確定申告も無事終えることができた。
通常、勤務医はアルバイトなど、あちこちから収入がある。
なので税金の計算が難しい。
申告納税額の数字がピタッと合った時には理屈抜きに嬉しい。
支払う税金の多さに愕然とするのはその後だ。
米国在住時代も別の意味で確定申告は大変だった。
J2ビザで渡米してJ1ビザに切り替え、複数の収入源のある外国人というだけで既に複雑怪奇な設定だ。
おまけにその年の7月に帰国することになっていた。
オレたち夫婦が頼んだのは外国人の納税に詳しい公認会計士、ジムだ。
「今年帰国するんだったら後半の分の納税はどうする? 米国にしてもいいし日本で納税してもいいんだけどな」
ジムにそう尋ねられた。
「米国からの収入は米国で納税し、帰国後の収入は日本で納税したいのですが」
「ほお、律儀な奴っちゃ。内国歳入庁も日本の国税庁も喜ぶだろうな!」
別に律儀でそうしようってわけではない。
「いや、米国も日本も累進課税でしょ? そうするのが合理的なだけですよ」
それはこういう理屈だ。
たとえば米国から500万円、日本から500万円の収入があったとしよう。
両国とも税率が10%なら、それぞれ別に納めると50万円+50万円の合計100万円で済む。
しかし、米国と日本の収入を合算して1000万円にしてしまうと、累進課税で20%の税率がかかってきた場合、全体で200万円の所得税になってしまう。
どちらを選択すべきかは明白だ。
もちろん例をあげてジムに説明する必要はなかった。
「そうか、確かにそうだな!」
瞬時にオレの意図を悟ってくれたようだ。
「お前らみたいな依頼人ばかりだと俺も嬉しいんだけどな」
「色々なお客さんがいるわけですね」
「そのとおりさ」
医師も客商売だから、彼の言いたいことはよく分かる。
「とにかく米国での収入についてはこっちで手続きしておくから、また何か困った事があったらぜひ俺に声をかけてくれ!」
オレたちはガッチリと握手した。
納税という楽しくないイベントではあるが、一緒に困難を乗り越えた、という連帯感と達成感があった。
毎年、確定申告の季節になるとジムとともに頑張った日々を思い出してしまう。




