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第675話 普段着の男

「明けましておめでとうございます」


 正月の休み明けに声をかけてきたのは厚生労働省の医系技官だ。

 彼は災害担当者でもある。

 たまたま病院内の敷地で出くわした。

 能登半島で大地震が起こっているというのに、何でこんなところを普段着でフラフラと歩いているわけ?


 いつものスーツではなく、かといって白衣でもスクラブでもない。

 だいたいこういう人たちはいつもスキのない格好をしているはずなんだけど。

 ひょっとして地震のせいで正月にラフな格好で呼び出されて、そのままずっと同じ服を着つづけているのだろうか。

 災害担当者たちは本人自身が被災する事を想定して、東京への一極集中ではなく地方に分散配置されている。


「先生、大変な事になりましたね」


 とりあえずオレは驚いてみせた。


「いやあ、このタイミングで地震が来るとは思いませんでしたよ」

「どのくらいの数のDMAT(ディーマット)が出動しているんですか?」

「現在は80チームです」


 ウチの病院のDMATはまだ出ていないそうだ。


「金沢までは行けるんですけど奥能登はもう別世界です。道路が寸断されているんで被災地に到達するのが難しくて」

「船かヘリを使うしかないんでしょうか」

「そうなんですよ」


 まだ支援できていない広大な地域が残っているのだとか。


「しばらくDMATでつないでいく事になったんで、こちらの病院も週末にはお声がけさせていただくかもしれません」


 おっ、いよいよウチのDMATも出動かな。

 といっても、そっちは専門の人たちが行くのであまりオレたちには関係ない。


 オレが関係するのは医療支援班の方だ。

 自分の順番を確認しておかなくては、と思っていたら……どわっ!

 まさしく1月4日に当たっているじゃないか。


 まさか、今日いきなり出動という事はないよな。

 オレ、パンツの替えなんか1枚くらいしか病院においてないし。


 そう思っていたら夕方になってから業務連絡があった。


 当院のDMATは1月6日に出動、医療支援班の方は1月8日に出発なんだそうだ。

 助かった!


 どれどれ、1月8日に当番に当たっている人は誰かな?


 まず内科系は神経内科の恐山おそれやま部長。

 部長、まだまだ若いモンには負けていませんよ!


 外科系は耳鼻科の中堅、鼻谷耳郎はなたに じろう先生。

 先生っ、頼りにしています!


 そしてレジデントは膠原病内科のりゅう 真智世まちよ先生。

 何事も経験だから頑張ってね。


 若い人はともかく、恐山部長なんかを被災地に送ったりしたら、本人が体調を崩して周囲に迷惑をかけるんじゃなかろうか。


 少なくとも神経内科は一時的にせよ人手不足になるから残された者は大変だ。

 ひょっとして脳神経外科のうげか総合診療科そうしんにとばっちりが来たりしないだろうか?

 まさか耳鼻科に応援を求められる事はないにしても、神経内科だったら当直の交代を頼まれるくらいのことは十分にある。


 少しは心積もりをしておいた方がいいかも……



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