7/7
結び:蜀漢という泥舟を支配したマキャベリスト
費禕を「諸葛亮の正統な後継者」「蜀漢を支えた温厚な宰相」とする見方は、彼自身とその派閥が作り上げた精巧な虚像である。
史実の行間から見えてくるのは、政敵の不満を煽って密告し、政局の混乱に乗じて派閥を形成し、最高権力をもぎ取った生々しい「俗物」の姿であった。彼は乱世を生き抜くための類まれなる政治手腕と、驚異的な業務処理能力を持っていたが、そこに諸葛亮のような「公への献身」や「純粋な理想」は存在しない。
結果として彼が姜維を抑え込んだことで、蜀漢の命脈が数十年保たれたのは事実である。しかしそれは、国家の未来を信じてのことではなく、単に彼自身が「最高権力者としての安らかな地位」を一日でも長く満喫するための方便に過ぎなかったのではないか。
費禕の生涯は、滅びゆく蜀漢という泥舟の中で繰り広げられた、最も冷徹で、そして最も人間臭い権力闘争の記録なのである。




