第6話 ポイントとプライムと大きなお買い物
政府の制度発表まで数日。
俺たちは「いざ選ぶ時」が来る前に、
“準備だけはしておこう”という話になった。
危険かどうかは別として、
“未知の場所”に挑むのは確定だ。
装備は必要。
防具も必要。
そして――
「……どのアカウントで買うと一番ポイント付く?」
義母の一言で、
我が家で“地味だけど重要な会議”が始まった。
◇ ◇ ◇
食卓に家族全員集合。
義父が腕を組み、
義母が書類を持ち、
美咲がメモ帳を構え、
俺がノートPCを開き――
義叔父(本人)はソファでやや居心地悪そうに正座している。
「まず、楽天」
義母が静かに言う。
「誰が一番ランク高いの?」
「……俺だな」
義叔父が手を挙げた。
全員の視線が集中。
「おじさんかよ!!」
「お前か」
「またアナタなの?」
義叔父、胸を張る。
「――楽天ダイヤモンド会員様だ」
「さも当然みたいに言わないでください」
「アンタ、そんなに買い物してたの?」
「ちょ、ちょっとだ!! ちょっとした“生活用品”だ!!」
「“生活用品”って言える顔じゃないわよその目線!」
「大体、
昨日“保険代ない”って土下座した人間が、
楽天ダイヤモンドって矛盾がすごいからな?
絶対前々から買い物してたろ!」
「レベルだけ高い無課金ゲーマーみたいな言い方すんな!!」
◇ ◇ ◇
「じゃあ Amazon は?」
美咲が質問する。
「俺だな」
義父が即答した。
「プライム?」
首肯するお義父さん。
(義父……
静かに文明の真ん中にいたんだな……)
◇ ◇ ◇
「じゃあ結論」
美咲がメモ帳にまとめる。
•楽天 → 義叔父のアカウント
※ダイヤモンドの恩恵を受けるため
•Amazon → 義父のプライム
※発送速度と信頼
「これでいい?」
「異議なし」
「お母さんも賛成」
「俺も賛成だな」
全員一致。
――と思った、その時。
「ちょっと待て」
義叔父が、唐突に手を挙げた。
「……なんですか?」
「確認したいことがある!」
義叔父、真剣な顔。
「楽天のアカウントで買うのはいい。
いいんだが――」
一拍置いて。
「買い物履歴はプライバシーだからな!!」
リビングが静止した。
「……は?」
「ぜっっっっっっっっったい見るなよ!?
約束だからな!?
男同士の約束だからな!?
“うっかり覗いた”とかもダメだからな!?
“管理で必要だから”とかもダメだからな!?
見たら人として終わりだからな!!?」
「言い方が犯罪者寄りなんですよ」
「“普通の買い物”しかしてないなら堂々としなさいよ!」
「普通だ!! 普通だよ!!
ちょっと“気になったものを買っただけ”だよ!!」
「それが普通じゃないやつの言い方だっての」
◇ ◇ ◇
俺は静かにノートPCを回した。
「じゃあ、
今すぐログインして、必要なものを買い物かごに入れてください」
「了解!! お安い御用だ!!!」
義叔父、謎の満面の笑顔。
逆に怪しいけど、俺はしっかり肯定した。
「確かに購入履歴はプライバシーを守るべきですからね。触りませんよ」
楽天サイト、ログイン。
買い物かごが自然と目に入る――
表示。
⸻
買い物かご(49)
⸻
「お前ーーーーー!!!!」
全員のツッコミ炸裂。
「49!!?」
「“欲望の倉庫”かてめぇは!!」
「違うんだって!!
ただ“気になったものを一旦入れといた”だけなんだって!!」
「それを世間では“買う気満々”って言うの!!!」
◇ ◇ ◇
そして――
俺たちは、“スカイラインより衝撃的なリスト”を見ることになる。
•3D振動マシン ×2
→ 「筋肉が勝手に鍛えられるらしい」
•意味が分からない形のダンベル
→ 「握ると強くなるらしい」
•謎の青い光を放つ美顔器
→ 「疲労に効くって書いてた」
•自動で姿勢を矯正するベルト
→ 「腰が治るらしい」
•自宅サウナテント
→ 「ととのうらしい」
他多数。
「心も体も人生も揺さぶられすぎだろ!!!」
「一回現代医療に相談しろ!!」
「なんで“治療よりガジェット”に走るのよ!!」
「まだ買ってないんだから許せよ! ポイント10倍の日に買う予定だったの!!」
「堂々と言うなよ! 止めれて良かったよ!」
◇ ◇ ◇
義叔父、汗だくで叫ぶ。
「違うんだ!!!
俺はただな!!!
“健康でいなきゃ”って思ってんだよ!!!
だって昨日、
“守られない側の人間”って突きつけられたんだぞ!?
怖ぇよ!!!
だから“健康”に全振りしたくなるだろ!!!」
……それは、
ちょっとだけわかる。
義母が、ため息をついた。
「もう……
だからまず病院行きなさいよ……」
義叔父、撃沈。
「正論すぎて刺さるぅぅぅ……」
◇ ◇ ◇
結局――
「楽天は必要なものだけ。
“3D振動マシン以上の揺れ物”は権限剥奪」
義母の裁定。
「Amazonは義父管理。
必要装備は俺と義父で相談」
俺の提案。
義父、強く頷く。
「振動より、現実を固めるぞ」
「名言ですねそれ」
◇ ◇ ◇
こうして、
“家族でダンジョン装備を買う”という、
本来ならあり得ない会議は、
笑って、
怒って、
ちょっと泣いて、
でもあたたかいまま――
終わった。
(……こんなやつらと一緒なら)
未知の世界でも、
ギリギリ笑える気がした




