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家族でダンジョン管理しています ──日本を守るのは一軒家でした。  作者: 鳥ノ木剛士


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第4話 守りたいのは“車”と“家族”

翌朝。

俺が目を覚ました時には、もう義父と義叔父は外に出ていた。


 嫌な予感しかしない。

 急いで顔を洗い、ジャージのまま庭へ出る。


「――おはよう」


「おう悠斗! 起きたか!」


 そこには、

 スカイラインの周りに集まった大人たちの姿があった。


 義父、義叔父。

 そしてなぜか真っ白いシャツにネクタイを絞めた二名。


......どう見ても無理やり駆り出された役場職員だな。


(いや、朝から何やってんのこの人たち)


「これは……?」


「“スカイライン沈没防止緊急対策会議”だ」


「名前がふざけてる!!」


「いや真剣だぞ!? マジで沈んだら俺の人生が終わる!!」


 義叔父が魂の叫びをあげる。


 その横で義父が淡々と言った。


「とりあえず車の腹下の穴に鉄板を被せる。

 その上にタイヤを少しずつ乗せる。

 完全に安定したら、手動で押して安全圏まで移動」


「現場の判断がプロすぎる」


 どうやらすでに

 “市役所→危険だけど慎重にやるならOK”

 の許可も取ってるらしい。


(許可を回したのは木村さんか。本当にお疲れ様です……)


◇ ◇ ◇


 鉄板。

 重量のある産業用のやつ。


(どこから出してきたんだこれ)


 疑問はあるが、聞かない勇気も大切だ。


「よし、行くぞ!」


 男たち総出で慎重に鉄板を運び、

 階段の上に――


 ガコン。


 ぴったりハマる音がした。


「うおおおおおおお!!」


 義叔父が無駄に叫ぶ。


「まだだまだだ! 本番はここからだからな!!」


「アンタ、朝からテンションどうしたの」


 義母が呆れた顔で腕を組む。


「よし、押すぞ!」


 役場職員さん含む男五人で、スカイラインを押す。


「せーの!」


 ぎぎぎぎ、とタイヤが鉄板の上をゆっくり移動する。

 鉄板がわずかに沈む。


(やばい! 沈む!?)


「大丈夫だ、許容範囲!!」


「何その命がけの測定!?」


 義父の声と、

 義叔父の祈りが

 勢いで空に溶けていく。


 やがて――


「――抜けた!!」


 車は無事、安全圏へ。


 義叔父が、その場に崩れ落ちた。


「……助かった……!

 ありがとう……ありがとうスカイライン……!!」


「いや感謝の方向性違う」


 俺は思わず笑ってしまう。


 その瞬間――


「……ねぇ」


 背中に、ひやりとした声。


 義母だった。


 義母は静かに、しかし確実に怒っていた。


「とりあえず無事はよかったわ。

 でも――確認したいことがあるのよね」


「……はい?」


「保険証、出して」


「……え?」


「車と家の整理してるときにね。

 “あれ? この人の保険、やたらスカスカじゃない?”ってね。

 昨日、役場の人に提出書類確認してもらってるときにも、言われたのよ」


 義母、にこり。


 笑顔。

 でも、怖い。


「ちょっとお義母さん、どういう……」


「この人ね」


 義母が、義叔父を指差す。


「独身ってことで、保険全部解約してスカイラインに全振りしてたの。」


「………………………………」


「………………………………」


「………………………………」


 一瞬、世界が止まった。


 義父が、ぎり、と歯を鳴らす。


「おい」


 声が低い。


「説明しろ」


「いや違うんだ兄貴!! 違わねえけど違うんだ!!」


「どっちだよ!!!」


 俺もツッコミを入れずにはいられない。

役場職員はそそくさと退散して行った。


◇ ◇ ◇


 義叔父、白状した。


 ――保険のほぼ全て

 → スカイライン維持+修理+事故時全力保障プラン


 ――家族保護系

 → 最小限どころか、ほぼ“無”


「お前なぁああああ!!!!」


 義母、半泣きで怒鳴る。


「死んだらどうするつもりだったのよ!!」


「スカイラインと心中する気だったのか!?」


「すみませんでした!!!」


 義叔父、土下座。


 本気のやつ。


「違うんだ!! 俺はただ!

 “俺には守るべき女房も子もいねえ!

 でも守りてぇもんはある!”って思って!!」


「泣けるようで全然泣けない!!」


 俺は限界だった。


「お義母さん!

 これ、いつ見つけたんですか!」


「昨日よ!!

 ニュース見て不安だから、念のため保険とか再確認したのよ!!

 そしたら!!」


「なぜこんな大事件の日に発覚するんだ!」


「物語的にタイミングが悪すぎる!!」


「うるさい!!」


 義母が叫ぶ。


 次の瞬間――


「でも……」


 声が震えた。


「でも、死なないでよ……

 お願いだから、生きててよ……

 車より、自分大事にしなさいよ……」


 涙がぽろぽろ落ちる。


 義叔父は、顔を上げられなかった。


「……ごめんな……

 お前らがそんな顔するなんて思ってなかったんだよ……

 俺、馬鹿だったな……」


 義父が、静かにため息をついた。


「……今から見直すぞ。

 今すぐ、ちゃんとした保険入る。

 俺も一緒に確認してやる」


「兄貴……」


「お前は家族だ。

 死なれたら困るんだよ」


「……はい……」


 その光景を見ながら、

 俺は少しだけ胸が熱くなっていた。


(ああ――この家、いいな)


 面倒で、

 うるさくて、

 心配症で、

 でもちゃんと、

 お互いを 大事にしてる。


 だから守りたくなるんだろう。


 この家も、

 この土地も、

 この家族も。


◇ ◇ ◇


 その日のお昼。

 義母はいつものようにご飯を作りながら、

 テレビのニュースを睨んでいた。


『――政府、土地守護制度に関する法案を緊急検討へ』


「……“守る側”に回るなら、

 私たち、ちゃんと生きてなきゃだめね」


 義母の言葉に、俺は静かに頷いた。


(――守る)


 その言葉が、

 心の奥で、はっきりと形を作り始めていた。


 家族で守るか。

 国に預けるか。


 でも――


(この家族なら、きっと笑いながら守れる)


 そう思ってしまう自分がいた。


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