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家族でダンジョン管理しています ──日本を守るのは一軒家でした。  作者: 鳥ノ木剛士


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第34話 自覚するレベルアップ

 平日の朝。


 装備部屋と言うほど立派じゃないが、

 倉庫を片付けて「装備置き場」と呼ぶ場所ができた。


 棚に――

 盾。

 槍。

 バール。

 予備装備。

 救急道具。

 ライト。

 測定器。

 連絡端末。


 生活用品と軍用品の中間、

 そのどこかにおさまる空気。


 義父が盾を持ち上げる。


「今日も頼むぞ」


 革のストラップを腕に巻き、

 背中の筋肉が自然に締まる。


 盾の表面は、

 ほんの少しだけ実用的に光っていた。


 磨いただけじゃない。

“使われて馴染んだ”物の光。


 


 義叔父は、

 手にバールを転がして感覚を確かめる。


「なんかさぁ」


「ん?」


「……前より、振りやすい気がするんだよな、これ」


 


 俺は、自分の槍を握る。


 手の中で、

“ここだ”と言わんばかりに落ち着く位置が自然に決まる。


 持ち直さなくてもいい。


 最初から“正解の握り”になってる。


 


 義父がまとめるように言う。


「よし。

 盾は“守る”。

 バールは“崩す”。

 槍は“届かせる”。」


 義叔父が笑う。


「現場三点セットだな」


 俺は頷く。


「それと……」


 軽装ケースを指差す。


✔ 簡易救急

✔ 予備包帯

✔ 小型録画

✔ 測定器

✔ 栄養ゼリー


 義父が言う。


「命は、戦い終わってからも守るもんだ」


 

 

 準備は静かに済む。


 気合いを入れない。


 いらない。


 この家は、“無理をしない前線”だから。


 


 穴の前。


 息が整っている。


 体も。

 心も。


 義父が盾を前に構える。


 義叔父が一歩後ろ、やや斜め。


 俺は中央で槍。


 もう、説明しなくても身体が位置を取る。


 


 降りる。


 冷たい空気。


 湿った匂い。


 昨日と同じ。


 けど、

“完全に同じ”じゃない。


 


 ――スライムの気配がした。


 見えてはいない。


 音もしていない。


 暗闇。


 ライトを点ける前。


 でも――


「いるな」


 俺は自然に言っていた。


 義叔父が笑う。


「もうわかるのかよ」


 義父が静かに言う。


「……俺も、なんとなくわかる」


「兄貴までか」 


 ライトを照らす。


 そこに――

 本当にスライムがいた。


 


「ほらな」


 


 義叔父が前へ出る。


 バールのリーチ感覚が、

 昨日より“理解した動き”。


 無理せず。

 焦らず。

 一撃ずつ。


 ――割れる。


 


 その瞬間――

 光が揺れる。


 スライムの破片が飛んでくる。


 義父が盾を構える。


 


 “当たるな”


 そう思った瞬間、

 盾が少しだけ重くなった気がした。


 


「……固くなった?」


 声に出た。


 義父も驚いた顔で盾を見た。


「今、力入れた瞬間に――

 “止まる側の重さ”になった感覚があった」


 


 説明できない。


 でも“ある”。


 


 進む。


 さらに進む。


 奥へ。


 暗くなる。


 ライトの光を少し外す。


 


 ――見えている。


 薄暗いのに、

 輪郭がぼんやり落ちない。


 “気配”に形が付いてるみたいな視界。


 


 義父がボソッと。


「灯りない瞬間でも、

 “敵がどっちに意識向けてるか”

 なんとなくわかるんだよな」


 義叔父が笑う。


「頼もしいアップデートだな、おい」


 


 俺は盾の背中側を見た。


 義父の肩越し、

 盾の“感触”が伝わってきてる気がする。


 


 自分の槍もそう。


 “ここ”って場所が、

 最初から分かる。


 


 それを――

 多分、俺たちは

 まだ言語化できない。


 でも、

 確かに“手応え”になってる。


 


 スライムを数体処理。


 危険なし。


 深追いもしない。


 


 義父が言う。


「今日はここまでにするか」


 義叔父が大きく息を吐く。


「いい感じの“平日勤務”だな」


 俺は笑いながら頷いた。


 


 帰還。


 穴を出る。


 光。

 風。

 音。

 日常。


 義父が盾を置きながら言った。


「……強くなってる気がするんだよな、俺たち」


 義叔父が言う。


「でも“調子に乗るな”って言われてる気もするな」


 俺は笑った。


 


「まぁ――」


 槍を立て掛けて、

 息を整える。


 


「あとでレポートにまとめるか。」


 


 今日も “平日”だった。


 でも――

 少しずつ、

 前に進んでいる。

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