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家族でダンジョン管理しています ──日本を守るのは一軒家でした。  作者: 鳥ノ木剛士


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第32話 いつものメンバーで

評価、ブックマークを頂けますと、とても嬉しいです。

 その日の午後。


 家の裏――

 芝生の庭にタープを張り、

 炭火の上で網が赤くなる。


 いつもの家。

 いつもの風景。


 でも網の上には――

“ダンジョン産のタヌキとイノシシ”。


 妙な非日常と、

 驚くほど自然な生活感が同居していた。


 


 ジュウ、と脂が落ちる。


 煙と肉の香りが立ち上り、

 風に揺れて空へ消えていく。


 義父がトングを持ち、真剣な顔。


「……こういうのはな。

 焦らすんだ。

 急ぐと台無しだ」


 義叔父がビールを片手に笑う。


「戦場の顔と変わらねぇじゃねぇか」


俺は笑いながら紙皿を並べる。


 妻がタレを調合している横で、

 義母はおにぎりを山ほど作っていた。


 子どもたちは、

 網の横で跳ねるみたいにソワソワしている。


「まだー?」

「まだ焼けないー?」


 義父はわざと偉そうに言う。


「強い肉なんだからな。

 落ち着いて待つ!」


 


 そこへ――


 


「やぁ、

 本当に……呼んでいただけるとは」


 森下博士と木村が、

 少し恐縮した顔でやってきた。


 スーツ姿なのに、

 少し場違いなのに――

 でも、すごく馴染んでいる。


 


 義父が笑って手を振る。


「まぁ座れ。

 今日は仕事の話はナシだ」


 博士は少し照れ笑い。


「……ありがたい。

 仕事柄、“普通の家の匂い”を感じる時間が少なくてね」


 木村も笑う。


「いい匂いだなぁ。

 いや、本当に……いい匂いですね」


 


 その時、

 敷地奥の方で音がする。


 回収業者のトラック。

 解体小屋のシャッターが開き、

 防護服のスタッフが黙々と作業を進めていく。


 高圧洗浄機の音。

 器具の入れ替え。

 消毒。


 プロの仕事だ。


 


 木村が焼き網を見つめながら言う。


「……不思議な光景ですね」


 博士が微笑む。


「命を奪い、

 守り、

 研究して、

 制度に変えて――

 そして、

 “食卓に戻ってくる”。」


 


 義母が肉を子どもたちの皿に置く。


「ほら、冷めないうちにね」


「いただきます!!」


 


 横で義叔父がふと思い出したように言う。


「そういやさ」


 俺と義父が振り向く。


 


「槍はあるけどよ。

 間合いが近い武器もあった方が良いぞ。」


 俺は頷いた。


「確かにな。

 懐まで来られたら、槍って邪魔だし」


 義叔父は缶を口に近づけ――

 思い出したように言う。


 


「釣り好きだった“ぴい爺さん”いたろ?

 あの人が使ってたナタ。

 魚、何百匹も捌いてきたやつ」


 


 博士の目がわずかに動く。


 


 俺は呟いた。


「……命って、

 魚でも“数”で重さになるのかな?」


 義父が笑う。


「まぁ予備装備だ。

 持ってて困らん。


 それに――」


 義父の声が少しだけ真面目になる。


 


「気づいてるか?」


 俺を見る。


「ダンジョン内の汚れ、

 次に行くと全部消えてるんだ。」


 


 博士が顔を上げた。


 義叔父も頷く。


「血痕も、

 切り込みの跡もな」


 俺も言う。


「俺の止め刺しとか、

 あれ絶対残ってるはずなのに……

 次のダイブで行くと、綺麗になってる」


 


 博士が完全に仕事顔になる。


「――それは、

 非常に重要な観察だ」


 


 義父が静かに続けた。


「だから思うんだ。


 “ダンジョンの中で発生したもの”だけ、

 リセットされるんじゃないかって。」


 


 俺が言う。


「じゃあ――」


「血抜き、

 中で出来るってことか?」


 


 博士が、

 完全に驚いた顔をした。


「ま、待ちなさい」


 木村が笑う。


「博士、バーベキュー中ですよ」


 博士は真面目に続ける。


 


「ゴミや人工物は消えない。

 しかし――

 “ダンジョン発の現象や残渣”は消去される?」


 


 つまり。


✔ 血

✔ 体液

✔ 臓器


 内部“生体現象の痕跡”は

 ダンジョンが“処理”している可能性。


 


 博士は震える声で言った。


 


「――“汚染を外に持ち出させない機構”。

 それがダンジョンの“内側の掟”。」


 


 義叔父が肉を裏返しながら笑う。


「便利っちゃ便利だよな」


 義父も肩をすくめる。


「……ただし、

 外に出したゴミは外だ。


 ダンジョンの外は、

 俺らの責任だ」


 


 博士は、

 しばらく黙って――

 微笑んだ。


 


「……あなた方は

 “戦って”いて、


 “生活して”いて、


 そして、

 世界の仕組みを見つけていってくれる。」


 


 木村も笑う。


「だから、

 本当にありがとうございます」


 


 義母がトングを構えた。


「はい、難しい話はここまで。

 冷めますよ!」


 全員が笑った。


 


夕方の風が吹く。


煙が揺れ、

笑い声が重なり、

子どもが走る。


博士も笑い、

木村も笑い、

義父が笑い、

義叔父が笑い――


俺も笑った。


 


世界を守っている家族。


でも、

ただの家族。


 


炭の火が赤く揺れ、

音もなく“いつもの日常”を照らす。


これはバーベキューだ。


ただの夕飯だ。


でも――

“日本で一番尊い夕飯”かもしれなかった。

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