第31話 ネット界隈
その日の午後。
SNSは、
突然「温度」が変わった。
昨日まで――
「ダンジョンすげー」
「怖すぎるんだけど」
「国大丈夫か?」
そんな“遠くの話題”。
でも今日は違う。
まず、最初に火をつけたのは――
とあるニュース系まとめアカウント。
《速報》
某地方ダンジョン、
“突破寸前の大型個体”が確認されていたが――
現地管理家族が“阻止成功”。
政府は緊急会議を実施し制度を一段階進行。
一見、淡々とした記事。
しかし――
“阻止したのは自衛隊でも部隊でもなく《家族》”
その一文が、
ネットの心臓を掴んだ。
コメントが爆発する。
《家族って何???》
《民間人じゃないの……?》
《国、家族に頼ってるの?マジで?》
《いやこれ映画だろ》
《現代の桃太郎一家???》
そして――
映像切り抜きが拡散され始めた。
盾で踏みとどまる父親。
横から崩す叔父。
刺し込む――男。
家族連携。
必死で。
でも無茶じゃなく。
そして――
“守る顔”。
タグが生まれる。
#ダンジョンファミリー
#地上最前線は一軒家
#家族が国守ってる国
#あの家族ありがとう
#普通の家族が一番強い説
ある主婦アカウントが呟く。
《同じ朝ご飯食べて、同じ生活してるのに
あの人たちは“毎日、日本守ってる”んだって思ったら
なんか……泣きそうになった》
いいね、何万。
ある高校生が書いた。
《漫画でもやらないくらい熱い設定なのに
現実でやってる家族がいるのおかしくない??
尊敬通り越して意味わからんくらい凄い》
拡散。
医療従事者が呟く。
《現場で命を守る仕事をしてるけど、
“家族単位で命と国家を背負ってる人達”がいるって
心の底から敬意しかない》
賛同が広がる。
そして――
考察勢が動き出す。
《あいつらただ戦ってるだけじゃない。
“抑止力”になってる。
本気で“日本の未来時間伸ばした存在”なんだよ》
《全国のダンジョン活動が静かになった理由、
マジでこの家族が“地上への意思を折った説”
普通にあると思う》
それは陰謀論じゃない。
「嬉しすぎて信じたい話」でもなく、
“数字を見た人間が納得する話”になりつつある。
さらに――
“静かなタイプのファン”が現れ始めた。
《名前も顔も知らなくていい。
ただ無事でいてほしい。
それだけ願ってる》
《今日も、その家族が笑ってご飯食べてますように》
《あの家族の普通が、日本の普通を守ってるんだね》
拍手じゃない。
興奮でもない。
“祈りに近い感情”。
しかし――
同時に、違う温度の声も生まれる。
《国が家族に頼ってんの、普通に怖い》
《プレッシャーやばすぎんだろ》
《あの家族壊れたらどうすんの》
《守るの国の仕事じゃね?》
そして――
ゆっくり広がる、もう一つのタグ。
#あの家族を守れ
「頼る」
だけじゃダメだと、
ネットが勝手に理解し始めた。
ある大学生アカウントが言った。
《ヒーロー扱いじゃなくていい。
英雄化とか崇拝とかじゃなくていい。
ただ――“守られる側にしちゃいけない人達”を
本気で守ろうぜって話だろ》
拍手が生まれる。
ある老人が書いた短い一文が、
異様な勢いで拡散された。
《昔の日本は“村の長屋”が家族を守った。
今の日本は“国が、一軒家の家族を守る番だ。”》
画面の向こう。
どこかの家の一室。
テレビを見てる老人が呟く。
「……すげぇな」
スマホを見てる若者が言う。
「マジで、やべぇ家族だな」
コンビニの店員が言う。
「見た?あの動画……やばすぎでしょ」
サラリーマンが息をつく。
「頼もしいな、日本……まだ、戦える国だな」
“全国民が同じ家族を頭に浮かべる”ことなんて――
普通はあり得ない。
でも今。
日本は――
ひとつの家族を
「本気で意識」した。
そして、
誰かが言った。
ぽつり。
だけど――
とんでもない重さで。
《……この家族、半端じゃない。》
賛美でも、
宗教でも、
ヒーロー崇拝でもない。
ただ――
畏敬。
“守ってくれている家族”への、
心からの敬意。
それが――
日本のネットが出した答えだった。




