第19話 正式撮影とダイブ
腰カメラが、軽く電子音を鳴らした。
録画開始。
「――はいどうも!
ダンジョンファミリーチャンネルです!」
義叔父のテンションは安定して高い。
俺が被せる。
「映像は後で国が安全確認してからお送りします。
俺たちは帰ってから確認するタイプです」
義父が笑った。
「生放送は絶対できんぞこれ」
湿った階段を降りる。
音が吸われていく。
空気が、少し冷える。
そして――
広い空間に出た。
「あ、いるな」
ライトの先に、
半透明の塊。
ふよん、と揺れる。
スライム。
しかも――
大小バリエーション豊富。
義叔父が笑う。
「今日はスライム祭りか!」
義父が構える。
「油断するな。
“当たり前にいる奴”が一番事故る」
動きは速くないが、
跳ねる瞬発力が意外と鋭い。
俺が説明を口にする。
「――見てる人向けにも。
こいつら、叩き潰すだけじゃ止まらないタイプです」
スライムが跳ぶ。
義父が受ける。
義叔父が叩く。
俺が核を突く。
崩れる。
腰カメラは、
揺れずに捉え続ける。
「見ての通り、
“芯(核)みたいなもの”がある。
そこを壊したら止まる」
「くそ、教育番組みたいだな俺ら」
義叔父が笑いながら次を叩く。
スライムは何体か出た。
しかし――
慣れてしまえば作業に近い。
ここで、
義母の声が無線で入る。
『――ちりとり、準備してます』
義父が笑った。
「出番だな」
崩れきったスライムの残骸。
液体ともゼリーとも言えないそれを――
ちりとりで回収。
袋へ。
「これが一番効率いいらしい」
俺はカメラに説明する。
「洗える。
捨てられる。
地面を汚さない。
文明の味方、ちりとり」
義叔父が胸を張る。
「全国のホームセンター企業案件こないかな!」
義父が苦笑する。
「やめろ炎上する」
場が少し緩む。
だが――
一番奥へ進んだとき。
「……階段?」
そこには、
さらに下へ続く階段があった。
「降りるか?」
義父が言う。
俺は頷く。
「見るだけ見よう。
一番下まで確認して、撤退前提」
義叔父が息を整える。
「ホラーゲーム感出てきたな」
階段を降りる。
下の空間は――
広い。
でも静かすぎる。
空気が違う。
湿りが少し重くなった感じ。
違和感。
義父が小さく呟く。
「……なんか、いるな」
遠くで――
“ズルッ”と地面が擦れる音。
「イノシシか?」
いや――違う。
影が近づく。
丸い。
低い。
でかい。
横幅がすごい。
そして――
のそのそ歩いてくる。
「……タヌキ?」
義叔父が言った。
「デカいな!?」
通常のタヌキの
3倍はある。
でも――
かわいい顔してる。
問題は牙がちょっと長い。
爪も太い。
俺たちを見る。
止まる。
睨む。
それから……
ドスン と座った。
義父が息を抜く。
「攻めてはこないな」
義叔父が笑う。
「お前絶対食えるやつだろ……!」
森や山の古い伝承にある。
“化けるほど強くなるタヌキ”は
=生き抜いてる優秀個体。
肉は普通よりきれい、
なんて話も、ある。
いや、都市伝説かもしれないけど。
それでも――
こいつは“敵”だ。
ここに出てくる以上、
外へ出したら大事故だ。
俺は静かに前へ出た。
義父と義叔父がカバーする。
俺はいつも通り“正しい場所”を狙う。
喉元、
心臓方向――
躊躇せず刺す。
タヌキは、
ドス、と落ちた。
義叔父が息をつく。
「……今日はホラー回じゃなくて、
ジビエ回で済んだな」
義父は苦笑いする。
「編集される国の人、大変だなこれ」
俺は笑った。
「“将来の日本のためです”って顔で編集してくれるよきっと」
撤収。
デカタヌキを担いで階段を戻る。
腰カメラ、まだ回ってる。
5G圏に入る。
接続。
【映像送信開始】
木村さんの声が無線に入る。
『映像受信! 鮮明です! ありがとうございます!』
俺は軽く返す。
「こっちはこっちで――
解体、やります」
義叔父がニヤッと笑う。
「今日の晩飯、期待していいか?」
義母の声が返ってくる。
『“ちゃんと焼くなら”ね!』
美咲が笑う声も入る。
「今日は……
“普通に食べられる異世界”って感じで、
いい回だったんじゃない?」
俺は思った。
これなら――
まだ笑って続けられる。
まだ、“日常の延長”でいける。
今のところは。




