第18話 副業だけど主役じゃない
家に届いた箱は、またしてもそれなりに大きかった。
「……また増えたな、装備」
義父が苦笑しながら中身を覗く。
中から出てきたのは、
ヘッドマウントでもハンドカムでもない、
妙に無骨で、それでいてスタイリッシュなカメラだった。
「……ゴツい」
義叔父が素直な感想を言う。
森下博士が、軽く胸を張る。
「“あくまで副業扱い”なので――
戦いの邪魔にならず、記録として価値が高いことが条件でした。
我々研究員のデータ取りにもなりますので、昨日は最先端を」
そして、機能説明が淡々と続く。
● 自動水平補正
● 超強力ブレ補正(歩行・走行モード)
● 衝撃耐性(“かなり派手に転んでも壊れない”レベル)
● 防水・防塵
● 低照度撮影・ダンジョン向け調整済み
● 音声自動加工(声変換+周囲ノイズ処理)
● GPSは封印(位置特定防止)
「……普通に欲しいなこれ」
俺が言うと、博士は笑った。
「個人販売はしません。
“ダンジョン前提カメラ”ですから」
義母が指をさす。
「で、問題は“どこに付けるか”よね?」
そう、最大の課題はそこだった。
手持ちは論外だ。
撮影は副業。
“戦いの邪魔をしない”が絶対条件。
義父が提案する。
「胸、だな。
両手が塞がらない」
義叔父は首を振る。
「でも胸だと、
“盾役の視界”になっちまう。
近すぎる映像増えそうだぞ?」
それはもっともだった。
俺はカメラを持ち上げて、
ヘルメット装着用アタッチメントを見る。
「頭は?」
博士は少し考えて、静かに言う。
「……頭は、
“危険な瞬間に一番揺れます”」
確かに。
受け止める瞬間。
横から殴られる瞬間。
軽くぶつかる瞬間。
全部“頭”が揺れる。
義叔父が頷く。
「臨場感は出るけど、
見てる人は酔うな」
少し沈黙。
そこで――
義母が言った。
「腰は?」
全員、同時に義母を見る。
腰。
重心の中心。
最も安定する場所。
博士が軽く手を打つ。
「それは――
非常に理にかなっています。」
腰=身体の軸。
揺れ幅が頭より圧倒的に少ない。
両手フリー。
胸より視野が広い。
義叔父が笑う。
「つまり――
“腰カメラの時代”か?」
義父が苦笑した。
「なんか格好いいのか格好悪いのかわからんな……」
美咲が笑う。
「でも、“ちゃんと戦えて”“ちゃんと撮れる”なら、
それが一番だよね」
博士が補足する。
「子供に見せる教育映像としても、
“揺れないこと”は非常に重要です。
ヒーローがずっとガチャガチャ揺れてたら、
ただの酔うヒーローです」
義叔父が吹いた。
「酔うヒーローやだな!」
――そして、最終的に決まった。
● メインカメラ → 腰(中心視点担当)
● サブ(必要時) → 胸 or 盾側
● 手持ちは“絶対にやらない”
「撮るのが目的じゃないからな」
俺は言う。
「“残す”ため。
“伝える”ため。
でも――
“帰ってくるための邪魔”は絶対にしない。」
義母は安心した顔で頷く。
「それでいいわ」
美咲も頷く。
「……楽しみだね。
“怖い世界”を、
“家族の目線でちゃんと見せられる”ってことが。」
義叔父はニヤニヤしている。
「登録者100万人まであと何歩だ?」
義父が静かに言う。
「まずは――
“ちゃんと撮って、ちゃんと帰る”だ」
腰に付いた黒いカメラは、
変に主張しないのに妙に存在感があった。
冒険の“主役”にはならない。
でも――
確かに、“歴史”を残す役だった。




