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家族でダンジョン管理しています ──日本を守るのは一軒家でした。  作者: 鳥ノ木剛士


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第17話 それはただの「夕飯」だったはずなのに

 夕方の台所。


 コンロの火が静かに燃えて、

 換気扇の音が少しだけ大きい。


 義母と美咲が、

 並んで台所に立っていた。


 まるでどこにでもある家庭の、

 いつもの夕飯作り。


 ――ただひとつ違うのは、


“ダンジョン産の肉”

 

 だということだった。


 



◆ 調理の光景


 義母がパックを覗いて言う。


「……これ、

 “モモ肉”らしいわね」


 美咲が秤を見て頷く。


「たぶん、2キロくらい?」


「そうだみたい」


 義母は真顔で“衛生モード”に切り替える。


「寄生虫系は、

 “普通のイノシシ”と同じ基準で見たほうが安全ね」


「うん。

 “普通の世界の常識”は守ろう」


 二人は確認する。


✔ 低温放置せず冷蔵

✔ 血抜き完了

✔ きちんと洗浄済み

✔ 加熱前のチェック


 そして――


 義母が、

 少し不思議そうに首を傾げる。


「……あら?」


「どうしたの?」


「出てこないのよ」


 美咲は手を止めた。


「なにが?」


 義母は包丁の先で表面を軽くなぞる。


「普通なら……

 火を入れる前に、

 表面から“◯◯”って、

 こう、にょろっと顔出すことがあるんだけど」


「――いないね」


「いないのよ」


 二人、黙る。


 火をつけて――

 表面を軽く焼く。


 ジュワァァァァ…と脂の音が広がる。


 しかし、


✖ 飛び出してくるもの、なし

✖ 不穏な挙動、なし

✖ なぜか妙な異臭、なし


 義母がぽつり。


「……“綺麗すぎる”のよね」


 美咲は笑う。


「ダンジョン検査通ってるし……

 清潔ってことにしとこうよ」


 義母は、

 しばらく黙ってから笑った。


「そうね。

 “ちゃんとした、普通以上の肉”として扱いましょう」


 





 義母がスライサーを取り出した。


「ああ、スライサー買っといて良かったわね」


 美咲が笑う。


「生活感あるわぁその台詞」


 スライスされる肉は――


✔ 筋はあるのに硬くない

✔ 赤身なのに締まりすぎてない

✔ なのに脂がない

✔ なのに柔らかい


 矛盾の塊みたいな肉だった。


 





 フライパンでしっかり目に焼く。


 塩。

 胡椒。

 ほんの少しのバター。


 香りが、家を満たしていく。


「……いい匂い」


「イノシシっぽい臭み、ほぼ無いわね」


「うん、

 “野生!ザ・ワイルド!!”って感じじゃない」


 皿に盛る。


 フォークが入る。


 スッ、と。


「柔らか……!」


「脂がないのに?

 嘘でしょ」


 ひとくち。


 


 ――静かになった。


 


 義母、目を見開く。


 美咲、固まる。


 


「…………」


「…………」


 ごくん。


 同時に言った。


「なにこれ」


 



◆ “普通じゃない普通”


 想像していた。


 アスリートみたいな、

 筋肉質で固めの肉かと思っていた。


 でも違った。


 


✔ しっとり

✔ なのに弾力

✔ でも歯切れが良くて

✔ パサつかず

✔ 無駄な脂がないのに

✔ 不思議なくらいジューシー


 


「……健康に良い味がする」


 義母が真顔で言う。


「語彙力どうしたの義母さん」


「だってそうなのよ!」


 美咲も笑う。


「わかる、

 “体に悪い贅沢感”がないんだよね」


「そうそう!」


そしてもう一口。


 


 噛むほどに――

“栄養が入っていく感じ”。


 満腹感とは違う。


 満たされる、という感じ。


 



◆ 気のせい、というには強すぎる


 食後。


 少し時間がたって――


 義母が肩を回した。


「あら」


「どうしたの?」


「……体が軽い気がするのよ」


「気のせいじゃ?」


「気のせいかもしれないけど――

 “ただ元気”じゃなくて、

 “中から軽い”のよね」


 美咲も、胸に手を当てて言う。


「私も……

 なんか、

 “立ってるのが楽”になった感じする


 気のせい――

 なのかもしれない。


 でも。


✔ 疲れが“減った”感覚

✔ 体の中心に一本“芯”が入ったような安定感

✔ 呼吸が深くなる


 


 義母は、

 笑って言った。


「ねえ、これ――」


「うん」


「“生きるのがちょっと楽になる肉”じゃない?」


 美咲も笑う。


「……怖いよそれ」


 でも、

 笑顔は止まらなかった。


 



◆ そして夕方


 鏡を見る。


 美咲は違和感に気づいた。


「……あれ?」


 義母も気づいた。


「え?」


 


 顔色が――いい。


 


 翌朝、いつもよりファンデを厚く塗る必要がない。


 肌艶がほんの少し、

 光っているように見える。


 毛穴が目立たなくなっているような。。。

 


 美咲は冗談めかして言う。


「これさ。

 毎日食べたら――

 どうなるんだろうね」


 義母は、

 ちょっと怖そうに笑いながら。


「“生きる力が強くなる”肉……

 って言われても、信じるわね私」


 二人は笑い合った。


 ただ――

 その笑いの奥で。


 


存在感プレゼンス”が

 ゆっくり、確実に

 上がっていることに――

 まだ、はっきりとは気づいていなかった。


 


 でも確かに感じていた。


「最近、

私たち――

少し、強くなってる気がするね」


 


 それは――

 ただの夕飯のはずだったのに。


 世界を少し、

 前に押す夕飯だった。


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