第15話 支給品と、副業の話
正式契約が済んだ翌日。
家の前に、
再び車が停まった。
今度は――
“箱”が多い。
義叔父が玄関を開けて叫ぶ。
「……なんだこれ、通販番組の当たり日か?」
義母が吹く。
「さすがに楽天じゃないでしょ」
木村さんが苦笑しながら言った。
「本日――
支給装備のお届けと、生活制度の説明です。
本格的に、“体制が整った”ということですね」
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◆ 支給装備、開封
テーブルに並ぶ、大型ケース。
「まずはこちら――」
蓋が開く。
中には、防具。
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・軽量防刃ジャケット
・衝撃吸収インナー
・耐切創グローブ
・強化フェイスシールド
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義父が感心する。
「プロが使うやつじゃないか」
「プロが使うやつです」
森下博士が即答した。
「あなた方は、
**“素人では困るが軍人でも困る枠”**なので……
ちょうど中間の実戦クラスを用意しました」
義叔父がジャケットを着て、
肩を回す。
「軽いな……
それでいて、安心感ある」
博士が笑う。
「“安心して動ける”ことは、
存在感の保持にも重要ですからね」
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◆ 武器ではない“武器”
次の箱。
「こちらは――武器ではありません」
最初に、念を押された。
「“武器”を支給することは、
法制度上まだ困難です」
義父が頷く。
「まあ、そうだろうな」
だが、中身を見て――
全員が言葉を失う。
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・特殊合金製ツールロッド(槍状にも棍棒状にも組み替え可能)
・耐久性の高いフック
・多用途切断ツール
・伸縮式リーチ補助
・カメラ兼センサー付き先端モジュール
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義叔父、震える声で言う。
「これ……武器じゃねぇのか……?」
博士が小さく笑う。
「“工具”です」
堂々と言うな。
「“あなた方が扱いやすい形状”であり、
なおかつ“武器とは分類されないもの”
これが、今の国の精一杯です」
義父が俺を見る。
「……お前のナイフが“主軸”で、
これは“補助”ってことだな」
俺は頷く。
(でも――
本気で俺たちを“戦力”として見ている)
改めて実感した。
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◆ あの肉、食べたか?
次の書類。
「――さて、生活の話も」
担当者が言った.
「まず……
“例の肉”、食べましたか?」
義母が手を上げる。
「一応――
自己責任で、少しだけ。
ちゃんと処理して、火も通して……」
担当者は頷く。
「それで構いません。
把握していれば問題ありません」
義父が聞く。
「危険性は?」
博士が答える。
「“未知”です。
ただし、現時点では
“即危険”という報告はありません。」
ただし――と続く。
「“売る”ことは、
絶対に禁止です。」
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◆ 毎日、回収が来る
担当が静かに告げる。
「肉や内臓、その他“出たもの”は――
国が管理します。」
そして――
「毎日、決められた時間に回収業者が来ます。
彼らは、身分証・専用車両・暗証コードを提示します。」
義父が真面目に聞く。
「もし、“別の奴ら”が来たら?」
一拍置いて――
担当者は言った。
「絶対に敷地に入れないでください。」
空気が、
少しだけ重くなった。
義叔父が低く呟く。
「……つまり、
“狙うやつがいる”ってことだな」
博士は否定しなかった。
「“希少資源”になれば、
“狙うやつ”は必ず現れます」
担当は続ける。
「警察の巡回は
“あなた方を守るため”でもあります。
もしも異常があれば、
迷わず通報してください」
義母は――
「怖い」ではなく、
静かに言った。
「守られてる、って感じね」
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◆ 副業、許可
場の空気が少し戻った時。
担当者が、
“もう一枚”書類を置く。
「――次に、副業について」
義叔父が食いつく。
「副業!?」
俺も聞き返した。
「……いいんですか?」
木村さんが言う。
「条件付きですが――
許可されました。」
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【副業・情報発信】
✔ 撮影許可(ただし顔・位置情報・自由編集は不可)
✔ 音声加工・匿名必須
✔ ダンジョンの核心部分はモザイク処理
✔ 国がチェックしてから公開
✔ 定期情報提供は“報酬対象”
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義叔父が、
妙に誇らしげな顔をする。
「……つまりだ」
俺を見る。
「うちは“家族ダンジョン公式チャンネル”ができるわけだな!?」
義母が笑って吹いた。
「やだ、なんか楽しそう!」
美咲も笑う。
「でも確かに――
“ちゃんと伝える人”は必要だね」
森下博士が柔らかく言う。
「命を賭けている人間の“リアルな言葉”は、
国の宣伝よりも強い影響力があります。」
担当者が軽く頭を下げる。
「あなた方が、“語ってくれる側”でいてくれるなら――
本当に助かるんです」
それは、
ただの副業ではなく。
“証言者”としての役割だった。
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◆ 家族の顔
義母は安心して微笑む。
「それなら――
楽しい感じでやりましょう。
暗いばっかりじゃ嫌よ」
美咲も頷く。
「“怖いけど、ちゃんと日常してる家族”って伝えたいね」
義叔父は親指を立てる。
「登録者100万人いこうぜ!」
義父は苦笑。
「……それはそれで大仕事だぞ」
俺は――
胸の奥で何かがかちっと噛み合った気がした。
戦うだけじゃない。
守るだけでもない。
“ちゃんと伝える家族”になる。
それが、
俺たちのもう一つの役目になる。
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至れり尽くせり。
本当に守られている。
同時に――
その温度の裏にある現実も、
確かに見え始めていた。
でも。
この家族なら――
きっとやれる。
そう思えた。




