表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族でダンジョン管理しています ──日本を守るのは一軒家でした。  作者: 鳥ノ木剛士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/39

第13話 “管理者”になる前日

数日後。


家の前に、市役所の車が三台、

国の機関の車が一台。


義母は玄関を開けながら、

深くため息をつく。


「ほんとに……

 大ごとになってきたわね」


でも、声は震えていなかった。


木村さんを先頭に、

役所関係者と研究員たちがきちんと並んで頭を下げる。


「本日は――

 正式契約の前段階手続きについて、ご説明に参りました」



◆制度は“ここ”まで来た


居間が臨時の会議室になる。


テーブルの上には資料。



【国 主導 / 市 管理】


地域ダンジョン自主防衛協力制度(仮称)


目的:

ダンジョンの安定管理

・外部への漏出防止

・住民生活の維持

・国の安全保障データの取得



木村さんが説明する。


「――現在、日本中で“穴”が増えています」


俺たちは頷いた。


ニュースでは毎日見るが、

現場の声は重い。


「管理できる家と、

 管理できない家があります」


そして、こちらを見る。


「その中で、

 “あなた方の土地は、非常に安定している”と判断されています」


義母が、小さく息を吸う。


木村さんは続けた。


「もちろん――

 国が“強制買い上げ”することも可能です」


義父は静かに聞く。


「ですが――

 “自分たちで守る”という選択肢がある地域には、

 “守る権利と、報酬”をお渡しします」


俺は、思わず聞いた。


「報酬……?」


森下博士が書類を指す。



■ 協力家族の権利


✔ 管理報酬(制度固定+成果報酬)

✔ 安全装備の無償提供

✔ 医療最優先枠

✔ 緊急時の家族避難保証

✔ 国による保護対象指定



義叔父が目を丸くする。


「めっちゃちゃんとしてる……!」


義母は思わず笑った。


「ここまで来たら、逆に安心だわね……!」



◆“代表”が必要だ


木村さんがもう一つの書類を広げる。


「そして、もう一つ」


空気が少しだけ変わる。



■ 条件


・“管理代表者リーダー”をひとり選ぶ

・“パーティーメンバー”として名簿登録

・全員が“責任者の意思のもとで動く”こと



義叔父が指を鳴らす。


「あー……ゲーム感あるな」


森下博士は笑う。


「ゲーム風に言えばそうですが、

 実際の意味は――」


博士は俺たちを見た。


「“存在感プレゼンス”を、

 ひとつの方向へ揃えるためです」


義父が小さく頷く。


「役割を決める、という行為が重要なのです」

「なるほどな」


博士は続けた。


「ばらばらの意思で潜るより、

 “ひとりの判断軸を中心に動く”ほうが――

 生存率が上がる」


そして静かに言う。


「これは制度ではなく、

 “統計と現場の実感”です」



◆ 家族の視線が、一斉に向く


俺へ。


義父は、

嬉しそうでもあり、

少し寂しそうでもあり――

でも誇らしそうだった。


義母は優しく笑う。


「うちのリーダーは――

 もう決まってるわね」


美咲が言う。


「あなたが、

 “帰ってくるリーダー”でしょ」


義叔父も笑う。


「俺らは盾と援護だ。

 お前が前だ」


俺は――

息を吸った。


責任は重い。


でも――

ここで逃げたら、

この家の“芯”が折れる。


俺は言った。


「やります」


静かに、はっきり。


「俺が代表者になります」


木村さんは深く頭を下げた。


「――ありがとうございます」



◆ 契約の紙に印を押す“前”


義父が手を上げる。


「一点だけ、言わせていいか?」


「どうぞ」


「これは“戦争”か?」


部屋の空気が固まる。


博士は、

嘘をつかなかった。


「――“戦い”であることは、否定できません」


その上で。


「ですが――

 “この家族が生き続けるための活動”です。

 それ以上の意味も、以下の意味もありません」


義父は笑った。


「ならいい」


義母も笑う。


「なら、やりましょう」


美咲は俺の手を握った。


「なら、私は応援する役」


義叔父はバールを肩へ。


「俺は盾役」


博士が軽く頭を下げる。


「そして――

 国は“支える側”です」



◆ 契約の紙が置かれる。


ボールペンが手渡される。


この紙にサインすれば、

俺たちの家は、


ただ“穴のある家”ではなく――


“正式なダンジョン管理家庭”になる。


子どもたちの笑い声が、奥の部屋から微かに聞こえる。


俺は、

ほんの一瞬だけ空を見た。


そして――


ペンを走らせた。


 


まだ正式契約は明日。

今日は“前段階の意思確認”。


でも、もう――

腹は決まっている。


家族で、

この穴を乗り越える。


それが――

俺たちの選んだ未来だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ