豪壮で壮麗で壮大なビジョンへの出発
瀬戸海剛士・・・・・主人公の一人。龍華の二卵性双子の兄
瀬戸海龍華・・・・・主人公の一人。剛士の妹。リーダー気質で壮大な目的達成のため動く。
一条拓真・・・・・・主要人物。思慮深く優等生の鑑だが龍華にベタ惚れ中。
リフレッシュルームに足を踏み入れると――思った以上に人がいた。
入学式の日なのに、ここまで集まってるとは予想外。
この部屋、名前の通り休憩や飲食しながら雑談する“学生の憩いの場”ってやつで、開放的な空間にテーブルが並び、奥にはなんと畳敷きのスペースまであった。
「……国立って、やっぱり設備しっかりしてんだな」
大学の格を改めて実感しつつ、俺は妹を探して部屋の中をゆっくりと歩きはじめる。
スーツ姿の新入生たちがあちこちのテーブルでグループになって談笑してる。
きっと、入学初日のうちから人脈づくりを始めようって意識高い系の人たちだな。
――と、思っていたそのとき。
「剛士ー! こっちこっち!」
……うるさい。
いや、名前呼ぶのはいい。でもな? 下の名前で呼ぶのはやめろ。
しかもこの場で、男の名前を大声で呼ぶなよ。周りの目が一気に集まったじゃねーか。
当然のようにこっちを見る人、クスッと笑う人――そして、「え、恋人?」みたいな視線。
「……マジでやめてくれよ」
あいつには“空気を読む”というスキルが欠けてる。昔っからそうだった。
人目なんか気にせず、大きく手を振ってくるその姿は、まるで小学生の頃と変わらない。
そんな妹(スーツ姿の女子学生)と、となりで配布資料を真剣に読んでいる男子学生が座ってるテーブルにたどり着き、
俺は空いていた椅子にストンと腰を下ろした。
「ったく……もうちょい控えめにしろよな」
心の中でぼやきながら、俺はテーブルの上にある資料に目を落とした。
さて――。
せっかくこの場面まで話が進んできたんだし、
俺の目の前にいる2人について、軽く紹介しておこうと思う。
まず一人目。
大声で俺の名前を叫んだ張本人であり、まさに騒音系妹代表とも言えるこの女。
瀬戸海 龍華
……はい、そうです。俺の双子の妹です。
二卵性とはいえ、やれやれ感はハンパない。
名前に「龍」って入ってるの、インパクト強すぎると思わんか?
その名の通り、元気ハツラツ・猪突猛進・好奇心の塊。
父さん曰く――
「龍のように強く、美しく育ってほしい」
……って、どこのファンタジー世界の話だよ。
ちなみに母さんは最初、字面が目立ちすぎるって反対してたらしいけど、
結局、父の謎のプレゼンに押し切られてこの名前に決まったとか。
でも実際、「名は体を表す」ってのはよく言ったもんで。
自己主張は激しいし、やたら人を引っ張りたがるし、どんな場でも存在感が強い。
下手したらこのまま大学生活を過ごしたら、本当に龍になりかねない。
我が妹ながら、見ててある意味すごい。
そして、もう一人。
静かに配布資料を読み込んでるスーツ男子。
その名は――
一条 拓真
見た目通りの優等生タイプで、
真面目・誠実・清潔感・そして無口。
うん、完全にザ・良識人。
俺と龍華の幼なじみで、小学校の頃からずっと一緒。
成績は常に上位キープ、生活態度もパーフェクト、
教師からの信頼も厚くて、まさに模範生徒の鑑。
そんな男だけど――
実はひとつ、決定的な弱点がある。
それは――
「龍華に惚れている」
……オイ。
いやマジで、これ知ったときは、
吹奏楽部の演奏が流れてる中で何ひとつ耳に入らんくらい驚いたわ。
あれは中学2年のある日。
部活終わりに忘れ物を取りに教室へ戻った時、
唐突に、「実は……龍華のこと、好きなんだ」って打ち明けられてさ。
そのときの俺の反応?
「え、マジでどこに惚れたん?」
率直な疑問だった。
拓真いわく、明るくて行動力があって、凛とした雰囲気が魅力的なんだと。
デレ顔で語る姿を見て、ああ本気だコイツって確信したね。
でも、同じ家で暮らしてる俺からすれば――
そんな幻想、家の中で全部ぶち壊されてるから共感ゼロ。
むしろ図々しさ全開で、たまに手に負えないくらいだぞあいつ。
で、当然ながら「じゃあ告白しないのか?」って聞いたこともある。
でも拓真は、
「あいつの性格もよく知ってるし、時が来たら伝えるつもり」
……だとさ。
なるほど。
この男、なかなかの忍耐型ラブコメ戦士だった。
俺としては、親友としてその恋をどうこう言うつもりはない。
だからこそ――黙って、見届けることに決めた。
頑張れ、拓真。
……たぶん、苦労すると思うけどな!
そんなこんなで、俺・龍華・拓真。
この幼馴染3人組が、久しぶりに一つのテーブルを囲んで揃ったわけだが――
正直、まだ状況がつかめてない。
てことで、この場を仕切った張本人に向けて、まずは問いただしてみることにした。
「でさ、龍華。わざわざ入学式の後に俺と拓真を呼び出して……何を始めようってんだ?
拓真が配布資料に全集中してたってことは、履修登録の話でもしたかったってオチか?」
俺がそう言うと、拓真が資料を閉じながら答えた。
「それも話す予定ではあったけど……本題は別にある。
――龍華が俺たちに“聞いてほしいこと”があるらしい」
“聞いてほしいこと”、ねぇ。
俺はこの瞬間、すでに予想していた。
どうせ何か頼みごとだろうと。なんせ龍華の性格は誰よりもよく知っている。
案の定というか、拓真が資料をバッグにしまったのを見計らって、
本人が満を持して話し出した。
「ねぇ、ふたりとも。Society5.0って言葉、覚えてる?」
――おっと、意外な方向から来たな。
「Society5.0? ああ、高校の情報の授業で聞いたな。
たしか、狩猟・農耕・工業・情報って続いて、5番目の新しい社会像ってやつだろ?」
俺が答えると、龍華は「その通り!」と満足げに頷いた。
「そう、それよ。それはね、現実世界とサイバー空間を融合させて、人間中心の新たな社会を作っていく……そんな構想のことなのよ。
まさに近未来。SFじみた未来予想図よね」
……まあ確かに、聞こえはカッコいい。
「けどさ。夢はあるけど、俺たちは文系の学生だろ?
お前は経済、俺は教育。そういうのに本格的に関わるのって、拓真くらいじゃないのか?」
俺の疑問に対し、龍華はニヤリと笑った。
どうやら、突っ込まれるのは想定内だったらしい。
「それはその通り。でもね、文系だろうと理系だろうと、これから社会に出る私たちにとって“IT”は避けて通れないのよ。
今この瞬間にも社会は進化してる。だから学生のうちから――未来を見据えて“動く”べきだと思うの」
……まるで選挙演説のような熱弁だな。
そこで、拓真が補足を入れてきた。
「実際、文理関係なくITリテラシーは必要になるだろう。
今やほとんどの職場でパソコンやタブレットを使うし、ExcelもSlackもZoomも当たり前になってる」
「……それなら高校で“情報”が共通テストの必須科目になったのも納得だな」
まるでプレゼン資料を読んでるみたいな内容に、ちょっとだけ納得してしまった俺。
でもな――。
「龍華、お前が社会におけるIT活用の必要性を訴えたいのはよく分かった。
でも、そんな“正論”を語るために呼び出したわけじゃないんだろ?
さっさと“本題”を話してくれ」
俺は話をグッと引き戻す。
こいつのことだ、単なる意識高い話で終わるわけがない。
この場をセッティングしたということは――
きっと、「何か」を始めようとしている。しかも、俺たちを巻き込んで。
その“何か”を、今こそ聞くべきだ。
「――それじゃあ、本題に入るけど」
龍華は、空気を切り裂くような勢いで話し出した。
「スマホに代わる“革新的なテクノロジー”を、私たちで追い求めてみない?」
……へ?
脳が一瞬、思考停止した。
あまりにも突拍子のない提案。だけど、どこか懐かしい響き。
まるで小さい頃、「秘密基地を作ろう!」って言い出した時のような、あの感覚に近い。
「……お前、またスケールがバグってるぞ」
思わず口から漏れた俺のツッコミに、隣の拓真も小さく苦笑い。
「スマホって、俺たちが小学生の頃にはもう普及してたよな。
両親も“今までで一番すごい発明”だって言ってたくらいだ。
……つまり“とにかくすごいものを作りたい”ってことなんだろうけど、
正直、漠然としすぎててピンと来ないぞ」
「まぁね。でも、今の社会ってスマホがないと生きていけないでしょ?
四六時中一緒にいて、まるで“無機質な相棒”って感じ」
“無機質な相棒”。
それはなんだか、妙に胸に刺さる言葉だった。
「だったらその“相棒”が、Society5.0の時代にはどう進化してるのか。
想像してみたくならない?」
「……ふつうそこ、“心を持ったアンドロイド”とか出すだろ」
「それはそれで素敵だけど、普及するのは結局“感情を持たない方”だと思う。
下手に愛着持って別れが辛くなるの、面倒じゃない?」
言ってることは、妙にドライ。けど、リアルでもある。
便利で、でも感情に寄り添わない“冷たい相棒”。
――そんなのが、未来の社会のスタンダードになるのかもしれない。
「でもよ、そんなスゴいもんを俺たちが“作れる”って本気で思ってんのか?」
思わず本音が出る。現実の壁は高く、厚い。
だが龍華は微塵もひるまず、まっすぐに答えた。
「“できるか”じゃない。“やってみる価値があるか”なの。
大学生活は“人生の夏休み”って言われてるけど、
あたしは“何もしない夏休み”で終わらせたくない」
その言葉に、入学式で学長が言っていたフレーズがふと蘇った。
「社会に貢献できる能力を、4年間で身につけてください」
ああ、確かに。
何かに挑んで、社会に価値を生み出す。
それができるのは、きっと今しかない。
「挑戦しなかった後悔だけは、絶対にしたくないの。
剛士、拓真。もし、今の時点で入りたいサークルとか決めてなかったら――
このプロジェクトに、力を貸してくれない?」
そう言いながら、俺たちの目を真っすぐに見つめてきた。
もちろん、分かってる。これは情熱の押し売りじゃない。
本気の“仲間集め”だ。
けど俺は――あえて疑問をぶつけた。
「……もし、ここで龍華に付き合うって決めたら、
他の選択肢を潰してまで、ずっとこの活動に縛られるんじゃないか?」
その瞬間、龍華の表情に影が差す。
さっきまでの勢いが、少しだけしぼんだ。
隣の拓真は口を挟まず、ただ静かに見守っていた。
彼は龍華が好きだ。でも、それと“妄信”は別だ。
しばしの沈黙――
そのあと龍華は、真剣な眼差しを俺たちに向けて立ち上がった。
「……分かってる。これは私のわがままかもしれない。
でも、どうしても今、動き出したいの」
そう言うと、俺たちの目の前で頭を深く下げた。
「お願いします。あたしに力を貸してください」
俺も拓真も、驚きで言葉を失っていた。
軽いノリじゃない。
本気で、全力で、未来を切り開こうとしている――そんな気迫があった。
「……本気なんだな、龍華」
気づけば俺の口が、勝手にそう呟いていた。
「分かった。そこまで言うなら……俺も付き合ってやるよ。その夢に」
「三人寄れば文殊の知恵。小さなスタートアップにはちょうどいい人数だ。
俺も、情報技術の習得と挑戦を兼ねて、参加させてもらう」
拓真もまた、静かに、でもしっかりと決意を伝えた。
その瞬間、龍華の表情が少し震え――
そして、最高の笑顔を浮かべた。
「二人とも、ありがとう。……これから、よろしくね!」
その言葉を聞いて、ふと思った。
今のこの瞬間を、冒険マンガで例えるなら――
“まだ見ぬ大海原に出発する直前”。
キャプテンは龍華。船員は、俺と拓真。
目指すのは、スマホを超える未来の“無機質な相棒”。
こうして俺たち3人は、誰も知らない未来への第一歩を踏み出すことになった。