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大学生活の始まり

登場人物紹介

瀬戸海剛士:主人公の1人 語り手

4月上旬、空気はすっかり春の装い。

寒さも和らぎ、歩いてるだけでちょっとウキウキする。


ふと道端の木を見たら、薄ピンクの桜が咲いてた。

――ああ、春ってやつだな。


俺の名前は瀬戸海せとうみ 剛士ごうし

この春から香川大学・法学部の一年生になる。


浪人もせず、地元の国立大に現役合格。

我ながら、無理せず、ほどよく頑張って、ちゃんと結果を出した――そんな感じ。


「ま、勝ち組……ってほどでもないけど、負けではないな」


そんな自画自賛をしつつ、俺は大学の正門に向かって歩いていた。

目の前には「香川大学入学式」と書かれた、やたらデカい横断幕。


新調したスーツを着た新入生たちが、親と一緒に記念写真を撮ってはしゃいでいる。

俺の親は昼前に来るって言ってたから、今は一人。

とりあえず式がある講堂へ向かうか。


「あいつらも……まだ来てないか」


周囲をキョロキョロ見渡してみたけど、見覚えのある顔は見つからなかった。


講堂の中に足を踏み入れると、祝賀ムード全開の音楽が流れてて、

同じく入学式を待つ新入生たちの会話がそこかしこで聞こえてくる。


「やっぱ地元の大学が一番楽だわー。通学も近いし」

「わかるー。一人暮らしとかムリムリ」


うんうん、当然の意見だ。俺も自宅から通えるこの大学を選んだクチだし。


香川大学は高松市にあって、駅もバスもある。商店街もあるし、もちろんうどん屋も。

“県民ソウルフード”のうどんは、昼飯の選択肢として外せない。


「地元最高。これ、正解だったな……」


そんなことを考えているうちに、場内アナウンスが鳴り響いた。


「これより、令和○○年度 香川大学の入学式を執り行います。新入生の皆さんは、席にお座りください。」


ザワついていた会場が、ピタリと静まり返る。


学長が壇上に上がり、厳かな表情でマイクの前に立った。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。皆さんは試験という壁を乗り越え――」


……うん、まぁ、よくあるやつだ。


小・中・高と入学式を経験してきた俺にとっては、もう耳慣れたセリフばかり。

でも、それでもやっぱり嬉しいのは確かなんだよな。

“大学生になる”っていう、未知の未来に対するワクワク感。


「大学生活の4年間は、あっという間に過ぎ去ります」


その言葉に、ちょっとだけ引っかかった。


「……マジかよ。高校3年でもまぁまぁ長かったぞ?」

「年取ると時間の流れが早くなるってアレか?」


ちょっと焦る。でも、まぁ、気をつけよう。

無駄に過ごしたら、後悔しそうな気がするしな。


その後も、祝辞、祝辞、また祝辞。


正直、全部テンプレのような挨拶で、耳がスルーしてるのに拍手だけは律儀にしてる自分がいる。


開始から30分が過ぎたころ、椅子に座りっぱなしだった腰が悲鳴を上げ始める。


「そろそろ終わってくれ……」


と、そのとき。


「入学式もいよいよ終わりに近づいてきました。それでは、最後に校歌斉唱を行います。皆さま、ご起立ください」


「き、来た……!」


タイミングよく立ち上がり、腰を伸ばす。あ〜、助かった。

巨大スクリーンに校歌の歌詞が表示され、ピアノの前奏が流れ出す。


「校歌とか……もう歌う機会ないかもな」


そう思った俺は、少しだけ口角を上げて、わざと大きな声で歌い始めた。

ちょっと照れるけど、今この瞬間だけは、新しいスタートを実感したかった。


演奏が終わり、拍手の音が講堂を包む。

入学式は、ついにフィナーレを迎えた。


「新入生の皆様、お疲れさまでした。この後は13時半より、第7号館2階・201号室にお集まりください」


――さて、大学生活が始まる。

4年なんて、たぶんすぐだ。

でも俺は、この4年間を無駄にしたくない。


胸にそんな決意をちょっとだけ刻みつつ、式が終わったことを告げるアナウンスが流れた。その瞬間、会場がざわざわとざわつき始めた。

一斉に立ち上がるスーツ姿の新入生たち。俺もその流れに乗って腰を上げた。

式が行われた講堂を出て、また正門の方へと戻っていく。


スマホを取り出し、電話帳から父の番号をタップ。


「もしもし、父さん? 今終わったとこ。正門の前にいるから、そっち来てくれる?」


数分後、母さんが手を振って近づいてきた。

その隣には、どこか肩の力が抜けたような父さんの笑顔。


きっと、俺が無事に大学に入れたってだけで、ひと安心なんだろう。


「入学式どうだった? もう誰か友達とかできた?」


母さんのそんな問いに、俺は適当に笑って相づちを返す。

どうやら妹は、知り合いの同級生にバッタリ会って、一緒に昼メシを食べてるらしい。


桜の木と横断幕を背景に、俺は両親と記念写真をパシャリ。

「こういうの、卒業式で見返すとエモいんだよな」とか思いつつ、いい感じの門出を祝う時間を過ごした。


それから、俺は一人で次の予定まで自由行動に。


時間は12時半過ぎ。そろそろ昼メシ時のピークも落ち着いてるだろう。

大学周辺の店はあまり知らないし、せっかくだからリサーチがてらうどん屋へ行ってみることにした。


スマホで地図を確認して、正門近くにある「手打ちうどん こし屋」へ。


店の前には、ちょっとした行列。でもうどん屋は回転が早いし、余裕で間に合うはず。


数分後、中に案内されると、香ばしい出汁と天ぷらの匂いがふわりと鼻をくすぐった。


吊るされたメニューには、かけ、ざる、ぶっかけ、きつね、肉うどん――定番がズラリ。

俺は毎回お決まりのセット、ぶっかけうどん+海老天で決まりだ。


奇抜なやつにチャレンジしようとは思わない。うどんで冒険はしない主義。

するなら天ぷらの方。とはいえ、結局いつも海老に戻るけどな。


香川県民らしいチョイスってことで、勝手に納得してる。


会計を済ませて、店の中央にあるタッパーをチェック。

ネギ、揚げ玉、大根おろし、わかめ、生姜、小梅――トッピング自由とか、太っ腹すぎんか?


とりあえず今日はネギと大根おろしだけを軽く盛って、席に着いた。


ずるっ――と麺をすすると、讃岐うどん特有のコシがしっかり効いてる。

もちもち、でも歯切れよくて、うん、美味い。

出汁も香り高くて、思わず一口、二口……止まらん。


海老天は衣がサクッとしてて、中の海老はぷりぷり。

「……これは、顔がゆるむやつ」


最高の組み合わせに満足しつつ、食べていたその時。

スマホがバイブした。


メッセンジャーに妹からの通知。


「招集指令。午後のオリエンテーション終了後、五号館2階リフレッシュルームへ直ちに集合。このメッセージを読んだら即返信のこと」


「……お前はどこの司令官だよ」


あいつのこういうノリ、昔から変わらない。

昼飯中に呼び出されるのはちょっと萎えるけど、まぁ「わかった」とだけ返信しておいた。


丼と小皿を返却して、スマホで時間を確認――13時10分。

オリエンテーションは13時半から。

このまま7号館に向かえばちょうどいいだろう。


201号室に着いたのは、開始5分前。

もう半分以上の新入生が席について、あちこちで雑談してる。


後方の目立たない席は全部埋まってたから、前の方の空いてる場所に座った。


そして、オリエンテーションがスタート。


事務の人たちが次々に教室に入ってきて、

大学生活の説明、履修登録の手順、施設案内などが書かれた資料を配布していく。


講義の受け方、単位の取得、評価方法……。

「ここで聞き漏らしたら詰むやつだな」


真面目に資料にマーカーを引きながら、俺も説明を聞いた。


履修登録をミスったら、マジでその学期はアウトだ。

卒業までのプランが狂う。やらかすわけにはいかない。


自転車通学の予定だけど、雨の日用にバスの学生カードも申し込んでおいた。


最後は学生証用の写真撮影。

ICカード式で、その場で受け取って、入学初日のスケジュールはすべて終了。


さて、普通ならここで一息ついて帰るとこなんだけど――


「先約があるんだったな……」


スマホを取り出し、妹に「10分くらいで着く」と連絡。


一体なんの用かは分からないけど、どうせ同じ大学に入った兄妹だ。

今日の説明会の情報をお互い整理しとくのも悪くない。


集合場所へ向かう途中、キャンパス内の自販機でお茶を買い、一口。

春の風が桜の枝葉を揺らしていて、どこかのどかだ。


行き交う学生たちは、誰も彼も知らない顔。

ここから始まるんだなって、ちょっとだけ実感した。


でも――この時の俺は、まだ気づいていなかった。


この春の出会いと、大学生活が

人生を大きく変える分岐点になることを。


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