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やれやれ、異世界じゃモテ期終了ですか。  作者: 遠野 蒼一
【第1部】転生前と転生後、モテ期終了のお知らせ
4/18

【第4章】商隊と砂漠。

第4章です。

砂漠の旅、本格スタート。

過酷な環境、言葉の壁、そして――面倒な人間関係。


毒舌ヒロイン・キリカとの出会いも描きつつ、異世界で生きるための準備期間が続きます。

のんびりなようで、少しずつ主人公レンの状況は動き始めている……はず。


よろしければ、お付き合いください。


━━━━━━━━━━━━━━━


砂漠の夜は、驚くほど静かだった。


焚き火のはぜる音と、ラクダのうめき声だけが響く。

星空は広く、月が地球とは微妙に違う形で輝いている。


「夢ならそろそろ覚めてくれよな……。」


呟いてみても、当然現実は変わらない。

俺はザイード率いる商隊に拾われ、こうして砂漠を旅している。


言葉はまだほとんど分からない。

ザイードや男たちの指示を、必死に身振りと雰囲気で理解し、最低限の仕事をこなしている状態だ。


水袋をラクダに渡し、荷物の積み込みを手伝い、焚き火の番をする。

そんな単純な作業でも、やらなければ居場所を失う。

異世界は俺に優しくない。


「おい、ボサッとしてんじゃねぇよ。」


突然、聞き取れる言葉が耳に入った。

いや、正確には聞き慣れたイントネーションに近い言葉がだ。


驚いて振り返ると、そこにはひとりの少女が立っていた。


肩までの短い赤褐色の髪、褐色の肌、鋭い目つき。

腰には細身の剣を下げ、動きやすそうな砂色の衣服を着ている。

年は俺と同じか、少し上かもしれない。


「なに、こっち見てんのよ。」


少女は忌々しそうに顔をしかめた。


「えっと……。」


とりあえず、分かる範囲で言葉を返そうとするが、どうにも言語が噛み合わない。

それでも彼女は容赦なく続けた。


「お前、マジで何にも分かんねぇの? この国の言葉も、礼儀も。」


険しい表情、呆れた視線。

その態度だけで、俺がどう見られているのかは察せた。


「やれやれ……言葉はともかく、態度は万国共通だな。」


肩をすくめてみせると、少女は一瞬だけ目を細め、軽く鼻で笑った。


「……ま、拾ったのは親父だし、あたしには関係ないけどさ。」


そう言いながら、彼女は手を差し出してきた。


「キリカ。あたしの名前。お前、何て呼ばれてんの?」


「レン。諸星レン。」


「レン、ね。ふーん……覚えとく。」


キリカはそう言って、ひとつ欠伸をし、また荷物の方へと戻っていった。


不思議な少女だった。

この国の人間なのか、異国から来たのかは分からないが、少なくとも俺と会話できる数少ない存在だった。


だが、好意的かどうかはまだ分からない。


「異世界の人間関係も、面倒くせぇな……。」


ため息をつきながら、俺は再び焚き火の番に戻った。



━━━━━━━━━━━━━━━



翌朝、俺は砂の冷たさと、遠くのラクダの鳴き声で目を覚ました。

朝焼けに染まる砂漠は、昨日と何も変わらない。

だが少しだけ、この世界に馴染んできた気がするのは錯覚じゃないはずだ。


「レン、こっち。」


キリカが俺を呼ぶ。

彼女はいつものように不機嫌そうな顔で、荷物をまとめている。


どうやら、今日は本格的に砂漠を横断するらしい。

ザイードの指示と、キリカの通訳を交え、ようやくそこまで理解できた。


商隊の男たちも、どこか緊張した様子だ。

砂漠はただ広いだけじゃなく、幻獣や盗賊も出る危険地帯らしい。


「……もう野盗は勘弁してほしいんだけどな。」


ぼやきつつも、俺は荷物を背負い、ラクダに乗せられた。



━━━━━━━━━━━━━━━



数時間後、強い日差しと、焼けつくような熱気の中を俺たちは進んでいた。

ラクダの歩みは遅いが、確実だ。

砂丘の影には、動くものの気配が時折見え隠れする。


ザイードは真剣な顔で周囲を見回している。

キリカは隣で、何やら短剣の手入れをしていた。


「お前、本当に何にも知らねぇのな。」


「まあ、悪いな。」


「異世界人、ってやつか。」


その言葉に、俺は少し驚いた。

どうやら、この世界にも異世界人がいるという概念自体はあるらしい。


「アンタみたいな奴、時々現れるんだよ。落ちてくるっていうか、迷い込むっていうか。」


キリカはそう言いながら、遠くを見た。


「だいたい、ろくな目に遭わねぇけどな。」


「……異世界人の評判、悪いのか?」


「悪いっていうか、生き残れた奴の方が少ない。」


簡単に言う。だが、その言葉はじわじわと俺の腹に効いてくる。


「まあ、せいぜい頑張んな。まずは言葉覚えるのが先決だな。」


そう言い残して、キリカはラクダの影に隠れ、別の作業を始めた。


言葉を覚える――確かに、その通りだ。

このままじゃ誰の言ってることも分からず、ただの厄介者で終わる。

それだけはごめんだ。


「……面倒くさいことばっかだな。」


それでも、ここで終わるわけにはいかない。

生き残るためにも、俺はこの世界に必死にしがみつくしかなかった。


そんな覚悟を胸に、俺は乾いた風の中、再び砂漠を見つめた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


砂漠といえばサバイバル――でも、それだけじゃ面白くないので、今回はヒロイン(?)キリカとの出会いを、皮肉たっぷりにお届けしました。


次回第5章では、いよいよ砂漠旅の“事件”が起こります。

異世界の脅威と、主人公レンの無力さがこれでもかと突きつけられる予定です(笑)


またお時間あるときに、読みに来ていただけたら嬉しいです。

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