【第1章】俺、リア充やめます。
はじめまして、遠野 蒼一と申します。
やれやれ系の主人公が、異世界で本気で苦労する物語を目指しています。
第1章は現世パートです。
リア充ですが、本人はまったく嬉しくない……
そんな主人公の日常と、転生のきっかけまで。
よろしければ、お付き合いください。
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「やれやれ、またかよ」
今日この言葉を口にするのは、これで何度目になるだろう。
教室の窓際、俺の席の横で、またひとり女子が頬を赤らめて立っている。
手にはリボンのついた封筒。きっと中身はラブレターだろう。
その後ろには、廊下から顔を覗かせる女子たちが数人。耳打ちと笑い声が響く。
まるでここだけ別の空間みたいだ。
いや、実際別の空間なんだろう。俺だけ違う場所にいるみたいな気分だ。
「悪い、そういうの、興味ないんだ」
俺は封筒を受け取ることなく、そう言って立ち上がった。
一瞬、教室が静まり返る。視線がいやらしいほど俺に集まった。
「またフッた……。」
「冷た……。でも、それがカッコいいんだよね。」
ため息混じりの囁き声が耳に届く。
……これが俺、諸星レンという男のどうしようもない現実だ。
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「おいおい、またかよ。モテるってのも大変だな?」
声をかけてきたのは隣の席の友人、坂口悠真。
チャラい見た目だが、意外と真面目なやつだ。
「面倒なだけだ。」
「その面倒を世の男子は羨ましがってんだけどな。」
悠真は肩をすくめて笑う。俺はため息をつきながら、鞄を肩にかけた。
廊下に出ればまた別の女子たちの視線が集まる。
その度に「やれやれ」と心の中で呟くのが、もはや習慣だ。
どんなにフッても、冷たくしても、女子は俺に寄ってくる。
イケメン? 頭がいい? 運動できる? そんなものは飾りだ。
俺のこの「やる気なさげな態度」と「無関心」が、どうやらウケているらしい。
……くだらない。
「なあ、レン。今日の放課後、ちょっと面白いことやんねえ?」
「面倒なら遠慮するが。」
「いやいや、今回は面白いぞ。SNS映え間違いなし。」
悠真がスマホを見せてくる。画面には、ある場所の写真が映っていた。
切り立った崖、その上に立つ人間のシルエット。コメント欄は盛り上がっている。
「有名な“絶景スポット”らしい。ここで自撮りして投稿したら、バズるってよ。」
「……バズる、ね。」
心底どうでもいいと思いつつ、俺は写真を見つめた。
見事な崖だ。青い空と、下には広がる森。たしかに映える。
だが、危険な香りしかしない。
「やめとけ。命あってのSNSだろ。」
「お、じゃあ一緒に来るんだな?」
俺の忠告を、まるで聞いていない悠真。
結局、面倒に巻き込まれる予感しかしなかった。
……まぁ、退屈な日常に少しだけ刺激が欲しかったのは、事実だ。
「やれやれ、仕方ねぇな。」
俺はスマホをポケットにしまい、面倒な未来に渋々足を踏み出した。
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放課後、俺と悠真は例の“絶景スポット”とやらにやって来た。
人気のない裏山を抜け、舗装もされていない細道を登る。
足元はゴツゴツした岩ばかりで、滑ればただじゃ済まない。
「なあ、悠真。本当にここ、許可とかいらねぇのか?」
「大丈夫だって。昨日、先輩が行ってたし。」
そう言いながら、悠真はスマホで位置情報を確認している。
本当に大丈夫か?と疑いたくなるが、もうここまで来たら引き返すのも面倒だ。
やれやれ、好奇心ってのは時に命取りだな。
10分ほど歩いた先で、目の前が一気に開けた。
そこには、SNSの写真で見たまんまの崖がそびえていた。
空に突き出した岩の台地。
その先端に立てば、下の森が豆粒のように見えるだろう。
確かに映えそうだ。だが……
「なあ、悠真。ここ、柵とか……ねぇよな。」
「だーいじょうぶだって。落ちなきゃいいんだよ。」
軽すぎる。コイツの命に対する価値観が軽すぎる。
だが、俺の好奇心はそんな忠告を無視する。
つまらない世界だと嘯きながら、刺激を求める自分がいるのは分かっている。
「……分かったよ。」
崖の先端に立ち、スマホを構える。
背後には青空、下には広がる大地。
まるで、世界を制したみたいな気分になる。
「どうせなら、最高の角度で撮ってやるか……。」
そう呟いて、俺はスマホのインカメラを起動した。
画面の中には、どこか虚無を抱えた自分の顔と、絵に描いたような絶景。
そして、その瞬間だった。
足元の石が、ゴロリと転がった。
バランスを崩し、身体がふわりと宙に浮く。
「――は?」
言葉にならないまま、視界が反転する。
空が、地面が、ぐるりと回る。
悠真の叫び声が、遠ざかる。
スマホが手から離れ、青空へと吸い込まれる。
そして、俺は思った。
――やれやれ、これが最後の自撮りかよ。
重力に引きずられながら、そんな皮肉を吐いたのが、俺の最後の意識だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
SNS映えを狙った結果、異世界転生する――まさに現代っ子仕様の転生理由です(笑)
次回から、いよいよ異世界編が始まります。
モテ期終了後の人生、レンがどう苦労するのか是非見届けてやってください。