95話.地下迷宮の闇の歴史、竹炭作りの本番
竹炭作りは人から聞いたり自分で調べたりした内容を書いていますが、変なところがありましたらご指摘頂けると幸いです。
95話.地下迷宮の闇の歴史、竹炭作りの本番
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「じゃあな。なんか有ったらまた連絡しろ。お前は周りに気を遣いすぎる。……ってアイツも言ってたからな。もっと甘えろ」
「そんな……。爺ちゃんにも林田さんにも沢山お世話になってますよ。今度またなんかご馳走させてくださいね!」
「ああ、期待せずに待ってるさ。じゃあな」
林田さんは竹を割ったり、火を熾す準備などをパパッとやってくれると、そのまま帰っていってしまった。別の機会にでも、今から作る竹炭なんかをお裾分けに行こう。
林田さんは爺ちゃんの昔ながらの知り合い、というか親友、あるいは悪友みたいな人で、俺が学生の頃もめちゃくちゃお世話になった。俺にとっての恩人のような、師匠のような人でもある。
竹林に隣接するように生えている林の管理をされていて、普段は黒炭や白炭などを作ったり、椎茸を作ったりなどと幅広くやっている。
今日のバーベキューでも、林田さんに以前いただいた炭を使って焼く予定だ。そんなわけで、以前からのせめてものお返しにとバーベキューに誘っていたのだが……。
「俺の近況を話すとなると、どうしても探索者になったこととか、一花たちの事を話さないわけにはいかなかったからなぁ」
とはいえ、やはりデリカシーに欠けていたか。なんて言ったって、林田さんは家族を、お孫さんを失っているわけだからな。地下迷宮の中で……。
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地下迷宮の歴史はさほど長くはない。とはいえ5年も6年もあれば、色んな事件や事故は起きている。魔物と戦う仕事だし、人間にだって色んなやつがいる。何も起きないはずもなし。
悲しいかな、そんな事件の一つに、探索者同士の恐喝事件があり。林田さんのお孫さんも、それが発端となった一連の事件の被害者の1人であった。
俺は詳しい事は聞いていなかったから、ネットで知れる範囲の事ぐらいしか知らない。というか深くは調べないようにしていた。爺ちゃんもその話には触れないようにしていたし、詳しい事を知って林田さんに変な態度を取りたくなかったから、余計な情報は入れないようにしていたんだ。
「ポーカーフェイスとは程遠い人間だからな。俺みたいなのは、なんも知らない方が周りに気を使わせなくていい」
事件は地下迷宮が一般公開されて間もなくの黎明期であり、探索者資格なんかが制度化されていなかった頃だ。力さえあれば誰でも探索者になれていた頃。そして今よりもたくさんの人が地下迷宮に潜っていた頃だから、戦闘スキルに長けた『悪者』もいれば、そんな奴らに利用される『弱者』も居たわけで。
事件としてはとても単純で、強い奴らが二束三文で素材を弱者から買い叩いて、それをギルドに売って労せずに儲けていたという、よくある話だった。
「それを見過ごせなかったのが、林田さんのお孫さんを含めた、正義感の強い人たちだったと……」
地下迷宮の中で諍いが起きて、数人の死者を含む多くの被害者が出る事件に発展した。そしてこの事件をきっかけに、全国の地下迷宮で素材を買い叩かれていた被害者が居たことも明るみになり。それからすぐに『探索者資格』の制度が作られたんだよな。
ギルドは手始めに『ギルド探索者』の枠を設けて、地下迷宮のさらなる安全管理を模索。そして事件を起こした探索者たちや、素行の悪い探索者たちが地下迷宮に入れないようにもした。
スキルの強い探索者も、地上では一般人とさほど変わりはない。当時はまだスキルのレベル上げや新しいスキルの生やし方も手探りだったから、総合レベルがさほど高くなかったのも功を奏した。
「そして今に至る、っと。大宮ギルドにケンゾウさんや菅野さんみたいな優秀なスタッフがいるのも頷けるよな」
なんたって事件が起きて、新しい制度改革が始まった場所でもあるんだからな。都心の近くという立地の良さもあるだろう。
とまあそんな事件の渦中でお孫さんが命を落とした事もあり、地下迷宮に懐疑的だった林田さんはさらに嫌悪感が募り、いわゆる“アンチ地下迷宮”になってしまったわけだよな。
地下迷宮は悪いところじゃない、探索者は悪いやつばかりじゃないと、今の俺はそう思えるけど。それも事件や事故があって、それから反省を踏まえて環境が改善されてきた今があるから思えることだ。
「個人の事情、環境、そして気持ち。みんな違うのは仕方ない。林田さんにもいつか“区切り”のようなものが訪れるといいんだけどな……」
一花と白百合が家に来るまでの間、炭作りの準備をしながら、俺はそんな淡い希望を願っていた。今日は曇り空。どんよりとした空の色と肌寒さは、俺の心にも暗い影を落としていた。
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バーベキューに使う予定の野菜を切ったり、炭を用意したりとしているうちに白百合から連絡が入った。
二人を出迎えるべく、俺は手を洗ってから玄関の方へと向かった。バーベキュー用の道具を持ってきてくれると言ってたし、食材も買ってきてくれているからそれを運ぶ手伝いも必要だろう。
「いらっしゃい。来てくれてありがとな」
「こっちこそお邪魔して悪いな。バーベキューが出来る場所もなかなか無いからな。ありがたいよ」
「一花のバーベキューは私も初めて。いつか食べたいと思ってたから嬉しい」
「そうだよな、キャンプは流石に行きづらいよな」
そんな話をしながら、持ってきて貰った荷物を一花の車から裏庭へと運ぶ。重いものは一花が、嵩張るものは俺が。細々したものは白百合にお願いした。体格は男の俺の方が大きいが、筋力だけなら一花が一番強いんだよなぁ。地下迷宮の中なら……それでもトントンかな?切ないぜ!!
「バーベキューの準備は任せていいか?」
「ああ、慣れてるから大丈夫。ソロキャンプ用の手軽なやつだしな」
「わかった。そっちの方に頼むよ」
「私は何したらいい?」
「そうだな……。食材の準備は出来てるし、竹炭を作るところでも見学するか?」
「うん。興味ある」
「あ!それアタシも見たい!すぐ準備するから待っててくれよな!!」
ワヤワヤと騒ぎながらもそれぞれの準備を始める。俺は林田さんが用意してくれた木の端材や葉っぱなどに火を付けて熾火を作る。これによって竹が加熱され、やがて炭になるわけだな。
十分に火が回ったら竹を並べていく。半分に割った竹を数列、横穴に入れていく。この穴は庭と竹林を隔てるように掘られていて、普段は用水路の蓋をして塞いでいるものだ。用水路としてだけでなく、竹の根がこちらに来ないように掘っていて、この穴で竹炭を作れないかと思ったのは俺が中学生の頃。
林田さんが炭を作っていたのと、爺ちゃんが竹の処理に頭を悩ますようになった時に、どうにか役に立てないかと自分なりに調べて見つけたのが、この『穴焼き』あるいは『伏せ焼き』と呼ばれるものだ。
(とは言え、子供が調べた程度の知識じゃ限度があったし、爺ちゃんと林田さんが色々と考えてくれたからなんとか形になったんだよな)
特に炭を作るための燃やし方は林田さんの知恵があればこそだったよな。俺はただ燃やして土を被せたらいいと思ってたけど、それだと十分に炭化されないんだってさ。
さてと、最初に並べた竹が十分に加熱されて火を出したら、その上に新たな竹を並べていく。これで下の方の竹が灰にならずに炭になってくれる、らしいが割と適当にやっている。何割かがちゃんと炭として形を保ってくれたらいい。そんなに沢山は求めてはいないんだよね。竹の処理が主目的だし。
「これで炭が作れるの?」
「まあ簡易的というか、原始的なやり方だけどな。商品として作るならちゃんとした窯で焼いた方がいいと思う」
「ふーん。とは言え自宅で出来るのは魅力的」
「だな」
日傘を差しながら見学をする白百合と話しながら作業をしていると、バーベキューの準備を終えた一花も合流。一花も竹を並べるのを手伝ってくれて、その上に新たに杉の葉などを被せてから、さらに土を被せて蓋をする。この時に煙を出すための穴を空けるのも忘れてはいけない。
「これで終わりか?」
「だいたいはね。あとは煙の色が青くなってきたら穴を塞いでほっとくだけ」
「煙が青く?」
「ああ、青というか透明というか、濁りが消えるんだよな」
まあそれまでは結構な時間がかかる。作業と熱で汗をかいたし、タオルで汗を拭いて休憩をする。このあとはたまに煙の様子を見ておけば良い……はずだ。
なにせ一人でやるのは初めてだから、何か作業に穴があるかも知れない。まあそれもまた経験だ。あとで林田さんに話を聞いてもらって、反省点をまとめたいところだ。
「じゃあやりますか、バーベキュー!」
「おお、やっとだな!待ってたぜこの時を!!」
「この時をー」
「白百合って案外ノリが良いよな」
「気心知れた人にだけ。普段はお嬢様してないといけないから肩がこる」
「ほーん?まあ俺たちの前で肩の力が抜けるなら嬉しいよ。な?」
「だな!」
一花と白百合、二人の美女との楽しいやり取りが心地よい。俺は俺でこいつらと過ごす時間が好きだ。本来なら緊張して話も出来ないような美女たちと、こうしてバーベキューを楽しめるなんて不思議な縁だな。
縁と言えばカピバラもだよな!あとで二人にも見せてやるか!!絶対メロメロになるぞ!!!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.10
・深體強化 Lv.2
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.8
・待機妖化 Lv.6
・大気妖化 Lv.6
・鏡花 Lv.3
・気妖 Lv.2
・息 Lv.7
・気 Lv.6
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.24
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◆陽乃下 白百合
◆ディープフォレスト Lv.28




