94話.池とカピバラの顛末、竹炭作りとバーベキュー
カピバラ登場編もこれで終わりです。思ったより長くなりました。ペースは緩いですがお付き合い願えると嬉しいです!
94話.池とカピバラの顛末、竹炭作りとバーベキュー
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とまぁ、なんやかんやあって。最高に可愛い相棒と、オマケに古風な池がウチの裏庭に出来たんだよな。ほんと意味わかんないけど。
池の広さは直径で5〜6メートルといったところかな?フチには丸い石が幾つも並んでいて、池をぐるっと囲んでいる。試しに水に触れてみると、思ったよりも温かく、夏場に足をつけたら気持ちいいだろうなぁという水温だった。暑い時期に欲しかった……。
「池の管理ってどうしたらいいんだ?」
実は以前に『庭が寂しいし、なんか作りたいな』とか思った事はある。とはいえ軽く調べてみただけでもデメリットが多かったり、メンテナンスに苦労すると書いてあったため早々に諦めていた。あと蚊の温床にもなるっぽいし。
とはいえ出来てしまったものは仕方ないし、カピバラ様のためにも水場はあった方が良いだろう。スキルから生まれたカピバラがどんな習性なのかは分からないが、こうして泳いでる様子を見ると、とても気持ちよさそうだ。
「頑張って管理するからな、気兼ねなく泳いでくれよな」
池に近づいてきた俺の所に顔を出し、頭を撫でろと催促するように岩の上に頭を乗せたカピバラ様。言われずとも撫でますよと。
相変わらず、水に濡れているはずなのに濡れた感触がしないのはなんでかしら?こういった部分も実在のカピバラとは全く別の存在なんだなと感じる要因だ。
……ん?この感じはカピバラの感情?あるいは意思だろうか?たまにスキルから感じるのと同じような感覚が、カピバラから手を通して伝わってくる。
「この池もお前の一部というか、『鏡花』の一部なのか」
律儀にキュルルと返事をしてくれるカピバラを改めて撫でながら、伝わってきた感覚を整理する。この感覚はなんというか、起き抜けに夢を思い出すような感覚に近い。
言語化するのが難しいというか、ハッキリとしたイメージではなくて朧げな映像というか。右脳的な感覚のもので、これを整理して言語化するには意識のリソースを割く必要がある。箇条書きにすると、
・『鏡花』の"属性"は水と植物
・水場が近くにある時はそれを利用し、ない時はスキルで具現化される
・スキルを使うには純魔素(地下迷宮に満ちている魔素)と、俺の固有魔素(人や魔物が持っている固有の魔素)が必要
・固有魔素は俺から引き出され、純魔素は空気中や植物からカピバラが吸収したものが使われる
とこんな感じかな?カピバラに触れながら(撫でながら)だとイメージがまとめやすくて助かる。普段のスキルからのイメージもこれぐらい分かりやすくしてくださいね!!
スキルへの愚痴は置いておいて、この池もスキルの一部なため、物理的な影響は限定されるという。魔素で構成されているからと言うことだと思うが、詳しい理屈までは伝わってこなかった。考えるな、感じろ!ってやつか。ホワチャー!!
「水場が必要なのはなんでだろ?元になった言葉が『鏡花水月』だからかな?」
足りない"水月"の部分を補う必要があるのかもしれない?推測の域を出ないけどね。
あと気になるのは属性と魔素か。水の属性は見た通りだな。植物なのはカピバラだからか?諸説あるが、名前の由来として『草原の支配者』とか『草を食べる者』なんかがある。個人的には前者を推したい。理由はもちろん、カッコいいからだ!!
それと魔素の吸収にも植物から得る、と言うことだしな。植物って何を食べるんだろうか?リンゴとか?
「あっ、どこ行くんだよ」
池からヌルっと出てきたカピバラは、『まぁ着いてこいよ』と言わんばかりにこちらを一瞥するとテシテシと歩いていく。可愛い。
その先にあるのは、今もほの白く月明かりを跳ね返す竹林だった。そこには細い竹、やや太い竹、さらには細長い笹が真っ直ぐに伸びており、優しい風を受けて揺れている。その風音は虫の音と重なり合い、美しいハーモニーを奏でていた。ハーモニーを奏でるって言葉いいよね。ベタだけど。
カピバラはそんな竹林の中から、手近な笹の葉っぱを食んで、くいくいと引っ張りながらモヒモヒと食べている。可愛い。
「そうか、笹を食べてる動画を見たことあるな。笹が好きなのか?」
笹を食べるカピバラの背中を撫でていると、笹だけじゃなくて竹も食べられるとイメージが伝わってくる。へーそうなんだ。って竹も!?もっともーっと竹もっと!?……流石に古いな。
ふむふむ。齧れる硬さの植物ならなんでも食べられるのか。とはいえ、同じ物だけだと飽きるから果物とかも欲しいとな。野菜も食べたいと!リンゴやキャベツはご近所さんから貰ったのがいっぱいあるからね!いっぱいあげるぞ!!
「それは明日食べるって?今日はもう眠いから帰る?」
そんなイメージを送ってきた途端、カピバラはスルスルと俺の脚、身体と駆け上がると、肩に乗ってキュルキュル鳴いてからパッと消えてしまった。何の余韻も無かったぜ!
ただ今回は喪失感のような物はない。俺の中にカピバラが入ってきた感覚があったからだ。それは意識なのか、それとも魔素なのか。俺の胸の辺りで暖かな感覚が生まれ、そして身体全体に広がっていった。
そうか、帰る場所は俺の中なんだな。それなら不安に思う事はない。俺たちはいつも一緒に居るってことなんだから。
◆
さて、秋は深まり10月の下旬。切った竹を干してからだいぶ時がたち、ちょうどよく乾燥出来た頃合いになった。そろそろ毎年恒例の『竹炭作り』をやろうかな?と思いたって、今日はその当日である。
今年は一花と白百合も呼んで、みんなでやる事になっている。2人が都合の良い日を聞いていたので、今日は朝から準備をしていた。
あとついでに庭でバーベキューもやろう!と一花の提案があったから、それも今から楽しみだな。バーベキューの道具は一花が持ってくるってさ。ひとりキャンプが趣味とは、相変わらずアウトドアなやつだな。俺も運動が出来る身体になったし、今度ご一緒させてもらおうかな?
「おう、邪魔するぞ」
俺が庭で準備をしていると、野太い男性の声がした。冗談でも『邪魔するなら帰って』なんて言えない相手だ。冗談があまり好きではないと言うか、本気にして帰ってしまう人だからだ。
「ご無沙汰してます、林田さん」
「相変わらず律儀だな。……以前より少し顔色がよくなったか?」
「はい、色々とありまして」
「……まあいい。杉の葉や木材だ、受け取れ」
「いつもすみません!助かります」
竹炭を作る際に使う、燃えやすい杉の葉なんかを分けてもらう。林田さんは爺ちゃんの無二の親友で、竹林の管理などでも色々とお世話になっている。
今回のように材木を分けてもらったり、植物の知識なんかを爺ちゃんと一緒に教えてくれたりもしていた俺の師匠みたいな人でもある。
「本当に今日は参加されないんですか?バーベキューもやる予定ですし……」
「俺はいい。探索者たちの中に混じるのは……な」
そして林田さんは大の"地下迷宮嫌い"でもあった。今日の話をした時、探索者仲間が来るとか言わなかったら良かったな……。後悔先に立たず、か。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.10
・深體強化 Lv.2
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.8
・待機妖化 Lv.6
・大気妖化 Lv.6
・鏡花 Lv.3
・気妖 Lv.2
・息 Lv.6
・気 Lv.6




