93話.地上で『鏡花』を使うには、お庭に池とカピバラと
ストックがなくなってきたので、更新が遅くなるかもです。可能でしたら土曜日に更新しますが、予めご了承ください……。
93話.地上で『鏡花』を使うには、お庭に池とカピバラと
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思わぬ物からヒントを得た俺は、急いで裏庭に戻っていた。時刻は夜の7時を回っており、庭は闇夜に包まれていた。そんな庭を優しく照らすのは上弦の月の薄明かり。縁側から見えるのは薄暗い庭と、青くそびえる竹林の影ばかりだった。
なんでジャーミンを部屋に置いて外に出てきたのかと言えば、カピバラを家の中に出すのが躊躇われたからだ。爪などで畳が傷んでしまってもいけないし、板の間は爪が滑って歩きづらいと聞いたことがある。以前にカピバラをペットとして飼えないかと調べていた時の情報だ。
「それにある程度の水場がないとダメだって言うからな。何にせよ家の中は適してないか」
南米の川や湖なんかで暮らしてる動物だからね。屋内で飼える環境を準備するのはなかなか難しい。
それにジャーミンを使わなくても、俺には魔素を周囲に振りまけるスキルがある!スキルの成長も兼ねて、俺自身で『鏡花』を発動する条件を作れないかと思ったのだ。いつでもカピバラに会いたいからと言うのが本音ではあるが!!
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さて、魔素を振りまけるスキルとはもちろん、『待機妖化』と『大気妖化』の2つ。通称"妖化シリーズ"のことである。俺とフェイしか言ってないから通称でもないか?まあいいや。
早速発動するのは『待機妖化』のスキル。このスキルは地下迷宮に漂っている魔素、純魔素と勝手に呼んでいるが、それを身体に纏うように展開することができる。
純魔素はまっさらな魔素で、探索者や魔物が体内に秘めている魔素とは別になる。無色透明な魔素と言えば良いだろうか?そんな魔素が地下迷宮の中には満ちていて、下の層に潜るほどその濃度は濃くなると言われている。その濃度に比例して魔物も強くなっていくらしいのだが、今はそれは置いておこう。
「地下迷宮の環境を真似るなら、『待機妖化』で魔素を出すのが正解だろう」
ということで早速スキルを発動して周囲を妖化させる。妖化と言うからには空気中の何かが魔素に変換されているのだろう。俺は『窒素』だと推測しているが正確な事は分からない。今度フェイに成分を測定してもらおうかな?
しばらくすると、だんだんと地下迷宮の内部のような雰囲気になっていくのを感じる。身体に力が漲るようなあの感覚だ。やる気スイッチを押されたような高揚感が全身を満たし、なんでも出来そうな全能感に心が震える。地上でこの感覚を味わえるのは新鮮で、なんだかいけないことをしている気分にもなってくる。
「ってそうじゃなくて、目的を忘れたらダメだろ」
今はカピバラ様に集中しよう!魔素は十分に辺りに発生しているはずだ。これなら『鏡花』の発動も出来るはず!!
「鏡花!……鏡花!!……あれぇ?」
うんともすんとも言わない。っかしーなー?魔素の有無がスキル発動の条件だと思うんだけどな?うーん……???分からん!!
『待機妖化』の特性は、
・待機中(身体が動いていない時)に魔素を発生させる
・魔素は地下迷宮内に漂っているものと同じ純粋な魔素(純魔素)
・魔素の発生は俺の周囲に限られる
この中に原因があるとすれば『魔素の種類』か、あるいは『魔素の拡がる範囲』になるのか?
どっちが原因かは分からないけど、それなら『待機妖化』じゃなくて『大気妖化』を使えば問題は解消されるかもしれない。
第二層に居た時は頻繁に『大気妖化』を使って戦闘をしていたしな。それに泉のそばに居た時も敵を察知するためにスキルを使っていたはずだ。
物は試しだし、やってみるか!
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俺は目を閉じて『大気妖化』を発動し、周囲に拡がる魔素を脳内にイメージする。この魔素は『待機妖化』で発生する魔素とは違い、俺特有の魔素、フェイ曰く『固有魔素』というものになる。俺の色、俺の匂いがついた魔素だ。
(俺が思うに、『鏡花』の発動に必要なのは俺の固有魔素なんじゃないかな?)
先ほど『待機妖化』で作った魔素では『鏡花』スキルは発動出来なかった。足りない要素で考えられるのは
・魔素の濃度
・魔素を拡げる範囲
・魔素の質
これらのどれか、あるいは複数が原因だと思う。濃度に関しては申し分無いはずだ。魔物の攻撃を防げる程なんだから、それだけ魔素が濃いと考えていいだろう。
ならば範囲か、それとも魔素の質か。どちらにせよ『大気妖化』ならそのどちらもクリア出来るはずだ。
「さてと……。そろそろいいかな?これで成功してくれよ〜?じゃないと泣くぞ?」
アラサーの男が泣く姿なんて見たくないだろ?誰も見てないって?それはそう。
これで上手くいかなければ、あとはジャーミンを使って試してみるしか無いんだよなぁ。出来れば自分のスキルだけでどうにかしたい。
「鏡花!」
祈りを込めるようにスキルを発動させる。夜の裏庭は暗闇と静寂、その中に妖しく広がる月明かりと、時折吹く風が竹林を騒がせる。
その時、裏庭の右手に薄桃色の光が芽生えた。その光は小さな点から膨らみ始め、やがて爆発するように薄く大きく引き伸ばされる。
なんということでしょう。その光が消えた後に現れたのは、光と同じ大きさの池が一つ。和風の家屋と竹林に挟まれた庭にマッチした、日本庭園にありそうな池が出来上がっているではないですか!
「いやなんでだよ。どっから現れたんだよ!」
ひとりノリツッコミも虚しく、突如として現れた池の中に蓮の花が一つ。蕾となって現れたそれはゆっくりと咲き始め、やがて月明かりをキラキラと弾く美しい毛並みのカピバラ様が『キュルルルル』と可愛く鳴いてそこに鎮座ましましていた。
キター!カピちゃんキター!!いやっふぅ〜い!!
と心の中で宴を開いている俺をどうにか押さえ込み、カピバラの様子を伺っていると。カピバラはやはりスイーッと泳いでこちらに来てから、俺の足元で可愛くお座りをしていた。タシッと俺の靴に前脚を乗せているのは"お手"のつもりだろうか?『久しぶり!』と挨拶をしてくれているのか?
と に か く か わ い い !!
「また会えたね〜!うれちいね〜!!」
クシクシクシと喉を撫で、頭を撫で、鼻筋を撫でと存分にモフり、久しぶり(4、5時間)の再会を喜び合う。
この子は妖精なのか、あるいは天使なのか。可愛さで言えばそれらを遥かに超越した存在のカピバラ様は、裏庭の地面に横になりながら、俺のモフりを堪能しているのであった。うーん可愛い!!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.10
・深體強化 Lv.2
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.8
・待機妖化 Lv.6
・大気妖化 Lv.6
・鏡花 Lv.3
・気妖 Lv.2
・息 Lv.6
・気 Lv.6




