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【40000PV感謝!】シンタイキヨウカってなに?  作者: taso
第三章 嫋やかな體
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90話.草原の中にあった池、『鏡花』の発生


90話.草原の中にあった池、『鏡花』の発生



 草原の中をひたすら歩いていく。あのあと見晴らしの良い高台で休憩をし、それからまた散策を始めていた。


 セーフティエリアでは無かったので警戒は怠れない場所ではあったが、辺りを見渡せる場所で心地よい風を受けながら、持ってきていたクリームパンをハムハムするのは楽しかったな。

 パン屋さんの開拓で見つけたクリームパンが有名なお店のクリームパンは、バニラビーンズの香りが豊かな甘いカスタードクリームがたっぷり入ってて美味しかったです!!


 それからまたグラスウルフの群れに遭遇し、今度はガチンコで戦ったりして戦闘経験を積み重ね。敵の位置と自分の位置を『大気妖化』で探りながら戦うのは難しかったけど興奮した。レベルも上がったみたいだし実りが多い戦いだった。


 複数の魔物相手の戦いは怖さもあったけど、自分が想像していた、空想していたファンタジーの世界で探索者をやってるんだと実感出来るのが嬉しかったんだ。もちろんスキルや総合レベルの恩恵が大きいけどね。


「結構歩いてきたけど、だいぶ草丈が高くなってきたな」


 しばらく歩いていると見通しが悪くなり、足元も少し危うくなってきた。潜んでいる魔物や、グラスラビットの掘った穴に足を取られないかと気を張りながら歩いていく。


 俺の身長は170ちょいぐらいだと思うが、外から見ると俺の顔だけが出ているような状態だろうか?ギリギリ視界は確保できているが、遠くを見通せる状態じゃない。


「まるで草の迷路だな」


 ふとそんな感想が出るぐらいヤバい。今の状況は少年時代に思い描いていたような、まさに冒険といった感じで楽しいっちゃ楽しいけど、草迷路を掻き分けながら歩いていくのは思った以上に体力を削られる。


 地下迷宮の中にこんな草原があるんだからビックリだよな。地下じゃなくて"草迷宮"ってね。草迷宮か、なんか懐かしい響きだな……。


 なんでこんなに危険な場所を歩いているかと言うと、『進退強化』のスキルで"珍しい場所"というなんともアバウトな条件を思い浮かべながら進んでいるからだった。


 初めて訪れた第二層、そして草原エリアだからね。早々に次の階層に行くのはなんというか寂しいというか。楽しみたいなと思ってしまったわけでして。今ではちょっと後悔している自分もいる……。


「にしても、ちょっとジメジメとしてきたかな?」


 なんとなくアマゾンの湿原をイメージする。川をワニが泳いでいたり、湖にカピバラが浮いていたり。その頭に色鮮やかな鳥が留まっていたりと、最近見た動物番組の映像が思い起こされる。


 転移してきた時は爽やかな風も吹いて過ごしやすい空気だったが、ここら辺の空気はジメっとしてて少し蒸し暑い。空気の匂いもなんとなく水臭い。

 『言ってくれたら良かったのに!お前水くせぇな!』とかではなくて、マジで水の臭いがする。言葉では言い表せないよな、この独特の臭いは。


 更に歩いていくと、ついに『進退強化』のスキルが示している場所に近づいてきたみたいだ。上から見ていると、目の前にぽっかりと穴が空いているのが分かる。ただ草丈が未だに高いため、たどり着くまでは何があるのかは伺えない。


 そしてやっとたどり着いた場所は……。


「池?かな?」


 まんまるく草原を切り抜いたように存在していたのは、キラキラと水面が輝く水辺だった。



 大きさ的には湖とは言い難く、かと言って池なのか沼なのか、はたまた泉かと言われると言葉に困る程度の大きさの水たまりがそこにはあった。


 それらの違いは大きさや水深、あとは底に植物が繁殖しているかいないかなどの違いがあるらしいのだが、明確な基準は無く、あくまで慣例として定まっている程度の違いらしい。


「川が繋がっていないから水源がどこかは分からないな……」


 となると底の方に水源がある泉かも知れないし、あるいは雨などで窪地に水が溜まって出来た池や沼の可能性もある。ってそんなのはどうでもいいか。地理に特段造詣が深いわけでも無いし。


 キラキラとした水面を覗き込んでみると、それ程汚れてはおらず、かと言って底まで見えるほど透明だとも言い難い感じ。

 なによりキラキラと光を反射しているために、青い空が映り込んでいて水の中を伺い知る事は難しそうだった。


「かと言って安易に近づいたり、水に触れるのもな……」


 風景から忘れてしまいがちだが、ここは地下迷宮の中である。水棲の魔物なんかもいるかも知れないし、水そのものが安全とも限らない。


 それに自然の水は安易に飲んだりしてはいけないって言うからな。少し距離を開けてしばらく様子を見てみるか。


 草の中に隠れて観察を行うと、少しして遠くからガサゴソと音が聞こえる。向こうの方からやってきたのは、10頭近くはいるグラスウルフの群れだった。


(こっちに気付いている様子はないな。あるいは分かってるけど警戒はしていないとか?流石にこの数を相手にはしたくないぞ)


 グラスウルフの群れは、リーダーと思われる個体が辺りを警戒する中で、他の者たちが優雅に水を飲んでいる。その様子から水中を警戒していない事が分かる。この中に敵対するような生き物はいないようだった。


 さらには躊躇なく水を飲んでいることからも、水質にも危険がないと判断できる。もちろん魔物基準なのでなんとも言えないが、水自体は綺麗なのかもしれない。となると水が常に湧いている泉だろうか?


(にしても、幻想的な光景だな……)


 淡いグリーンの狼たちが、水辺に集まり水を飲んでいる風景はなんとも筆舌に尽くしがたい、美しい光景だった。


 長い鼻筋から顔、そして身体へと流れるシルエット。雄々しくも美しい狼たちは、悠々とした佇まいで水面に口を付けている。

 水鏡に反射した狼の綺麗な毛並みは、ちゃぷちゃぷと広がる白い波紋に揺らめいては消えていく。


 地下迷宮ならではのその眺めは、まさにここでしか見れない幻の絶景だろうか。


 鏡花水月。美しくて手を伸ばしても、実際には掴めない。本来なら実体のないものを表す言葉だが。


 そんな景色を今では生で、しかも俺だけが独り占めして見る事が出来ている。そんな状況に俺は興奮していた。探索者になってよかったと、これだけでもそう思える体験だった。


 俺がぼーっとその光景を見ているうちに、気がつけばグラスウルフたちは姿を消してしまっていた。自分の警戒心のなさに呆れてしまうが、警戒心が無かったから相手に悟られなかったのかも知れない。今はそう思っておこう。


「鏡花、か……」


 またこんな風景に出会いたいなと思いながら、ふと呟いた言葉に、何かが反応を示したように心の内に波紋を打つ。徐々に意識がハッキリとしてくる俺の中に、新たなものが芽生えた感覚がした。




✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

菅田(スダ) 知春(チハル)


◆シンタイキヨウカ

・新躰強化 Lv.10

 ・深體強化 Lv.2

・身体器用 Lv.8

・進退強化 Lv.8

・待機妖化 Lv.6

・大気妖化 Lv.6

・鏡花 Lv.0

・気妖 Lv.2

・息 Lv.6

・気 Lv.6

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