88話.草原の魔物、グラスラビットとグラスウルフ
88話.草原の魔物、グラスラビットとグラスウルフ
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草原でひとときのゴロゴロを楽しんだあと、俺は風を頼りに歩き出した。風を背に受け、風が向かう方へとただひたすらに歩いていく。それはきっと、あの空に浮かぶ大きな雲の行き先と同じなのだろうか。
しばらくすると、何か透明なものを通り抜けたような感覚があった。日本語としては不可思議に思えるが、そこには無いし触れないはずなのに、何故かここには何かがあったと感覚がある。やっぱり何言ってるか分からないな。
恐らくだがセーフティエリアを抜けたんじゃないかな?第二層からしばらく続く草原エリアは広大な亜空間だと言われている。無限に続くかのような印象もあながち間違いではないということだ。
「まるでヴァンパイアを探すゲームみたいだな。どこまで行っても果てがない感じ」
そんな階層に転移した時、ランダムで俺たちは配置されるらしく、その時に転移した場所から数メートルの範囲はセーフティエリアとして設置されるみたいなのだ。
恐らく他の探索者や魔物なんかと干渉しないようにそうなっているんだろうな。転移する方としてもいきなり魔物に襲われる心配がないわけだから、なんともユーザーフレンドリーな仕様だ。ちょっと"出来すぎてる"気もしなくもないが……。
まあそういうもんだと割り切るしかないな。それがこの世界の地下迷宮なのだから。
「ここからは魔物が出てくるって事だよな。気合を入れよう」
第二層の魔物だからそこまで強くはない。とは言え第一層の魔物なんかとは比べ物にならない強さなのは間違いない。
1対1で戦う分には余裕を持って処理も出来るが、ボス部屋と違い複数の魔物に襲われる事もあるし、いつの間にか後ろに湧いてることだってあるだろう。
特に草原で一番気を付けないといけないグラスウルフは"基本的には"群れで行動するから、複数の敵と戦う訓練の意味でも気を引き締めて行きたいね。
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「あれが普通のグラスラビットか。クリーム色でモフモフしてて可愛いな」
草原を歩いて数分で、一羽のグラスラビットを発見する。大型犬サイズのウサギという外見は、ボス部屋で戦ったアンラッビーと大きな違いはない。もちろんあんな真っ黒な毛色ではなくてクリーム色だし、輪郭が光ってたりもしない。
なんなら一般的なウサギと殆ど変わらないはずなんだが、感覚としては『魔物がいるなぁ』としか感じない。庇護欲も湧かないし、アンラッビーの時のように攻撃を躊躇したりもなさそうだ。
「やっぱあの時は、スキルの影響があったんだろうな」
そうなるとどんな基準でスキルが影響してくるのかが分からず不安になるが、今のところスキルによる危険や弊害みたいなのは無いし、アンラッビーの時も何かしらの意味があったのだと思えるから不思議だ。
まあ無事に探索者タグだけではなく、ウサギの尻尾みたいなアイテムも手に入ったわけだし、メリットもあったと考えても良いよな。
ちなみにあのアイテム、フェイに鑑定してもらったところ『ウサギの尻尾』とそのままの名前だった。効果も"装備したものに幸運を運んでくれる"なんて曖昧なものだったしな。
「一花もなんだかんだ言って気に入ってるみたいだし、良かった良かった」
装備を少し弄って、尾てい骨の辺りに付けられるようにして装備しているとか。白百合とフェイがノリノリでつけちゃったんだと。慌てる一花の姿が目に浮かぶようだ。
さてと、第一村人ならぬ第一魔物をせっかく発見したわけだし、勝負だグラスラビット!!
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「うん。楽勝でしたね」
動きは速いし、アンラッビーとは違って突進だけじゃなく色んな動きも見られたけど、能力自体はさほど高くはない。俺の総合レベルなら余裕を持って観察、対処が出来た。
後ろ脚で土をかけてきたり、顔に向かって飛び込んできたりは少し面食らったけど。というか物理的に面食らったけど。威力も高くはなく、念のため『待機妖化』で防御もしたし、こちらの被害はゼロだった。
なんなら若干の消化不良まである。俺は一花ほどのバトルジャンキーってわけではないんだが、戦闘経験は多ければ多いほど良い。新たな魔物を見つけよう!
「そうなると複数、それも群れの魔物がいいな」
第一層でも複数相手の戦闘はしているが、それはただ複数だった"だけ"なんだよな。ゴブリンのリーダー格が居たわけじゃないし、スライムはそもそも群れという概念を持っていたりはしない。
第二層からはリーダー格の魔物が現れるようになる。すなわち群れを統率する魔物が出てくるという訳だ。そうなると烏合の衆ではなくなる。
なお実際の烏たちにはキチンとしたリーダーがいるのだが、ことわざが出来た時代にはそういった知識は無かったのかもしれないし、バラバラにカーカーと鳴きわめく様子からそう見えたのかも知れないな。閑話休題、魔物を探すとしよう。
「おーい、『進退強化』えもん〜!この近くでグラスウルフの群れがいる場所はどこ〜?」
スキルから『変な呼び方やめろし!仕事しねーかんな!!』みたいなクレームがあったとかなかったとか。なんでちょっとギャルっぽい話し方なんだろうか?とにかくグラスウルフで適度な数の群れが見つからないかとスキルを使用する。
グラスウルフを見た事は無いが、このエリアで群れで動いている知らない魔物を探れば、きっと良い感じのをスキルが見つけてくれるだろう。
「ん、多分こっちだな」
なんとなくの感覚を頼りに、風に逆らいながら進んでいく。なるべく先手を取りたいからな。風下から近付く事が出来るのは僥倖だ。
そうして歩いていった先に居たのは、目を凝らさないと分からないほどに草の色に擬態した、若葉色の三頭の狼の群れだった。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.10
・深體強化 Lv.2
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.6
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.2
・息 Lv.6
・気 Lv.6




