83話.黒い光と『待機妖化』、探索者になる為の課題
83話.黒い光と『待機妖化』、探索者になる為の課題
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動きの止まったアンラッビーだったが、白くなった箇所が少しずつ黒く侵蝕され始めると、また苦しむように叫び声をあげた。白くなるのは一時的なものらしく、放って置いたらまた苦しませてしまうみたいだ。
こちらも体当たりされた箇所の痛みが引くのを待ちながら観察していたため、追撃するチャンスを逃してしまった。
「知春!ダメージは大丈夫なのか!?」
「ああ、怪我自体はしていない。少し痛みがあったから休んでいただけだ」
「そうか、なら良いんだけどよ……」
観察に集中して動きを止めていたため、一花に心配をかけてしまった。また同じような心配をさせないためにも、本当は早々に決着をつけたいところだが……。
(悪いな、この戦いは"試金石"にさせてもらう)
アンラッビーへの勝ち筋が見えた今、俺は総合レベルの高さによる早期決着を捨てる事にした。俺はこの勝負を『待機妖化』で終わらせる!作戦名は『なんということでしょう!?匠の技で驚きの白さに大作戦!!』なんてどうだろうか?……却下だな。
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何故俺がアンラッビーと戦いたいと思えなかったのか、考えられる事は幾つかある。
・アンラッビーの苦しそうな様子に同情した
・ウサギの見た目から一花のスキル『ラビットラピッド』を連想してしまい、攻撃を躊躇してしまった
・俺のスキル『シンタイキヨウカ』による直感みたいなものの影響
これまで戦ってきた魔物は始めから苦しむような素振りを見せた事は無かった。その違和感から、苦しむアンラッビーを見て俺は"過去の自分"を重ねているのかも知れない。
何かに常に苦しめられ、逃げ惑う姿を見て、俺は他人事にはどうしても思えなかった。
あるいはウサギの見た目をした魔物と初めて相対した事により、一花の事がチラついてしまったのかも知れない。
一花のスキル『ラビットラピッド』はウサギの獣人の恩恵を受けるスキルだと言っていた。後ろで見ている一花にとっては、ウサギの魔物と戦う俺の姿はどう見えるのだろうか?なんて思った部分もあるかも知れない。
最も高い可能性として、俺のスキルがアンラッビーへの攻撃をして欲しくないと言っている可能性。これは以前に地下迷宮へ行けと、ボス部屋に導いた時のあの感覚に近いものだ。
それは俺がするべき事は何かを、自然と示してくれるものだと言う信頼があった。体質の改善もそうだし、一花を助けられた事もそうだし。いつも俺を助けてくれたこの感覚を、俺は信じていいと思えている。
(どれが理由かは正直分からないが……俺がコイツと真正面から戦いたくないと感じているのは確かだ)
だか結局のところ、俺はそれだけでいいと思っていた。この黒い魔物を攻撃したくない理由など、その程度で構わないと。
なぜならさっきとは違い、別の戦い方を俺は既に見つけてしまったからだ。
『待機妖化』による防御、その時の接触でアンラッビーの黒い身体は一部分だけだが白くなっていた。そしてそれは時間の経過とともに戻ってしまった。
さらにはアンラッビーの赤い目。これは白いウサギのような、遺伝子的に色素の薄いウサギと同じ色だった。つまるところ、
(コイツの本来の色は黒じゃなくて白い可能性が高いってことだ!)
第二層に現れる魔物にもウサギ型の魔物はいる。草原のウサギと言うことから『グラスラビット』と呼ばれているが、その中には白いウサギも居たはずだ。そして黒いウサギはレアな『アンラッビー』しか居ないとも聞いている。
ならば考えられる事は明らかだ。コイツは元々白い身体をしたグラスラビットだが、何かしらの出来事で黒くなってしまった。それは身体そのものを黒く染めてるわけではなく、黒い"ナニカ"によって身体を覆われている。
そう考えるとアンラッビーの苦しみようも合点がいく。コイツを苦しめているのは正しくその黒いナニカなのではないか?そしてそれを取り払えれば、元の白いウサギに戻れるんじゃ?
(探索者の資格を得るための大事な試験で、何を酔狂な事を考えてるんだろうな)
自分で思わず笑ってしまうが、出来そうだと思ってしまったんだ。俺ならやれると感じてしまったんだ。理屈や効率を重視して、省エネ低燃費で生きてきたこの俺がさ!
こんな事を考えている間も、アンラッビーは闇雲な突進を繰り返しており、そのうちの幾つかは俺に向かってきてもいた。
それを相手の動きから先読みし、余裕をもって回避する。そう、この作戦において必要なのは先読みと余裕なのだ。
(これから先、探索者になるならさ!これぐらいのピンチは何回もあるだろうからな!そのための修行だと思えば良いんだよ!!)
相手はコイツ一匹。他の魔物が発生するリスクも無いボス部屋という閉鎖空間。そして後ろには探索者の先輩方が三人もいるんだ!こんな恵まれた環境がこの先どれだけあると言うのか?
だからこれは試金石。舐めプだとか、縛りプレイだとか、そう言われてしまえばその通りかも知れない。
だが探索者として自信を持ってやっていくためには、自らに試練を課さなきゃいけない、と思うんだ。誰に言い訳してるんだって話だが……。
「みんな!ちょっとやりたい事があるんだ。悪いけどもう少しだけ見守っていて欲しい!」
「はぁ!?こんな時に何言ってんだよ!さっきから何度も攻撃するチャンスを見逃してるってのに!」
「いやお怒りはごもっとも!でもさ、これは俺が探索者になるために必要なことだと思うんだ。ちゃんと説明は出来ないけど、そう思うんだ!」
アンラッビーが反対側に突進をしたタイミングで後ろの三人に話し掛けたが、当然怒られるよな。やっぱり攻撃するチャンスが何回もあったのはバレてるし、ヤキモキさせてしまってるのも理解している。
「なんだか分からんが、戦い方は探索者の自由だ、好きにしろ!だが危ないと思ったら試験官として強制的に助けに入るからな!それは覚悟しておいてくれ!」
「すみませんケンゾウさん!」
最初にケンゾウさんからゴーサインを貰えた。
「知春がなにかしたい事があるのはなんとなく分かる。でもあまり無理はしないで。地下迷宮は家に帰るまでが探索だから」
「分かったよ白百合。ありがとう」
白百合にも許可を貰い、あとは一花だけという構図に。こうなると一花は弱い。
「ああもう!危なくなったらちゃんと助けを呼べよ!状況に応じて仲間を頼る!それも探索者の必須スキルだからな!!」
「ああ!ありがとう一花!!ちゃんと戻ってくるから」
言ってみれば自己満でしかないこの戦い。だが所詮人のやる事はみんな自己満だ。どうせ自己満なら、とことん自分が満足するまでやってやる!周りに甘えられる内にね。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.6
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.22
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◆陽乃下 白百合
◆ディープフォレスト Lv.27
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◆幡羅 謙三
◆身体強化 Lv.12 体力 Lv.10 投擲 Lv.8
体術 Lv.9




