80話.実技試験の過程、ボス部屋に居たのは……
80話.実技試験の過程、ボス部屋に居たのは……
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「準備も良いみたいだし、それじゃあ出発だ!」
と言うケンゾウさんの号令一下、俺たちは地下迷宮に潜った。朝の地下迷宮は人があまり居らず、程よい暗さもある為かとても居心地が良い。総合レベルによる身体の充足感がそう思わせているのもあるだろう。
「ここからは俺たちは出来る限り干渉はしない。ボス部屋に辿り着くまでもテストの範疇だと思ってくれ」
「分かりました。よろしくお願いします」
俺が先頭を歩き、その後ろを少し離れてケンゾウさんが、さらにその後ろを一花と白百合の二人が付いてくる感じになった。
RPGでパーティがゾロゾロと並んで歩く感じを思い出してしまい、少し笑ってしまう。まあ俺は龍の依頼より最後の幻想派だったが。
地下迷宮で最初にする事、それはもちろん!
「ここに沢山ありそうなんだよな……っと、やっぱり大量だ」
そうだね、石拾いだね。洞窟タイプの一層にはそこら辺にも石が落ちているが、投石訓練や採掘が行われた脇道では、多くの石が残されている事がある。そんな当たりの場所を引き当てるのに『進退強化』のスキルは便利だ。
「菅田さんの『探査』スキルは、石が多い場所なんかも調べられるのか?」
「え?あー、これは魔物が少ない場所を探って。その辺りの脇道は投石訓練なんかに使われている事が多いので。今回は一発で当たりを引けました」
「そうか、なるほどな……」
そう言ってケンゾウさんは手元の手帳に何かしらを書き込んでいる。スキルを偽装している手前罪悪感は否めないが、『進退強化』スキルの内容的には同じようなものだと思うし、嘘は言っていないはずだ。うんうん。
そうやって石を適当に拾ってから、今度はボス部屋へと続くルートを探る。この場合目標になるのはコウモリ型の魔物、その名もバットだ。
以前に一花を助けた日も、『進退強化』のスキルはバットを目指していたんだと思う。ボス部屋の周囲にはバットが居るって知識を俺が持っていたからな。
なるべく魔物が少ないルートをイメージして歩いているが、運悪くスライムに出会してしまう。非生命体のスライムはスキルでの確認がやや難しいのかも?とか推測しながらも投石で仕留める。一発で核をやれたな、ラッキー!
「ほう、投擲スキルは無いはずだがエイムは良いな。これは『器用』スキルの影響か?」
「そうだと思いますよ。あとは身体強化のバフも重なっているのかなと」
途中に現れたスライムを一発で倒すと、またしてもケンゾウさんから確認があった。こうして様子を見ながら、鑑定したスキルがどのように機能しているのかを確認しているんだろうか。結構ちゃんと見られているんだなと実感してしまい、緊張感が高くなる。
「そう言えば『身体強化』のレベルも結構高かったな。菅田さん悪いが、そこのゴブリンを『身体強化』を使って倒してくれないか?」
「分かりました」
避けて通ろうと思っていたゴブリンだったが、スキルを見るためと言われては仕方がない。
いつもは他のスキルと同時に『シンタイキヨウカ』も(強制的に)発動しているんだが、今回は久しぶりに単体で使ってみようかな?
『シンタイキヨウカ』は単体だと普通の『身体強化』と同じ効果で、スキルの強さも特別強くは無い筈だ。と言うのも、地下迷宮内では単体で使う機会は無かったので、その効果は未知数だった。
とはいえスキルが派生するまでは当たり前のように使っていたから、ほぼ無意識で発動出来る。慣れって怖い。
(あれ?なんか身体が軽い?)
思った以上に移動が速く力強い。他のスキルを使ってる時と比べると3割ぐらい強くなってる気がする。3割美味い!(埼玉ネタ)
『シンタイキヨウカ』単体で使う方が効果が高いのか、あるいは今日は調子が良いのかも知れない。ゴブリンはあっさりと頭部を打ち抜かれて、地面に魔凝核を残して消えた。
「ほう、良い動きじゃねーか!」
「はい!なんだか今日は調子が良いみたいです!!」
「それは僥倖だ。そんじゃいよいよボス部屋だな!」
途中に現れたバットも難なく投石で倒して、ついに俺はボス部屋に辿り着いた。時間としては20分も掛かっていないだろうか?俺含めてみんな総合レベルが高いからな。運動能力が高いから休憩もせずに短時間でここまで来れた。
「菅田さんは休憩がてら待っててくれな。俺が扉を開けるから、一花ちゃんたちは周りの警戒を頼む。他の訪問者や魔物が来ないように見ててくれ」
「おう、任せてくれ!」
「分かった。深呼吸だよ、知春」
白百合に言われて、俺は素直に深呼吸を行う。ケンゾウさんは苦笑しながらボス部屋の扉に近付き、自分の首に掛かっている探索者タグを扉に触れさせた。
観音開きになっている扉の右側だけがゆっくりと開いていく。大人が二人ぐらい通れる隙間が出来ると、扉はピタリと止まった。
「いよいよボス戦だ。レアな魔物もたまに出るが、どのみちそんなに強くは無い。落ち着いて対処したら菅田さんなら勝てるからな。入る順番だが……」
それからケンゾウさんと俺、一花と白百合の順に入り、俺たち全員が中に入ると、扉は開く時と同じようにゆっくりと閉じられた。
部屋は四角くてだだっ広い構造。その奥には石で造られた祭壇のようなものがある。まさにボス部屋といった感じで、雰囲気あるな……。
部屋の中央には円が描かれており、幾何学模様で縁取られたそれはさながら魔法陣のような、あるいは闘技場の舞台のようでもあった。その円がより一層俺の緊張感を高めてくれる。思わず痛くもない腹をまた撫でてしまう。癖になってるんだ、以下略。
「あの円形の模様が見えるか?あそこにタグを持っていない奴が入るとボスが現れる。そんでボス戦が始まり、倒すと宝箱が現れてタグがゲット出来るって流れだな」
「円をスルーして奥に行ったら?」
「なーんにも起きないな。ギルド職員を同行させて部屋に入った事があるが、円に立ち入らない限りはうんともすんともしない」
なるほど、これは次の階層に進むための儀式でもあるんだろうな。その意思があるものだけが試練に挑めると。面白いじゃん。男心をくすぐるような内容に、らしくも無く高揚している自分がいた。
俺はケンゾウさん、一花、白百合の顔を見て頷いてから、儀式の舞台とも言える円形の中にその足を踏み入れる。
全身が中に入りきると、円周に沿って白い光が煌々と立ち上がり、やがて俺と反対に位置する場所に魔法陣が発生する。
魔法陣の光は最初は白く輝いていたが、やがて黒い電気のような光がバチバチッと音を立てると、次第に黒くて妖しい雰囲気となり。
しばらくすると、中からウサギのようなシルエットの黒い塊が現れた。シルエット的にはロップイヤーだろうか?耳が垂れてるやつね。
すげー厨二病な演出だ!と一人感心していたのだが、後ろに控えている三人からの反応は全くの別物だった。
「うわぁ、コイツはハズレもいいところだな」
「マジかよ、アタシでも初めて見るぞアレ……」
「あーあ、一花がフラグ建てたから」
え、そんなやばい奴なのアレ!?き、今日のところはやめときません?延期にしよ延期!ヘルプミー!!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.5
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.22
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◆陽乃下 白百合
◆ディープフォレスト Lv.27
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◆幡羅 謙三
◆身体強化 Lv.12 体力 Lv.10 投擲 Lv.8
体術 Lv.9




