78話.『ジャーミン』の設置、ジャミングの仕組み
78話.『ジャーミン』の設置、ジャミングの仕組み
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「「ご馳走様でしたー!」」
二人してほぼ無言で麻婆豆腐丼をかき込み、気付いたら食べ切ってしまっていた。美味しかったから仕方ないよね?フェイも満足そうな顔をしてくれているしな。ひとまず大成功と言っても良いだろう。
自家栽培のニンニクが出来るのは来年の6月辺りだろうか?上手く出来たら、今度はそのニンニクや葉ニンニクを使って麻婆豆腐を作ってみたい。
もちろんプロが作るニンニクには一段落ちる味になってしまうだろうが。きっと別の美味しさを感じられるだろうと期待している。今から楽しみだ。
「そうだ、今日ギルドに行ってさ。探索者の受験申請してきたよ。筆記試験も受けてきた」
「おおー!ついにだね。手応えはどう?」
「うーん、正直問題無いとは思うが。思い違いとか書き間違いをしてる可能性もあるし、不安はあるかな」
「そうだよねー。まあ私は問題無いと確信してるよ!ちはるんは慎重な人だし、知識の部分でも十分満たしてるはず」
「そう言ってくれると少し気が楽になるよ。ありがとな」
フェイは『いーんだよー!グリンだよー!』などと照れくさそうに答えていた。そのネタはかなり古いと思いますよフェイさん!?俺でも父さんが言ってるのを聞いて知ったぐらいだし。
まあ筆記試験についてはやれるだけはやれたと思う。ここは違ってたなーとかは特段思いつかないので、あとは結果を待つだけだ。いつ頃連絡が来るんだろう?明日とかかな?
「そうそうー、今日はジャーミンを設置しにきたのだよ!」
「ジャーミン?ああ、言ってたやつか」
「そそ、ちはるんの部屋で良いんだっけ?」
「ああ。他に適当なところも無いからな。頼むよ」
「おけおけー!もし問題があったり、別の場所にしたいとかあったらいつでも言ってねん!」
ジャーミンとは、ジャミングする為の装置だ。俺の家でもスキルの会議など秘密の話が出来るように、盗聴などの防止目的で取り付けるとフェイが持ってきてくれたみたいだ。
まあ難しい事は分からないので、フェイにお任せだな!なんかエアコンの取り付けに来て貰った業者さんみたいな感じがする。
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「何も無い部屋だねー」
「まあな。あんまり物があっても扱いに困ると思って」
ジャミング用装置、通称『ジャーミン』と言う、谷の妖精みたいな名前の機械を設置しに俺の部屋へとやってきた。
俺が爺ちゃん家に泊まる時は、和室のそんな広くない一室を子供の頃から使わせて貰っていた。その部屋をそのまま今でも使っている。
特に母さんが家を出てからは父さんは忙しくなり、よく祖父母の家で寝泊まりをしていた。その頃は広い部屋は寂しくなるだろうとこの部屋にして貰ったが、今ではこの広さが落ち着くんだよな。畳の匂いが心地良い。
「ふーん、確かにお掃除とかはしやすそうだねー。私なんかは逆にたくさん集めちゃうから、整理が大変だよー」
「フェイは仕事柄物が必要になったり興味のある事が多いだろうからな。仕方ないと思うよ」
「ちはるんは本当に良い子だねー」
「だから撫でるなって」
ただフェイの目線、フェイの立場になって想像したらきっとそうなんだろうなって事を言っただけなんだけどな。それで撫で撫でされてもむず痒いだけだ。
俺の部屋は六畳ぐらいの広さに押し入れが付いてるだけでシンプルだ。部屋にあるのはスマホを使う時に腕を乗せたり立てかけたりするのに使う小さいちゃぶ台と、それから……。
「このぬいぐるみだけは異彩を放っているよね。これってカピバラ?」
「ああ!世界一可愛い生き物だ」
そう、大人のカピバラの1/1スケールと言うビッグなぬいぐるみが奥に置かれている。ちゃぶ台だけだと寂しいかなって思った時に、ついネットでポチってしまった。地下迷宮で多少の稼ぎがあったし、後悔はしてないけどね!
カピバラの愛らしさや魅力を語ると三日三晩は徹夜しないといけないから割愛するが、まあ誰が見ても可愛い生き物だ。特に温泉に入ったり人に撫でられてる時なんかは目がとろーんとしてて最高に……。
「それで、ジャーミンはどこに置いたら良いかな?かな?」
ひぐらしが鳴きそうな雰囲気でフェイが語り掛けてきたので意識を戻し、本来の目的を遂行して貰うことにした。もう少しカピバラの事に夢中になっていたかったが、このままでは危ない物が入ったおはぎを食べさせられかねない……。
「じゃあカピバラ様の横で」
「様って……」
「さん付けだと別の存在になってしまうからな」
「ちょっと何言ってるか分からない」
などと話しながらフェイが持ち込んだリュックの中から出てきたのは……。
「カバ?」
「ジャーミンだし?」
「フォルムまで寄せるのかよ。つうかこれでジャミングの機能があるのか?」
「まあまあ、慌てない慌てない」
それはデフォルメのカバがお座りしている形の物だった。全体が水色のボディは電化製品ならではの硬質な印象はあるが、丸っこいフォルムは可愛いカバさんである。カピバラ様の横に置くと……。なんか似たようなシルエットの二人で妙に収まりが良い。
「なんだろう、違和感無いな」
「うん、違和感無いねー」
元からここにあったかのように鎮座している。むしろカピバラ様がいる事で統一性が生まれていると言うか……。なんだこれ?
「それでコレを引っ張ってコンセントに、と」
「うわ、尻尾がプラグになってるのか!凝ってるな」
「でそでそー?尻尾の毛先がキャップになってるからホコリ防止にもなってるよー」
尻尾型のプラグを伸ばしてコンセントに差し込み、お腹にあるスイッチを入れると。
「水蒸気?加湿器かこれ?」
頭の吹き出し口?から白い靄が現れ始めた。
「そそ、表向きはね?でもー」
今度はカバさんの口の中に指を入れ、フェイはそのままジッとしている。暫くすると……。
「あれ、なんか……地下迷宮っぽい感じする?」
「おー!まさにそうなんだよ!実はコレ、魔素発生装置でもあるのだ!加湿器に擬態させてるから、誰かに見られても安心!」
「へー。そんでなんで魔素を?」
フェイによると、以前に言ってた『地下迷宮では電波系の機械は使えない』ってのがポイントらしい。使えない理由は魔素が充満しているからだとされているが、フェイはその仕組みをジャミングに応用したようだ。
「以前は魔素を生み出しても使い途がなかったんだけどね。地下迷宮の環境を再現したりとかぐらい?」
「再現してどうするんだ?」
「どうにもならなかったんだよー、魔素の研究に使うぐらいでさー。でもこの前、妖化について考えてる時にさ!ジャミングに使えるんじゃ?って思い付いて作ってみたんだー」
「ほえー」
さすフェイっすわ。よくそんなん思いつくよ。そして実際にそれを作り出せる知識と技術力よ。改めて尊敬した。
「口の中のスイッチは指紋認証でオンオフ出来るからー、その登録だけしちゃうね!」
「お、おう」
フェイがお腹のスイッチを押して停止させた後、今度は二回ポチポチッと押し、そのまま数秒押し込むと『ピーッピッピ』と音がする。
「んじゃ指入れてねー」
「お、おう」
「オットセイかな?」
おうしか返事してないのを揶揄われてしまったが、気にせずカバさんの口に指を入れる。中も外側のように硬質でスベスベしている。こう言うのって今は3Dプリンターとかで作ってるのかな?
なんて思ってたら『ピー』と長い音がする。どうやら登録は完了らしく、最後にお腹のスイッチを二回押して登録作業は終了したらしい。
「もっかい指入れてねー」
「あいあい」
「お猿さんかなー?」
再度指を入れると、今度は何も音はしなかったが、なんとなくさっきのように空気感が変わった感覚がする。地下迷宮の空気、魔素に身体を包まれているあの感覚だった。流石に地下迷宮よりは薄らとしてるけどね。
「動作確認ヨシ!お疲れ様でしたー」
「案外すぐだったな」
「手間かかるやり方じゃ使い勝手悪いからねー」
これで俺もジャーミンを使えるようになったみたいだ。まあ普段は使う機会は無さそうだけどね。
「今度からはここでスキルの会議しようねー。私の部屋はDMCの所有だし、どうしても懸念はあるから」
「ああ。また何かご馳走するよ!」
「ほんと!?会議しなくても来ていい!?」
「仕事が忙しいだろ?」
「うがー!そうだった!!」
そんな感じでフェイは帰って行った。ちなみにニンニクの臭いは大丈夫かと聞いたら、今日は一人で研究する予定だったらしく、ブレスケアもするから心配無いらしい。臭い消しと言うとガムぐらいしか持ち合わせが無かったので心配していたが、問題無さそうで良かった。
◆
その日の晩、スマホに電話があった。普段はフェイ自作の通話アプリを使ってるから、電話の着信音はなんだか新鮮だった。
「え、ギルドから?もしかしてもう試験結果が?」
……俺は大きく唾を飲み込むと、恐る恐る電話に出た。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.5
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◆潤目 フェイ
◆知性 Lv.12 投擲 Lv.4 観察 Lv.10
鑑定 Lv.2




