76話.筆記試験、ニンニクの植え付け
76話.筆記試験、ニンニクの植え付け
◆
「っつーわけで、これから筆記試験だけど良いか?後日でも問題無いぞ?」
「うーん、今からで大丈夫です!」
「そうか!じゃあ後は別の者に引き継ぐからな!ここで待っててくれや」
「はい、よろしくお願いします」
ステータス鑑定も無事?に終わり、これから筆記試験に入る。内容自体は何回も勉強していたから、これ以上は学び直しの必要も無いだろう。と言うか当たって砕けろと言うか、出たとこ勝負だな。
俺は試験前に詰め込むようなやり方はしたことは無かった。体調に響くから出来なかったとも言えるが、詰め込んで試験で答えられたとしても、内容が身につくとは思えなかったからだ。毎日少しずつ、コツコツやってる方がなんだかんだで楽なんだよな。肉体的にも精神的にも。
まあね、人付き合いの煩わしさが無かったから出来たことかも知れないけどさ。友達が居なかっただけだって?ほっとけ(誰に向かって言ってるんだ)
用意されていたパイプ椅子に座り直して、スマホで軽く見直しをしておく。知識が定着しているかの確認は大事だ。直前に吸収しようとしても知識としては零れ落ちるだけだしな。確認程度に時間を使うべきだろう。
「失礼します」
「あっ、どうぞ」
ノック音三回、外からの問いかけに答えると、受付嬢の菅野さんが書類を持って入ってきた。あれが恐らく筆記試験の問題と解答用紙だろうか?途端に緊張がやってくる。
ただ以前なら痛くなっていた肚も、今では痛まなくなっていた。それだけで精神的にもだいぶ楽になる。病は気からとも言うが、気持ちと痛みは相互作用で関わり合っている。悪くなると余計に悪くなるし、良くなるとより調子が良くなったりする。
要は一つでもキッカケが有れば、良い方に上向いていけると言うことだ。俺で言えばスキルと言うチートなものが転換点となってくれた。逆に言えば、チート的なものが無かったらずっと悪いままだったんだろうけどな……。
「解答はマーク式で行って頂きますが、鉛筆や消しゴムはお持ちですか?こちらで貸し出しもありますが」
「えーと……大丈夫です、持ってました」
「そうですか。それでは今から始めますがよろしいですか?時間は40分です。お手洗いに行って頂いても大丈夫ですよ」
腹具合も問題無いので、そのまま試験を始めることにした。ふう、試験を受けるのなんて大学以来かな?この独特の緊張感は何歳になっても慣れないな。
「それでは……はい、始めてください」
◆
問題は自動車免許を取る時に受けた試験のようなものだった。問題の一例としてはこんな感じで、
問.地下迷宮の魔物には専用の装備以外は使えない
問.地下迷宮には専用の装備以外の持ち込みをしてはいけない
この場合、最初の問いはマル、二つ目の問いはバツとなる。地下迷宮に出てくる魔物には専用のもの以外では攻撃も防御も行えない。とは言え装備の持ち込み自体は自由だ。人間の脅威もあるかも知れないから、法的手順を踏んでいる持ち物は、申請さえしていれば持ち込むことも出来る。
(なんか引っ掛け問題みたいなのは定番なのかね?雨の日には注意して運転しないといけない、みたいなやつ)
ちなみに雨の日以外でも注意しなければいけないから、答えはバツなんだよなアレ。誰が考えたんだよ。全部の問題に対して疑心暗鬼になって、めっちゃ悩んだ記憶あるわ。
他にも『魔物を呼び寄せてしまうため、音を立ててはいけない』だとか『雨の日は魔物の活動が穏やかになる』などもあった。これらはどちらもバツだよな。
投石や発掘の音は魔物を遠ざける効果があるし、雨の日はスライムが発生しやすく、他の魔物を刺激して全体的に動きが活発になる。
訪問者として地下迷宮に入っていれば身につく知識も問題になっているし、これらの他にも探索者としては基本だけど、訪問者としては触れることのないような内容の問題もあったり。ダジャレじゃないよ?
事前情報で知ってたから落ち着いて対応出来る問題もあったりと、これまで頑張ってきた経験や、一花たちと縁があったからこそ分かるような問題もあったりして。
僅か一ヶ月程の短い記憶がブワッと頭に浮かんできて、懐かしいような嬉しいような、不思議な感情を噛み締めながら、俺はマークシートを次々と埋めていった……。
◆
「時間です。筆記用具を置いてください。問題用紙と解答用紙を回収しますのでそのままお待ちください」
30分ぐらいで全て埋め終わり、残りの時間は見直しをして過ごして、試験は終了した。個人的には手応えがあった。多分大丈夫なはず。
解答箇所にズレも無かったし。自動車免許の時は一回やらかしたんだよな。早めに気付いたから良かったけど、肝が冷えたなあの時は。
「合否は後日にご連絡します。合格の場合は実技試験の日程もその時にお話するかと思います。本日はお疲れ様でした」
「分かりました。お手数おかけしました。ありがとうございます」
「いえいえ、今日はゆっくり休んでくださいね」
菅野さんと部屋を出て、今日はそのまま帰宅することにした。潜る気力は無いと言うか、予想以上に気疲れしたみたいだ。お腹も空いたし、早く家に帰って落ち着きたい。お昼は何食べようかな?
◆
「こんにちは知春ちゃん。あら、いよいよ植え付け?」
「はい、やっと涼しくなってきたので」
「そうよね、もうすっかり秋ねぇ。あら、引き留めちゃってごめんなさいね。分からないところあったら教えるから、直ぐに聞くのよ?直ぐにね?」
「分かってます。いつもありがとうございます」
家庭菜園用の畑にやってきた。家の管理もしてくれていた、近所に住んでるヨシさんと挨拶を交わす。ヨシさんは畑の先生もしてくれているし、出来た野菜を分けてくれたりもしている。婆ちゃんが生きてた頃は茶飲み友達でもあった。
さて、いよいよニンニクの植え付けだ!植える用のニンニクとマルチなんかを持ってきて、あとは畝を形成したりするだけだ。土作りや雑草の草抜きなんかはこれまでにやっていたし、準備はバッチリ!だと思うよ?なんせ初めてやるからな。土作りなんかもヨシさんや先輩方に言われるままにやってた感は否めない。
マルチは先に穴を空けておいた。植える直前にやると時間が掛かってしまいそうだなって思ったから、また張り直す手間はあるが、余裕を持ってやれそうだと思ってね。思ってたより短時間で出来てたから、次回からは直前にやるつもりだ。
「畝の大きさは……前と同じだな。ある程度水をやってからマルチしてっと」
『身体器用』のスキルを使い始めてからだいぶ器用になってきた。スキルを使ってる時はもちろんだが、その時の経験が少しずつ積み重なってきている感覚がある。以前よりも身体が思ったように動いてくれる。
身体の無意識な動きは小脳で行われていると聞く。人が歩けるようになるのも、そんな無意識の積み重ねだ。だがそれを積み重ねるには意識してやろうとする必要がある。最初から考え無しに動こうとしても上手く動いてはくれない。自転車の練習みたいにね。
マルチを張ったら、穴の中心にニンニクの向きに注意しながら植えていく。穴の深さは、植える一片の二倍ぐらいの深さが良いらしい。
「よし!植え終わったぞ!」
「呼んだ?あら終わったのね」
「ヨシさんを呼んだんじゃ無いですよ〜」
「うふふ、お約束ってやつね!」
周りにいた奥様方やおじ様たちとも一緒に笑い、作業を労い合う。普段は挨拶ぐらいでしか触れ合わない人たちとも、畑の上ではこうやって話すことが出来る。これも畑仕事の魅力だったりするよね。
ニンニクの予定だが、しばらくは水やりをしっかりしながら雑草が生えてたら抜いたりして、あとは脇芽をかいたりして、じっくり大きく育つように誘導していく必要がある。
とは言えやる事や気をつける事はそんなに多くない。だから初心者にも向いてると言われているんだろうな。今から楽しみだ。
大きいやつはそのままニンニクとして収穫し、小さいものは葉ニンニクとして収穫したい。一応、畝の手前が葉ニンニクエリアにしてある。
「どれぐらい上手く育ってくれるか。最後に『気』を込めた水をやるか。気休めだけどな」
上手くいくといいな。ニンニクも、探索者試験も。俺も頑張るから、お前たちも頑張ってくれよ!
ニンニクの事考えてたらお腹が空いたな。久しぶりに作るかな?父さん直伝のアレを!!
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.5
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
◆幡羅 謙三
◆身体強化 Lv.12 体力 Lv.10 投擲 Lv.8
体術 Lv.9
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
◆菅野 直
◆直感 Lv.20 投擲 Lv.18




