73話.探索者になりたくて、筆記試験の内容
73話.探索者になりたくて、筆記試験の内容
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「ご馳走様でした」
朝ご飯を食べて後片付けと歯磨きなんかを色々と済ませる。ここら辺の躾をしてくれていたのは婆ちゃんだ。家事に関してはなんでも出来るしなんでも知っているような人だった。そうじゃないと良いところにお嫁に行けないよ、なんて言われるような世代だったみたいだ。昔は厳しかったんだな。
だが厳しい花嫁修行は苦では無かったと婆ちゃんは言っていた。
『お爺さんと結婚してあなたのお父さんを産んで。そして知春が産まれてくれた。私は幸せだよ』と。そう言ってくれた婆ちゃんの顔は今でも忘れられない。
俺も婆ちゃんの孫になれて幸せだよ。そう言いたかったけど、気恥ずかしくて言葉には出来なかった。そんな俺の顔をニコニコと見ている婆ちゃんにはバレていたかも知れないが。
爺ちゃんと婆ちゃんと眺めていた庭は今は空っぽで、その先にある竹林しか目に映るものは無い。
一度は譲ると言われた爺ちゃんの盆栽は俺には荷が重くて、結局は知り合いの同好の士に譲ったと言う。爺ちゃんには悪い事をしたが、こう言うのは好きな人の手に渡った方が良いだろう。
それにしても寂しい。何かしたいな。花を植えたりはあんまり興味が湧かない。有れば華やかにはなるんだろうけど。
池とかどうだろうか?蚊の温床になってしまうかな?温泉だったらアリかな?ってそんなんどうやって掘るんだよ!
うーん、昨日みんなでダーツで遊んでからだいぶ浮かれている。それはそれで良い事なんだが、思考が浮ついてしまっているのはいただけない。
探索者試験について、いま一度調べてみよう。前はサラッと見た程度だったからな。
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探索者試験について。流れとしては、
1.ギルドで申請をして、スキル鑑定を受ける
2.筆記試験を受け合格する
3.後日ギルド探索者と地下迷宮に潜る
4.ボス部屋に入り、ボスを倒してタグを得る
そして無事に地上へ帰ると、晴れて探索者の資格を得られる。タグを得た時点で既に探索者として認められはするんだが、安全に地上へ帰れるかも大切なのだ。家に帰るまでが遠足、ってね。
さて、まずは申請とスキル鑑定。これは恐らく大丈夫だ。なんたって俺にはフェイから貰ったイヤーカフがあるからな!
「そう言えばコレを貰った時も、俺が探索者になっても良いように……って言ってたな」
イヤーカフにはミミックの魔凝核が埋め込まれており、そのスキルから『隠蔽』と『擬態』の能力を引き出して発動させることが出来る。この技術が俺にはよく分からないけど、フェイなら出来るんだろうな。うん。
『隠蔽』で本来のスキルを隠しながら、『擬態』で相手に見せたいステータスに変える。人によっては見破られてしまう事も有るらしいが、ギルドで使われているオーパーツには100%効果があるそうだ。
オーパーツとは地下迷宮より発見された物らしく、鑑定のオーパーツは丸い水晶球のようなものなんだって。
「ネットの画像を見た感じは……占いに使うようなヤツだな。胡散臭く見えるのは何故だろうか?」
これに手を当てると光を発し、その先に専用の紙、“凝素紙”を置いておくと、そのステータスを紙に転写出来るんだって。水晶や光自体を見ても何も分からず、凝素紙に写して初めて分かるとか。どうやってそれを実現してみせたんだか……。
スキル鑑定は、訪問者にはその義務は無い。申告したスキルの通りにそのまま登録される。但し探索者になる際は義務となり、訪問者の時の申請と違うスキルだと一発でアウトだ。
もちろんスキルが新しく生えることもあるからそれは追加報告をする事になるが、初めにあったスキル、いわゆる初期スキルが変化するなんて事はまず無い。あったらあったで厳しく追及される事になるし、場合によっては資格の剥奪など厳しい処分になる。
「それだけ探索者には“人格”が求められるって事だよな」
もちろん魔物と戦うんだから最低限の能力は求められるが、逆に言えば最低限でも有れば構わないと言うことでもある。能力別にランク付けはされるそうだが。
地下迷宮の一般公開直後は試験などは無かったそうだが、それ故にヤバいやつも居て、トラブルも少なくなかったそうだ。そんな経緯から、能力よりも人格が求められる事になったんだろうな。
「とは言え、俺はケンゾウさんや一花たちからも太鼓判を押してもらえてるし。そこら辺は問題無いか」
となると一番の懸念は筆記試験だな。どんな内容が、試験に出るのかなー?まずサーチ!!
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「えーと……ギルドの公式サイトにある情報から出題される?それだけ?」
だとするとめっちゃ簡単じゃね?と思ってURMENでみんなに聞いてみたら……。
「うわーマジかよ。罠じゃんそれ」
罠だった。コレ知らなかったら初見じゃクリア出来ないよ。でも納得のいく内容でもあった。
筆記試験で出題されるのは、
・公式サイトやパンフレットに載ってるような基礎的な知識
・訪問者として活動していたら知れるような地下迷宮や魔物の知識
・探索者に聞かなければ分からないような知識
この三つが出題されるんだって。一番厄介なのは三つ目だよな。これってコミュ障にはハードル高いよな?
「いや、そう言うのを弾く為、なのか」
探索者とは横の繋がりを大切にする。何かあった時の連携が探索者には不可欠だからと言う理由と、よく分からない奴が同じ探索者だとトラブルの元になるからだ。
つまり筆記試験に求められるのは、
・基礎的な知識
・地下迷宮での経験による知識
・探索者となる為に必要なコミュニケーション能力やコネで得られる知識
これらを見るんだろうね。まあ三つ目に関しては点数が取れなくてもギリギリ合格は出来るそうだが、その分他のところでほぼ満点にでもならなきゃ不合格になるってさ。
俺は地下迷宮に関わる人脈は何故だか恵まれているからな。ステータスなんてフェイと会わなきゃ隠蔽も出来なかったし。
「“縁も実力の内”ってね。むしろ縁を大切にする人をギルドは求めているんだな」
それが出来なきゃ他の道を見つけるしか無い。探索者にならなくても他の仕事があるんだからね。本当になりたいならギルド探索者にでも話しかけるぐらいしたらいいんだし、それが出来ないなら“適性無し”と諦めるしか無いのだ。他の職業にも言える事だよな。
「やっぱり“実力も運の内”だな。それが人間社会って奴だよ。残念ながらさ……」
今までの俺は良い運の外側に居て、実力なんて育てられる余裕も無かった。やっと運が巡ってきて、実力を育てられる“運の内側”に入れたんだよな。その運を、そして縁を。これからも大切にしないとな。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.5




