70話.一花の事情、俺の決心
今回少し長いですが、主人公の気持ちが切り替わるきっかけとなっている為、どうかお付き合い頂ければと思います。
70話.一花の事情、俺の決心
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一花は自分の中で言いたい事を噛み砕いているのか。しばらく下を見て考え込んでいたが、おもむろに話し始めた。
「そうだな。白百合のスキルが『ダークエルフの恩恵を受ける』ものだってのは知ってるよな?」
「ああ、この前聞かせてもらったな」
「実を言うと、私のスキルも正確には『ウサギの獣人の恩恵を受ける』ものなんだ」
「ウサギの獣人……だと?」
「えぇ……まさか知春の性癖、なのか?」
「いや!?そんなんじゃ無いよ!?」
もちろん好きだけどね!そりゃそう言うのも嫌いじゃ無いけど、べべ別に性癖とかじゃ無いんだからね!?誰に言い訳してるんだ俺は……。
「まぁ今はいいや。なんかウジウジ悩んでたのがアホらしくなってきたぜ」
「だから言った。隠そうとしなくても良いって」
「悪かったよ……。とにかく!話を続けるからな!!」
「私の話を聞けぇ!ですね?」
「アイモうるさいよ!!」
良い仲間だな。みんなして一花の重荷を軽くしようとしてくれている。みんながお互いを思い合って、支え合って。そんな関係でありたいと思った。俺もこの中に、この仲間に入りたいと。そうこの時思ったんだ。
「それでだな!ウサギの獣人の特性として……ああなんだ?こう、身体が自然と動いちまうと言うか、活動的になると言うか。身体の中の熱に突き動かされるような、そんな衝動が起きる事があるんだよ」
「ふーん、特性……体質……ああ、小動物のアレか」
小動物のアレとは、ひっきりなしに身体を動かしていなければいけないってヤツだ。
身体が小さいと熱が逃げやすいらしく、頻繁に身体を動かして熱を産生しないといけないんだってな。ハムスターがクルクルと回転するやつで走るみたいなのもその理由だ。
ウサギも危険がある時はじっとしている事もあるが、基本的にはよく動き、よく食べる。そうやって身体が冷える事を防いでいる。
「それでつい動きたくなると言うか、戦いたくなってしまう……みたいな?」
「あー……まぁ似たような感じだな。とにかく身体が疼いちまって、それを発散するために動かなきゃいけない時があるんだ」
「だから一人で動くのは危ない。それに知春を誘っておきながら途中で反故にしたのも良くない」
「それは、悪かったよ……」
なるほどな。身体が熱いとか言ってたのはそれでか。中途半端に戦ったり、俺をスライムから助ける為に夢中になったりで、身体が本能的になってしまったってところか?
アレ、これってもしかして……。
「あのさ。この前三バカを助けようとして動いた時にさ」
「お、おう?」
「探索で疲れてたって話してたのも、もしかしてスキルの影響か?」
「あー……実はな、そうなんだよ」
「そうだよ一花!あの時だって、私が来るのを待っててって言ったのに!」
白百合さんが急にプンスカ怒りだしてしまった。あちゃー、地雷踏んだか?
「だから思わず身体が動いて庇ったけど、疲れてて気が抜けたのかね?」
「恐らくそうだろうな。あんな投石ぐらい、普段なら簡単に払えたのによぉ……」
「となると、またあんな事件とかが起きた時にリスクになるよな、スキルの特性」
「ギクッ」
口で言うのかよ。昭和かな?俺は好きだけどね、昭和。父さんも祖父母も昭和の人だったし。
「まぁ、そんな事情があるって事だけは知っといて貰いたいんだ」
「ああ……。把握した」
「私もー!」
「もちろん私も承知しておきます」
「うーん。困った」
なんとなく言えてない部分はあるんだろうけど、一花が抱える悩みの一端はこれで分かったな。その為には一人で地下迷宮に潜らないようにさせるのが、まあベターなんだろうな。時間的な事情もあるだろうけど。
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「スキルのそう言う特性みたいなのって、他にも事例はあるもんなのか?」
「うーん、ノーマルスキルでは聞かないかなー?」
「ユニークスキルだとそもそも報告例が少ないですからね。あったとしても公開されてない場合も」
「そうか。となると解決策と言うか、改善策を見つけるのも手探りか……」
フェイが言うにはノーマルスキル。つまり漢字だけで表示される一般的なスキルでは事例は無いと。
ユニークスキルの報告例が少ないのは当然だよな。俺たちだって出来るだけ秘密にしようって話してるんだし。それだけユニークスキルや貴重なスキルの情報を、外部に漏らすのは危険な行為なんだ。
「スキルの感覚として分かってるのは、レベルを上げて強くなるのが近道みたいだな」
「そうなのか?」
「あぁ。スキルがこう……強くなりたいって言ってるんだよな」
「うん。だから私も一花も、探索者として強くなるのが近道」
『それに地下迷宮には私たちが望むことも多い。私と一花が探索者になって潜っているのもそのため。知春も探索者になるってことだし、私たちが間に入れば、きっと合格もしやすくなる筈』
一花が入院していた病室で、白百合が言っていたよな。二人が潜る理由、白百合はダークエルフのような肌、褐色の肌になりたいから。日中に行動するのが難しい自分の体質を変えたいから。
一花は一花でスキルによる熱暴走みたいなのが出なくなるように強くなりたい、と。
アレ?二人が俺の家でスキルについて話してくれてた時。一花もスキルによる恩恵は受けていたような印象だったが。むしろデメリットじゃないのか?俺の気のせいだったか?
いや待て、良いこともあったけど悪いこともあった、みたいなニュアンスだった。
つまり何かは良くなったけど、熱暴走という別のデメリットも抱えてしまったって事なのか?だから白百合のダークエルフ化も危惧している?
「白百合が知春を探索者として、アタシたちの仲間として誘ったのも、戦力が欲しかったって理由もあるんだろ?」
「うん。二人じゃ出来ることも限られてくるし、アイモもいつも一緒に潜れるわけじゃないから」
「申し訳ございません」
「責めてない。私にも一花にも時間の都合はある。アイモにはいつも助けられている」
「そうだぜ!ありがとなアイモ!」
「……そう言っていただけて嬉しいです。これからも精進します」
アイモは白百合の護衛兼医師でもある。側にいるのは白百合の体質による、生活のリスクを減らすためでもあるんだろうな。
だがアイモを雇用しているのは恐らく陽乃下の家だろう。家の都合もあるだろうし、一花の入院していた病院での仕事もある。フェイとは別の意味で有能な人だろうから、ずっと白百合と居られるわけじゃ無い。
アイモと陽乃下との繋がりは“どの程度”なんだろうか?どれだけ白百合のプライバシーや立場は守られている?そもそも白百合と陽乃下家とはどんな関係なんだろうか?確執のようなものを以前、白百合からは感じているが。
一花の問題、白百合の問題。フェイにもアイモにも、きっと秘密や問題、悩みを抱えている。俺はそれらにどれだけ向き合えるだろうか?貢献できるだろうか?
俺に出来た、初めての家族以外の仲間たち。俺は勝手にそう思っているけど、そんな仲間たちに出来ることを俺はしたいと思った。自分がこれまで、家族に支えられてきたように。今も彼らの遺したものに支えられているように。
(なるか……。探索者に!)
これまでは『なれるか分からないけど頑張ってみるか』ってスタンスでやっていた。どうしても自信が持てなかったから。何かをしようとして、何かをしたいと思って。そして諦めてきた事ばかりだった。
その“諦め癖”は体質が改善されてきた今でも根強く残っている。自信なんてあるわけが無い。自分に対しての信頼も実績も、殆ど俺には無かったから。
(自分のためにやろうと思ってたら、きっといつまで経っても俺は本気にはなれないだろう)
一花たちを利用するようで罪悪感が無い訳ではなかった。それでも誰かの為が自分の為になるのなら。いや、自分の為が誰かの為にもなるのなら。
(俺はなるんだ。そして一花たちと戦えるようになるんだ。探索者として!)
そう、俺は心の中で静かに決意を光らせていたのだった。ケツイを胸に!なんてな。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.7
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.5
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.22
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◆陽乃下 白百合
◆ディープフォレスト Lv.27
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◆潤目 フェイ
◆知性 Lv.12 投擲 Lv.4 観察 Lv.10
鑑定 Lv.2
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◆シモナ・アンダーソン
◆魔操 Lv.11 体術 Lv.9 回復 Lv.7




