7話.自分の弱さ、弱さの自覚
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7話.自分の弱さ、弱さの自覚
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俺は探索者エリアから少し外れたカフェスペースで項垂れていた。たまたま空いていたソファタイプの席に深く腰掛け、背中をぐったりと凭れ掛けていた。
家を出る前に抱いていたやる気や自信なんかは何処かへと飛んで行ってしまった。真っ白に燃え尽きたぜ……。まだ何もしてないのに。
あの場で俺は、津賀に一言も言い返すことが出来なかった。今の自分ならなんでも言い返すことが出来たはずだった。
『お前には関係ない』
『強くなるためにここに居るんだ』
『このスキルが有れば、俺は強くなれるんだ』
そんな言葉が頭の中ではぐるぐるとしていたのに、結局何も言えなかった。ただ黙って立ち尽くすしか、俺には出来なかった。今思い出してみても酷く情けない……。
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「一花、ここに居たんだ」
止まっていた時間を動かしたのは、第三者の存在だった。
海外の女優が着ていたような、クラシカルなコートワンピース。濃いグレーが全身を覆い、黒の手袋とロングブーツで素肌を極端に隠していた。
つばの広い帽子に、肩まで伸びる色素の薄い赤毛の髪。そんな彼女の顔は一際白く、まるで宙に浮かび上がるようだった。
「……知り合い?」
「まあ、昔の同級生」
「そう。先に行ってる?」
「ううん。行こっか」
「良かった。早く潜りたい」
「アソコは居心地が良いから、だよな」
赤いダボっとしたパンツに白いオーバーサイズのTシャツ。カジュアルな格好の津賀とどこかのお嬢様みたいなその女性は、ミスマッチな見た目に反して気安いやり取りを交わしていた。
そっちから声を掛けてきたにも関わらず、俺を無視したその会話に。俺は情けなくもホッとしていた。津賀が去っていきそうだと分かり、安心してしまったんだ。
「菅田さ。早まったことすんなよ。自分を大切にしな。……じゃあね」
そうとだけ言い残し、津賀とその女性は去っていった。遠ざかっていく彼女たちの背中は、男の俺なんかよりも余程強く、カッコよく見えた。
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さっきの事を思い返しながら、既に冷めているコーヒーを一口啜る。飲み慣れてないブラックは酷く苦い。それが何故か心地良い。
津賀の最後の言葉が何度も再生される。二人の後ろ姿が目に焼き付いている。俺はようやっと自覚した。自分の本当の弱さに。
確かに俺は身体が弱く、人よりもハンデのある生き方を強いられてきた。過去に戻れたとしても、結局は同じ事の繰り返しになると思う。
状況や環境は人生に大きく作用する。それは決して言い訳では無いし、その人の辛さはその人にしか理解の及ばない事だ。
それでも俺の心は弱い。病は気からと言う。健全な身体に健全な魂が宿るとも。俺の魂は、心は、肉体に引っ張られて、失敗体験の積み重ねで弱くなってしまった。
以前のことも今回のことも、津賀を憎むような考えは持てなかった。津賀の視点で考えれば、憤るのも当然だと理解できるから。
体験教室に行った道場でも、地下迷宮においても、津賀は俺より先に活動していた先輩だった。
真剣に取り組んでいるものに後から入ってきて、それで満足に動くことも出来ないような、端から見れば不真面目に怠けてるような奴が居たら、文句も言いたくなるはずだ。
気を抜けば怪我をしかねない格闘技や、場合によっては命を落とす探索者なら尚更のことだろう。
むしろ今日、津賀に会えて良かったと俺は思っている。いや罵られて嬉しいとかでは無く。自分の内側と向き合えたように思えたからだ。
スキルが成長し、新しいスキルも生え、これで自分は強くなれると期待した。そして浮かれていた。地に足が付いていないというか、中身が伴っていなかったと、自分を省みることが出来た。
俺は外側の『肉体』を強化出来さえすれば、内側の弱い『中身』も強くなれると、無意識に考えていたのかも知れない。
未来に期待するのも、積極的に行動することも、それはそれで良いものだ。
でもそれだけじゃダメなんだ。人は弱さを認識して、初めて強くなれる。
『己が下手さを知りて一歩目』と某教育者も言っていたでは無いか。先生!地下迷宮に、潜りたいです……!
改めて、地下迷宮に潜る覚悟が出来た。今回は本当の意味で。リスクはゼロにはならないし、不安も消えるわけじゃない。リスクを知った上で減らす努力をし、不安から目を背けずに挑む。それでやっと、俺は強くなれるんだ。そう思えたんだ。
心地良いやる気を感じながら、俺は再び探索者の装備が売られている店へと足を運んだ。5万円ポッキリ!新人応援セットが俺を待っている!!
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「またのお越しをお待ちしております」
装備、買えませんでした。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.3
・身体器用 Lv.1
・息 Lv.0
・気 Lv.0