68話.アイモさんと日本語のお話、ダーツバーに連れてって
68話.アイモさんと日本語のお話、ダーツバーに連れてって
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「シモナさーん……」
「あー。状況把握です。少しお待ちくださいね」
「助かります……」
なんとも情けない話だが、シモナさんが来てくれて助かった。一人じゃ対処のしようが無かったからね。
シンタイキヨウカの派生スキルのおかげで俺の総合レベルも40越え。なのだがそれが本領を発揮するのは地下迷宮の中での話。
地上ではだいたい何十分の一ぐらいにまで補正値は下がる筈で。そうなると元々がひ弱の俺の身体、ガチでムキムキなお兄さんには歯が立たない。
こう言う時のために護身術でも覚えておく方が良いんだろうか?せめて逃げ足だけでも早く……。
って!それ『進退強化』のスキルを使えば良いんじゃ!?うわーまたやらかし!進退強化スキルはとても便利なんだけど、それを扱う俺が不器用のせいで宝の持ち腐れになってしまっている。
初めて来るところだからなんの情報も無いし、進退強化を発動したところで……。とか思ってた部分もあるはず。
これからはもっと積極的に使っていこう。別に望んだところへと誘導してくれるだけのスキルでは無いのだ。進退強化の名前に相応しく、移動力の強化もしてくれているんだから。それもちゃんと有効活用しなくちゃな。
どんなものも使い方次第、そして使い手次第なんだ。俺たちにはせっかく知性や理性が備わっているんだから。人間としての強みは道具を“使えること”だと言うのを忘れてはいけない。
シモナさんが黒人マッチョメンと楽しく英語?で話してる間、俺はそんな事を考えていた。ごめんね任せっきりで。姐さんどこまでもついていきやす!!
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「マタなブラザァ!」
「は、はぁ……」
だからブラザァじゃねぇよとか思いつつ、黒人さん改めボブと分かれる。ボブって愛称かな?偽名の可能性もあるけど。
名前と言えば、シモナさんにも『愛称のアイモで呼んでくれ』と言われたので、忘れないようにしよう。
愛称呼びは海外の人たちは当たり前のようにしている習慣だと言うから、尻込みして愛称で呼ばない方が失礼に当たるのかも知れないな。
そのアイモさんの話によると、ボブは歓楽街のここら辺で治安維持に務めているそうだ。いや客引きしてたじゃん!と思ったが、どうやらブラフだったらしい。ドユコト?
「彼は初顔の知春を見つけ、アナタがどのような人間か。色には興味があるのか、どんな性格なのか、そう言ったのを測る目的で接触してました」
「へぇ。知らない顔だと言うのが分かるんだ。それは凄いな」
「ええ。日夜パトロールをしているからこそだと思います。それと総合レベルの高さを感じ取ったとも」
あちゃー、見る人には感じ取られてしまうのかな、総合レベルが高いと。フェイから貰ったイヤーカフである程度『偽装』はしてるんだが、スキルレベルが低いミミックの魔凝核でしか今は作れない、とも言ってたからな。
それにボブさん自身の能力も高いんだろうな。きっと地頭が良い人なのか、あるいは努力の賜物だろうか。
「でも客引きって違法ですよね?ブラフとは言えやって良いんですか?」
「もちろんダメです。そう言った輩を炙り出す目的で特別に許されています」
「炙り出す?」
「ええ。他の奴がやってるから俺たちも……。みたいな考えの輩が居たら、ソイツらを仲間や警察などに連絡したり、マークしたりする。ここら辺は出入りが激しいので、ただ警備するよりはその方が芽を潰しやすいそうです」
「なるほど。囮捜査みたいな感じなのかな?」
「まあニュアンスとしてはそのようなものですね」
キッチリと治安を整えようとすると後手後手になりやすいんだろうな。それなら安易に動くような奴らとか、そう言うのを使ってこちらの反応を見てるような賢しい者たちをマークする方が早い、とか?
それが本当に効率が良いのかは俺には分からないが、この街はそうやって日常を作り出しているんだな。
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「そろそろお店に着きます。既に皆様は到着されてます」
「俺が最後だったか。申し訳ないです」
「結果的にそうだと言うだけで時間通りです。謝る必要はございません」
アイモさんはいわゆるボディーガードとかSPみたいな凡庸なスーツ姿だが、それですらスタイルも相まってとてもカッコよく決まっている。
それでいて威圧感がある訳でもなく、物腰穏やか、あるいはしなやかな受け応えで素敵だった。人としての強さや魅力を感じる、それがアイモさんの印象だった。
人を含め動物は、己を強く見せたいと自然と“威を張る”生き物である。それが『威張る』など熟語になったりもしているが、それは身を守るため。正に中身の弱さを守る為の行為に他ならない。
本当に強い人は威張らない。威張る必要が無い。威を張らなくても対応出来る実績、自信を持っている。それが余裕として現れ、結果として他人からは強い人だと、頼れる人だと思ってもらえる。
俺はどうだろうか?身体の中身、内臓は強くなった。とは言えそれはまだ体でしか無く、真の中身では無い。自信が無い。自分を信じられない。誰しもそうかも知れないが、それはとても悲しい事のように思える。
自分を疑ってばかりいたくは無い。でも根拠となる信用が無い。自分を信じる為の自信が欲しくなる、矛盾めいた負のスパイラルが起きてしまう。それも運に強く影響されてしまうのだが、個人の努力でもある。
自信が無くても、行動しなければならないんだ。自信を持てるように。いつか自分を信じてあげられるように。
「なるほど。確かに知春はもの想いに耽りやすいみたいですね」
「あ、すみません。またやっちまった……」
「構いませんよ。ただ、あまり自分の中に居過ぎない方が良いです」
「自分の中に……居過ぎないように」
その言葉に、俺はドキッとさせられた。爺ちゃんの言葉やケンゾウさんの言葉を思い出す。そして中身の身、つまり内側の精神的な部分。最近そう言った内面に関わる言葉を良く耳にしてる気がした。
「自分の内側に居過ぎると、自分を見るのが難しくなります。中からは外側しか見れないように」
「なるほど。離見の見……。客観的に見るってことか」
「世阿弥ですね。素晴らしい言葉です。舞台からでは無く客席から見る、客側の観点で見るようにと言うのが言葉の起こりですね。客観的と言う言葉は正にその通りで、日本語の素晴らしさを感じます」
そういやアイモさんは日本語が好きだと話していたな。俺も日本語が好きだから共感出来るし、そんな人と話せるのはとても楽しいし嬉しい。
「客観的と言う言葉は英語のobjectに当たる言葉の翻訳とされていますが。『客』と言う漢字は家を表す屋根の下に、神霊が降ってくる、至る様にとお祈りをすると言う成り立ちがあるそうです」
「へえ、ここでも至る、か」
「ここでも?」
「いえ、こちらの話で」
漢字の成り立ちは面白くて俺もよく調べているが、客については初耳だった。
至ると言う意味合いがここにもあるのは面白い。確かリットウと言う部首にも招く意味があるってフェイが言ってたっけな。
窒素から到素、魔素と言われているモノのことだが、その考え方にまた新たな結び付きが得られて嬉しい。
言葉遊びの類だとしても、こうした文字や音の響きに人は魅了され、意識して、多くの影響を与えられている。
実際俺の『シンタイキヨウカ』も、音の響きから新たに言葉を作り、そしてスキルと言う形になって、俺の身体を変化させるまでに至ったわけだ。言葉の大切さを身をもって知っているのが俺だった。
「ありがとうございます。アイモさんと話せて、また色んな気付きを得られた気がします」
「構いませんよ。それと私もアイモと呼び捨てにしてください。日本語のさん付けなどの文化は好きではありますが、同時に壁のようなものも感じてしまいます。私たちの間に壁を作る必要性は感じません」
「そうですか?なんか歳上の方だとつい萎縮してしまって……」
こう言ったフランクさは外国の人ならではなんだろうか?白百合や一花も、アイモさん……アイモの影響があって、名前呼びに抵抗が無いのかも知れないな。
「白百合様や一花がアナタを仲間として認められていますし、それに私もアナタには好感が持てます。多少自信の低さは感じますが、それを補い強くなろうとする意思も感じますし、そう言う人は強いです」
「そうですかね。そう言って貰えるのは凄く嬉しいけど」
なんだか面映いな。……そういや一花には伝わらなかったな、面映い。綺麗な響きの日本語だから、ぜひ覚えて欲しいものだ。
「こちらの五階がお店です」
「おお、ここが……」
商業ビル?の5階にダーツバーの店があるんだな。大人な雰囲気の看板にドキドキすると言うか、俺が来ても良いんだろうか?と気後れしてしまう。
「ええっと……。『SEEK BAR』?」
「はい。探索者御用達のダーツバーです」
なんか……『See Coffee』の香りを感じますねぇ……。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.7
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.4
・気妖 Lv.1
・息 Lv.6
・気 Lv.5
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◆シモナ・アンダーソン
◆魔操 Lv.11 体術 Lv.9 回復 Lv.7
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◆ロバート・キング
◆ラリアット Lv.16




