64話.『進退強化』の考察、一花の戦闘
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64話.『進退強化』の考察、一花の戦闘
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一花と地下迷宮に潜っている。こうやって男女で潜っていると『地下迷宮デート』だと周りから見られるだろうか?
ちょっとレベルの高い男が女の子を誘って地下迷宮に潜るのを世間では『地下迷宮デート』とか『ダンジョンデート』などと呼んでいるそうだ。
女の子にステータスやスキルを覚えさせたり、スキルレベルを上げるお手伝いをしたりと、男が『いいところ』を見せるのに地下迷宮はおあつらえむきらしい。
え、俺たち?まず女性側の方が強いですが?そもそもデートとか色っぽい雰囲気もありませんが?
「魔物探そうぜ!お前のスキルで分かるんだろ?」
「なんとなくだからな?外れる時もある」
「細かい事は良いんだよ!見つけたら倒す、それだけだな。ゴブリンが良いな!アタシの強さを見せてやる!!」
なんなら『いいところ』を見せたいのは女性側ですが?そんな息巻いてたら疲れちゃうぞー?
一花はどうやら、以前に俺に助けられたのが気に食わないらしい。弱みを見せてしまった自分が許せないと言うか、納得がいかないんだとさ。そんな気にするもんなのかね。
……自分に置き換えて考えてみると、ちょっとは気になるかも知れないな。うん、客観的に考える。大事だね!
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『進退強化』と『気』のお決まりセットを発動して、魔物が“複数居そうな”場所を思い浮かべながら進んでいく。
俺なりに『進退強化』のスキルについては以前から考察はしていた。それは車を運転している時の事でより確信が持てた。
進退強化による“望む場所への誘導”は、俺の五感の強化だと思っている。強化と言うか拡張だろうか?
車を運転している中でスキルを使った時、他の車が荒い運転をしそうだとか、人が飛び出してきそうだとか、そう言うことに気付きやすくなった。
それは俺の中の視覚情報や、過去の経験なんかで無意識に得た情報から、必要な処理をしてくれているんじゃないかと思う。
それによって俺の“進退”が効率よく進むように補助をしてくれている、そんな感覚だろうか。
「本当にこっちなのか?人の気配があんまり無いぞ?」
「あーもう!気が散るから集中させてくれ」
「へいへい」
魔物が居そうな場所への誘導はどうかと言うと、その場にある“空気”や“雰囲気”から得られる五感。視覚だけでなく聴覚や嗅覚、それと皮膚感覚もだな。だから『気』のスキルが効果を高めてくれてるんかな?
そう言った情報の中から魔物に繋がりそうなものをピックアップして統合しているんじゃ?と言うのが俺の予想だ。
第六感と言われるもの。これは何も勘だとか当てずっぽうなどでは無い。
五感で得られたものや、今までに蓄積されてきた経験や知識、そして感情。そう言ったものが繋がって湧き上がってくるものが第六感なんだろう。
進退強化は、そんな第六感を“進退に必要なもの”として上手いこと引っ張り上げているんじゃないかな?
(例えば『こっちは人の気配が少ないから魔物も残っているんじゃないか』とかな)
地下迷宮において、投石や発掘の音は魔物を遠ざける作用があると過去のデータから推測がなされている。根拠が明白なわけでは無いが、恐らくそうだろうと思われる内容だ。
一花の場合はずっと第二層以降の探索を主にしていたから、第一層では必要な知識をど忘れしているんだと思う。
使っていない知識が抜けるのは良くある事だしな。今必要な事だけにリソースを割くと言うのも一花らしいと言えるだろう。
もちろん投石の音がしなくて人が多い場所には魔物が集まりやすいと言うのもあるし。
だから石の音がしなくて人の気配が強い場所には魔物が多いとも言える。
その時の暮らしや環境で感覚も変わって当たり前。これも『主観』の一つだ。
(こう考えてみると、爺ちゃんの教えは凄い事だったんだな)
これからもきっと、この『主観』の考え方が俺を助けてくれるだろう。俺も爺ちゃんのような含蓄のある考え方や、婆ちゃんのような思いやりのある立ち振る舞いを身に付けていきたいもんだ。
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「お!ゴブリンが二体にスライムもいるな」
「スライムは距離が離れているし、先にゴブリンを倒すか?」
「ああ。どっちも棍棒持ちだな。アタシの強さを見せてやる!」
複数の魔物が見つかると、早速とばかりに一花は躰道の構えを取る。
右の掌を上に向かせて、左手は首の右側に持っていく。急所の首を守るような姿勢だろうか。
そこから首を守っていた手を手刀の形にしながら立てるように前へ出し、左足は真っ直ぐ敵の方へ向けたまま、腰を落としながら右足を下げる。
『三点同弧』と呼ばれる鼻先、指先、そして膝が歪みの無い弧を描く構えは、見惚れるほど美しくて凛々しい。
攻防一体の構えと動き。この時呼吸も忘れてはいない。息を吸いながら姿勢を整え、息を吐きながら構えを取る。素早くそして流麗な動作。洗練された所作は長年の稽古の賜物だろう。
俺が体験教室に行った時は、まず始めのランニングで出遅れ、そのあとは息も絶え絶えに。3回目の教室でようやくこの構えに気を割けるようになったレベルで、結局はちゃんと身に付けられずに終わってしまったな。
「お、動いたな」
一体のゴブリンが棍棒を振りかぶりながら向かってくる。一花はそれを運足で避けながらも、もう一体を視界から外さない位置に構える。
躰道はもちろん実戦もあるが、特殊なルールとして運足による接近→攻撃→退避をきちんと行わなければ、攻撃とは見做されない。位置取りと回避と攻撃、これが躰道には求められる。
円を描くように一花が動く。それはまるで舞踊のようでもあった。足の運び方も片方を動かせば残った足を引き寄せてなど、ダンスのステップにも通じるものがある。
二体目のゴブリンが攻撃を繰り出すと、今度は後ろに退いて息を吐く。全体が俯瞰出来る様に引いたのか。あるいは奥にいるスライムからより距離を取るためでもあるだろうか。
一体目のゴブリンが再度攻撃を仕掛けてくる。それを一花は回避からの回状蹴り、いわゆる回し蹴りで首を刈る。ゴブリンは蹴られた瞬間に霧散して消えた。
“体勢を崩した”一花を見てか、そこに残りのゴブリンがすかさず攻撃を仕掛ける。隙あり!みたいな感情がそのゴブリンからヒシヒシと伝わってくるが、当然そんなものは無い。
「ハァ!」
低い姿勢のまま後ろ向きで、気合と共に斜め上に蹴り上げる動き。これは躰道でも有名な技の一つの海老蹴りだな。近くで見ると躍動感が違うな!
下から来る攻撃はゴブリンでもビックリしたのか、目を見開いたままの頭を蹴り抜かれ、これも即座に霧散する。ゴブリンの魔凝核を二つ残し、戦闘は終了した。
「スライムは任せた!」
「あいよ」
スライム担当となった俺は、事前に拾っていた石を掴み投げる。ストライク!運良くと言うか実力と言うか、核を撃ち抜かれたスライムもまた塵と消えた。
ちなみにこの“核”は魔凝核とは別のもので、非生命体のスライムやゴーレムなんかの体内にある。
これを壊された魔物は体を維持することが出来なくなり消滅するのだが、これを壊さない限り倒せないと言う厄介なものでもある。
「やるじゃん知春!」
「一花こそ!凄い滑らかな動きだったよ。流石だな」
「まぁな!!」
一花は満足そうに笑顔を見せる。これで鬱憤も晴れただろうか。にしても一花はやっぱり強いな。俺も躰道について調べていたから知識だけは多少あるが、あんな風に動くのは無理だ。
どうしても必要になる筋力、それと柔軟性と言うか身体を支える体幹の力が不可欠だ。深層の筋肉を中心に鍛えてはいるんだが、なかなか思うように力は付いてくれないんだよな……。
「! おい、知春!上!!」
「うぇっ?」
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.7
・進退強化 Lv.7
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.2
・気妖 Lv.0
・息 Lv.5
・気 Lv.5
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.22




