61話.『気妖』の仕組み、遅く訪れた春
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61話.『気妖』の仕組み、遅く訪れた春
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「ねぇ、ちはるん……?もしかしてだけどー?」
「もしかしてだけど〜?」
「それって新しいスキルが生えたんじゃないのー?」
「そう言う事だろ〜!ジャンッ」
「ジャンッ!じゃないよー!なんでそう私の前で何回も何回も!」
フェイは『さーんかーいめー!』と、とあるタカアシガニ芸人みたいに叫んでいるが。まあ仕方ないよね?スキルの発生ってこう言うものだから。俺の中では、な?
「ちはるんだけなんだよー!なんでそうポンポンと生えるかな!たけのこなの!?たけのこなのかな!?春になったら私にもください!!」
俺の家に来た時に竹林の話もしてたので、それを言ってるんだろうな。もちろんいっぱい生えるから、その時はあげるよ?スキルはあげられないけど。
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「ふぅー。落ち着いた!それで!?どんなスキルが生えたの!?」
「いや落ち着いてないじゃん……。生えたのはさっき見せた奴。ちゃんとスキルとして使えるようになった、ってのが正確か?」
「あー、あのポンッね!なんでこのタイミングで?さっきのお腹の痛みと関係する?もしかして危ないスキル?」
「いやいや、大丈夫だから。マジで落ち着いて?」
フェイは既に冷めてしまったコーヒーを一気に飲み込むと、ゆっくりと深呼吸をした。
冷めたコーヒーって独特の美味しさがあるよね?アイスコーヒーとはまた違った。何が違うんだろう?
「よし!じゃー説明求む!」
「ああ、まず腹の痛みだが、あれは拒絶反応に近いんだと思う?」
「あれは……?」
「ああ。俺が思うに、『純魔素』ってのは扱いづらい物質なんだろうな。それを扱い易くしたのが固有魔素でさ」
「ふむふむ。なるほどーね。ちはるんの中にあった固有のものが、『待機妖化』による媒介もあって純魔素になってしまった。それで身体が……内臓が拒絶反応を起こした?」
「まあそんな感じ?」
正確には身体に馴染まないものが出来てしまい、それの刺激を受けて痛くなったって感じか?そうすると拒絶反応とは違うんだろうが、まあそこら辺は深く考えない。
既にその問題は『新躰強化』による強化などで解決しているからだ。妖化は外側でって刷り込みもしているし、同じ事故は多分起きないだろう。
「じゃあ新しいスキルの方がいわゆる、血液型の反応的な?」
「ああ。新しいスキル。これは『気妖』って名前にしたんだが。これは純魔素と固有魔素による反応で起きてるんだと思う」
「二種類の魔素の、反応……」
そう。ここで『魔素=窒素が変化した物なんじゃ?』って仮説にも繋がるんだよな。
「俺もあの後、窒素について調べたんだけどさ。窒素って凄い安定した物らしいな?」
「うん?そうだねー。だから空気中にたくさん有っても、人間に殆ど害が無いんだよねー。害の与えようが無いって感じ」
「ああ。それって純魔素……つまり到素にも同じような性質があると思うんだ」
「んー?……そうか!『硝石』だ!」
硝石?なんか聞いたことあるな。えーと、確か火薬の原料……だっけ?
「窒素ってね!とても安定した元素なんだけど、それ故に何かの刺激で変質すると、とても強いエネルギーを生み出すんだ!それが硝石でも起こっているものでね!だから爆発的な反応を見せて、火薬になったり、それがダイナマイトとかにもなったり!とにかく窒素はそれぐらいエネルギーを秘めた物なんだよ!」
そこまで詳しく調べては無かった。知識面でもフェイは頼りになるな。長文で一気に言うのは控えて欲しいですね!オタクの早口って言われちゃうよ!?
「そうか。いやな?俺は変化のしにくい純魔素を、扱い易い、変化させ易い固有魔素でなんらかの反応を起こしてるのかも?って思ったんだ」
「うんうん!いや凄いよちはるん!これでまた窒素→魔素の仮説が有力になったかも!私たちの“到素”ってネーミングも大当たりなんじゃない!?窒素の上位互換的な?凄まじい可能性を秘めたエネルギーが魔素、いや到素なんだよ!!」
まあフェイのリアクションは、俺にはついて行けてないんだが、科学者としてはとても興味深い物なんだろうな。
「んで、俺のスキルに話を戻すけど」
「あっ、オケオケ!」
「俺の『待機妖化』で純魔素が、そして『大気妖化』で固有魔素が、俺の周囲で混合されたと考えると。それによって『気妖』が発動したんじゃ……って。うん、スキルの感覚からもどうやら合ってるらしい」
「そっか、二つの妖化が作用してることで上手く混ぜ合わされてるんだね。それで反応し易くしてるんだ。つまりー……」
フェイは勢いよくノートに書き殴っていく。書き殴っている割には綺麗な文字だな。育ちが良いのかも知れない。文字に関しては俺も婆ちゃんに躾けられたからな。
今では素直に感謝している。デジタルが蔓延した今の社会においても、字の綺麗さは“ステータス”なんだよな。
「ちはるん、こっちに集中ー!」
「あ、はい」
フェイが書いたのはこんな流れだ。
・『息』によって、気を変化させ易くする
・『待機妖化』による橋渡しで純魔素が発生
・『大気妖化』による橋渡しで固有魔素が発生
・二種類の魔素が『気』のスキルにより反応して爆発的な現象が起きる
・この流れをパッケージングしてスキル化したものが『気妖』?
「そうか。これで息→気の流れが必要なのも納得したよ」
「二つの妖化スキルを意識して使わなくても良いのはー、あくまで橋渡し?つまりケーブルみたいな役割だからだろうねー。別の言い方をすれば、装置の中をただ通すだけって感じで」
「ああ。『息』を使って動かされ、二つの装置を通して二種類の魔素が作られて混ざり合う」
「それを『気』のスキルによって反応した現象がいわゆる『気妖』って事だねー」
これまでに発見した事や、フェイと一緒に考察した事が次々と繋がり、それがスキルとなって発生する。
それは今までに無い興奮があって、俺は童心に帰ったような、そして幼少期には得られなかった感動を覚えていた。この輝きこそが青春……なのかもな。
『知春。いずれお前は春を知る時が来る。その時こそ、お前が羽搏く時なんだ』
父さんが言ってた言葉。これもまた“春を知る”と言うことなのかもな。もしそうなら、俺は父さんが望んだように羽搏く事が出来ているのだろうか?そしてこの翼で、自由に飛べるのだろうか?
その一つがもしかしたら、探索者になるという形なのかも知れないが……。
例え探索者になれなくったって良いんだ。俺はスキルを得て、色んな変化を得た。
肉体的なもの、対人関係、そして色んな可能性。諦めていた事を、諦めなくても良いんだと。それこそが人生の春なんだと。俺はこの時、そう思えたんだ。
「ちはるん、まーた思考の海に沈んでるなー?まあ嬉しそうな顔してるし、きっと良い事なんだろうな。しばらくそっとしてよーっと。ふふ、愛いヤツ愛いヤツ」
フェイが何か言ってたみたいだけど、この時の俺はそれには気付かなかったんだ。気付いてませんよ!本当に!!誰が愛いヤツじゃー!!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.9
・身体器用 Lv.7
・進退強化 Lv.6
・待機妖化 Lv.5
・大気妖化 Lv.2
・気妖 Lv.0
・息 Lv.5
・気 Lv.5
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◆潤目 フェイ
◆知性 Lv.12 投擲 Lv.4 観察 Lv.10
鑑定 Lv.2




