閑話.あり得たかも知れない夢の話
テレビを見ていたら躰道が取り上げられていて、自分としては色々と調べたりしていた事がいくつも出てきて、つい筆を持ちたくなりました。
本編とは関係無い内容ですが、どうか生優しい目で見て頂けると嬉しいです。
閑話.あり得たかも知れない夢の話
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夢を見ていた。それは夢だと分かるような内容のもので、そう、明晰夢と言うやつだったのだろう。
あるいは俺が見たかったもの、叶えたかったものが夢として写されているのかも知れない。
本来、夢とは夢だと認識出来ず、ただその流れの中を揺蕩うだけで。起きてみればそれはおかしいと思ったり、あるいは見たことすら忘れてしまうような。まさに夢のように儚く消えゆくものなのだろう。
ともすれば、今見ている夢を、夢として楽しめている今は。とても幸せなことで、とても残酷なことなのかも知れない。
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「もうすぐだな知春!緊張してねぇか?」
小学生の頃の一花が俺に話しかけていた。俺もまた小学生の身体で。でもその自分は、幾度しか着たこともない、躰道の道着を身につけて。まるで前からの仲良しのように、一花と話をしていた。
「俺は脇役だからな。一花こそどうなんだよ?主役なんだからトチるなよ?」
「アタシを誰だと思ってるんだよ?天下の津賀一花様だぜ?」
「いつから天下に名を馳せる存在になったんだよ?」
「なおはせる……?」
一花はやはり快活で、笑顔が綺麗で、そしてちょっぴり馬鹿で。みんなを惹きつける素敵な少女だった。
この日は躰道の大会があるみたいで、俺たちは他の子供たちと、躰道の特色でもある『展開』を披露する予定、なんだそうだ。
『展開』とは、主役と複数の脇役に分かれて、一人ずつ主役が脇役たちを倒していく。ヒーローショーみたいだとも言われる競技だ。
俺は夢の中でもやっぱり脇役で、一花は当然のように主役で。
それでもやっぱり、現実なら絶対あり得ない事を俺たちはやろうとしていた。
俺はどんな風に動くのかとか、どんな風にやられるのかとか。そんな事一つも頭に入っていないのに。それでも全然へっちゃらで、ただただ競技前の緊張感を、一花と共に楽しむ余裕すら見せていて。
「まぁあんなに練習したんだからよ。アタシたちなら絶対上手く行くって!な?」
「ああ、絶対上手く行くよな。なんたって天下の俺たちなんだからさ」
「なんだよそれ?天下の一花様は私だけなんだぞ!?」
そんな風にふざけ合って、俺たちは笑っていた。この後どんな風にすすんで、どんな風にやるのか。俺にはそんな知識は一つも無いはずなのに。
俺は一花と、畳の上で一緒に笑いあっていたんだ。あり得たかも知れない過去を。体質さえ普通だったら実現出来ていたかも知れない日々を。
(ああ、なんて幸せで。なんて辛い夢なんだ)
俯瞰で二人を見ていた俺は、こんなにも複雑な感情に飲み込まれそうなのに。
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「そうだよな。夢、だよな」
非現実が発生した、地下迷宮なんてある世界で、俺は目を覚ます。
「こっちの方が全然夢みたいじゃないか」
普通で、凡庸で、誰もが実現出来そうな夢は現実では無くて。非常識で、不思議で、誰もが夢想するような事が起きている現実で。
それでも俺は生きている。ステータスを得て。スキルを得て。体質の改善を夢見て。俺はここに立っているんだ。まあ今は寝起きなんだけどね。
「俺も身体がもっと強くなって。スキルで魔物をやっつけられるようになって。そしたら津賀と……。一花と、一緒に戦えるのかな?そうなると良いな」
探索者になれるかは正直分からない。未だに俺には自信がない。これまで積み重ねてきた挫折だらけの人生は。そんなに簡単に吹っ切れるものでは無かった。
「それでも夢を見てるんだ。この現実の中でさ、俺は夢を見たいんだよ」
一花と、白百合と、それからフェイやアイモさんと。なぜだか女性ばかりに囲まれて。
なのに色恋なんて少しも分からず、やりたい事は一緒に魔物と戦う探索者だなんて。
だけど、俺にとってはそれが青春だった。青春を取り戻せるんじゃないかってワクワクして。新しい自分になれるかもって。そう思える時間なんだ。
「一緒に戦えると良いな。その時は俺にも、躰道を教えてくれよな、一花」
まあ、飛んだり跳ねたりは、まだまだ難しそうなんだけど、な。
明日の月曜日はお休みを頂き、次回の更新は火曜日を予定しております。
今後も本作をご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げ奉りまする〜(テレビでやってた歌舞伎の襲名披露に触発されました)




