39話.陽乃下さんとの関係、初心忘るべからず
ここから第二章として、連載を再開します。
毎日更新は難しいかも知れませんが、内容や表現を意識しながら書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
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39話.陽乃下さんとの関係、初心忘るべからず
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「ここだよな。聖アンダーソン総合病院か。アンダーソンくん?」
朝から自分の変化に驚いたり、美味しい朝ごはんを食べたり。ギルドで軽い聴取を受けたりなどして。
ショッピングモールでお昼のハラスおにぎりを食べたりしてから(鮭はおにぎりに良く合う)
ギルドで聞いたその住所の通りに、俺はやってきたのだが……。
「こんな病院あったの?新しいのかな?」
聖アンダーソン総合病院は、そこそこの大きさの建物が二棟あり、それらが連絡通路で繋がっている感じの、結構綺麗な病院だった。
大きさよりも綺麗さが印象に残る、清潔そうで安心する見た目の病院だった。駐車場も雑然さが無いというか、暗さをあまり感じない。
お見舞いにと、花屋さんに見繕ってもらって買った綺麗な花束を抱えて、玄関から広々としたロビーへ。
軽く見渡しても結構な人が利用しているのが分かる。でも院内の空気は不思議と綺麗で、病院独特の消毒液の香りも、なんでだか不快には感じなかった。
「さてさて、病室の場所は……。受付で聞いたら良いのかにゃー?」
「こんにちは菅田さん」
「にゃあ!?」
「ふふふふ……にゃあって……ふふっふふふふ」
この声と笑い方は、陽乃下さん!?何故ここに!?
「あの……津賀の見舞いに来まして」
「ええ、ギルドの方から連絡をいただいております……ふふふふ」
「そのー、出来ればさっきのは忘れて貰えると」
「さ、さっきの!……にゃあ……!ふぐっふふ」
ダメだ。しばらく落ち着くのを待とう……。今日の陽乃下さんは、以前着ていたクラシカルなコートワンピースと肩にかかるショートケープ。やはり彼女にとても似合っている。色合いは少し違うかな?以前のタイプと同じようなのを幾つか持っているのかも?
「ふぅ、落ち着いた。菅田さん面白すぎる」
「何が面白いんですか……」
「何がって……危ない。もう、思い出させないで。……うん。一花のお見舞いに来ていただき、ありがとう存じます。ご案内しますので、こちらに」
「ほーい」
復活した陽乃下さんの後ろを歩く。今日は大きな帽子は被ってはおらず、薄い赤毛が優しく揺れている。普段は見えなかった白いうなじが淡く輝き、髪の毛の影に見え隠れしながら顔を出している。
なんだろう。以前会った時も素敵な人だなとは思ったが。今日は前にも増して美しく色っぽく見える。婀娜っぽいと言うのだろうか?つい目を奪われてしまい、意識して逸らすのに苦労する。
「少し歩きますので、疲れたら仰ってください。菅田さんも一昨日の件でお疲れかと思いますので」
「心配は御無用。拙者何処までもお供する所存でございますれば」
「……もう。ワザとやってる?」
「如何にも」
「ふふふふ。やっぱり面白いね、菅田さん」
なんだか、自分じゃないみたいだった。女性と話して、浮かれているなんて感覚。あの頃は周りの男を見て、阿呆らしいと思っていた筈の自分が。まるで今ではそいつらみたいで、落ち着かない。違和感が拭えない。
やはり新躰強化で身体の中身が変わった影響だろうか?流石に脳みそまで変わるとは思えない。
内臓……、消化器系や循環器系、泌尿器系など。あとはアレを見るに生殖器系もか?そう言ったものが『新躰強化』で変わったものだと思うんだが。内分泌系や神経系は、スキルから来る感覚だろうか?まだ変化は見られないと思う。
そうか。“普通の身体”で生きていたら。健康な身体、内臓、それらを前提とした生活をしていたら。男はこんな感じになるのだろうか。それが当たり前で健康的な、一般男性の日常なのだろうか?
「菅田さん?……どうしたの?どこか身体が?やっぱりどこか怪我を……?」
「え?……ああ、いや。大丈夫だ。少し考え込んでしまっただけで」
「そう?大丈夫なの?」
「ああ……。本当に、一昨日の件ではどこも悪くしてないよ」
「……」
立ち止まり、思考に沈んでしまっていた俺を、陽乃下さんが心配気に見つめる。その薄い色をした瞳がとても魅力的で、怖かった。
「ただ、思っていたんだ。スキルを得たり、地下迷宮に潜ったり。良い方に変わっていく自分が嬉しいのもあるんだ。それでも、変わってしまった自分が、果たして自分なのかと……怖くなる」
陽乃下さんには、俺のスキルを具体的に話してはいない。なら俺の言ってる事は、とても曖昧模糊な内容だろう。
それでも、陽乃下さんはこう言ってくれたんだ。
「今の菅田さんは、以前より精悍な感じがする。それはそれで素敵だけど。あの喫茶店で私の話を聞いてくれた時の菅田さんも、私は好きだよ」
「あ……」
いつものように、黒くて柔らかい手袋をしたその手が、俺の頬を柔く撫でてくれる。
「菅田さんの良さは、あの時も今も。そして多分、一花が知ってる君も。ずっと変わらない君の良さが有ると、私は思う」
「そう……かな?」
「うん。だってあの時一花を。仲違いをしていた筈の、ただの同級生だった子を助けてくれたのは。他ならぬ君じゃないか」
その言葉が、俺の心を温めてくれるみたいで。優しい温度のホットミルクで満たされていくみたいで。その優しさは俺の中で感情の渦を作り、受け止め切れない感情は溢れ、流れていく。
「ふふ。そうやって綺麗に泣ける男の子はなかなかいないよ?大丈夫だよ。君はきっと君のままだ。これからも、ずっとね」
拭った指先はその色を濃くして、なんだか申し訳ない気持ちと、ちょっと嬉しい気持ちとで。これもまた男の醜さなのかとも考えてしまうけど。
「行こう。一花が君を待ってる」
「ああ。ありがとうな。話を聞いて貰って、少し楽になったよ」
「ふふ、お互い様さ」
初心忘るべからず、か。いつになっても、新しい環境、新しい出会い。そして新しい自分と巡り会う。
その初心がこの先もあると思うと、怖いけど楽しみな自分もいたのだった。少なくともこの時の俺は、そう感じる事が出来たんだ。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.8
・身体器用 Lv.6
・進退強化 Lv.6
・待機妖化 Lv.4
・息 Lv.4
・気 Lv.4
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◆陽乃下 白百合
◆ディープフォレスト Lv.27




