35話.撤退戦と進退強化、抱え続けていたモノの重さ
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35話.撤退戦と進退強化、抱え続けていたモノの重さ
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俺と津賀の身体を上着で強く固定して、津賀の脚を片方の腕で支える。右手はフリーにしておきたかったので、多少傾くのはご了承ください。
装備越しとは言え、津賀の身体の柔らかさを感じてしまう。コイツこんなにあるんだなとか、不謹慎な事をついつい考えてしまう。
さっきなんてもっとすごい事をしてる筈なのに。少し心に余裕が出来たせいか。
魔物が現れると、右肘に下げていたバッグを落とし、そこから石を取り出して投げる。それの繰り返しで、どうにかここまで歩いてきている。
避難誘導のギルド職員に会えれば、津賀を預けられるのだが。ただの探索者には、津賀は預けられない。今の俺にあるボーダーラインはそこだった。
バットの出現が少なくなり、ボス部屋から離れてきたのを実感する。それに置き換わるように、スライムやゴブリンの出現が増えてきた。
とある学者の仮説によると、ゴブリンやスライムはボス部屋の雰囲気を嫌っているのではないか?あるいは恐れているのではないかと考えられている。
その代わりに静かな場所を好むバットは、ボス部屋の近くを縄張りにしているのではと言うのが、仮説としては一定の評価を受けていた。
「スライムはやはり三発は平均で使うな。核が小さい。ゴブリンは追い払うだけなら一発。倒すなら二発かな?」
移動する時は『進退強化』、戦う時は『身体器用』と使い分け、どちらにも『気』の同時発動で今のところ立ち回れている。
「俺も強くなったもんだ。津賀にも……見せてやりたかったな」
スライム討伐を終え、惰性のように魔凝核を拾って、カーゴパンツに付いた大きめのポケットに押し込む。
俺のナップザックは、石が詰まっているバッグに押し込んである。この後の魔凝核はスルーしても良いかな?
「本当に……強くなったんだな」
「津賀?起きたのか?」
背中に負われている津賀から声がした。もう歩けるだろうか?
「わりぃ。まだ動けそうに無い……。意識を繋げるために、せめて話せたらな、って」
「そうか。良いよ、話そう」
こうやって津賀と会話らしい会話をするのは初めての事だった。まさかそれが地下迷宮の中だとは。思えば遠くへ来たもんだ。
「アタシは……アタシはずっと謝りたかった。菅田に、謝りたかった」
「津賀……」
「こっち、見ないでくれ。顔見られると、話せない……」
「ああ……」
『あの子から、一花から接触して来た時は。どうかあの子の話を聞いてあげて欲しいの。ただ聞くだけで良いから。それを聞いて、菅田さんがどんな反応をしても良いから』
あの喫茶店で聞いた、陽乃下さんの言葉を俺は思い出していた。もしかして、それが今なのかもな、と。
俺は前を向くと、再び歩き出す。津賀をなるべく揺らさないように、慎重に歩いていく。
「あの頃は、ガキだったし。何も分からない馬鹿だったし。……違う、言い訳がしたいわけじゃ無いんだよ。本当なんだよ菅田」
「ああ……分かってるよ」
「アタシは……無遠慮に、菅田に酷い事を言っちまった。大きくなるにつれ、大人になるにつれ。自分が何も見えてないのを思い知った。菅田が大変な思いをしてたって、想像すら出来なかった。……ごめんなさい。ずっと謝りたかった。例え許して貰えなくても、謝りたかったんだ」
ごめんなさい。ごめんなさい。堰を切ったように話し終えてから、津賀は何度も、何度も、ごめんなさいと繰り返した。
もう謝らなくていい。そう言いたかったけど。津賀はきっと吐き出したいんだろうと。罪悪感と言う、少女が抱えるには重過ぎたものを。だから津賀が言いたいがままにさせた。
不思議と、津賀の身体がどんどんと軽くなっていくように感じて。こんなに重たいものを抱えていたんだな。俺のために、謝りたいと思ってくれていたんだなって。
それが酷く、嬉しかった。こんなに誰かに思ってもらえるなんて、なかなか無い事だったから。
あるいは津賀との和解で、俺の気力が戻ってきたのかも知れないが。津賀の身体は酷く軽かったんだ。
「怒ってない。恨んでないよ、津賀」
「……ほんと?」
「ああ。そりゃ言われた時は辛かったし。それは今でもずっと残ってるし。きっとこれからも消えないと思うけど」
「ごめん」
「いいんだ。消えないけど、怒ってはない。津賀を悪く思っていないから」
俺だって津賀の目線で考えられるような大人にはなった。自分がどう見られるかと諦めもつくようになった。そうやって人は成長を重ねていく。俺も津賀も、もう小さかった子供では無いんだから。
「それでも津賀が望むなら、俺は津賀を許すよ。こうやって直接謝ってくれた、その勇気に免じて。菅田知春は、津賀一花を許すよ」
「そっか……。ちゃんと謝れて良かった。勇気出せて良かったよぉ。ありがとう。ありがとう……菅田……」
一際強く抱きつかれたかと思うと、また可愛い寝息が聞こえてきた。頑張って意識を保っていたんだな。ホッとして、気が抜けてしまったのか。津賀はまた眠ってしまった。
「仲直り、出来たって事なのか?そうであって欲しい。息が詰まる関係は嫌だ」
それを確かめるためにも。良い関係が今後も続けられるように。今は無事にここを抜け出さないといけない。
「進退強化と気の二つで、比較的安全な道を選んできたけど。これはやり過ごさないとダメそうだな」
ついに、数匹の魔物の群れに追いつかれそうだった。津賀を背負って戦えるような数では恐らく無いだろう。
少し先に脇道を見つけ、俺は津賀と共にそこに潜むことにした。こんな時のための待機妖化だ。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.7
・身体器用 Lv.6
・進退強化 Lv.6
・待機妖化 Lv.3
・息 Lv.4
・気 Lv.4
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.21




