34話.初めての……、そして撤退へ
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34話.初めての……、そして撤退へ
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俺は常々、不思議だったことがある。
頭部を打ったりして倒れた人は、首を固定する処置が出来るまでは、無闇に動かしてはいけないと言う。それは分かる。
なら、倒れた人が危ない場所にいた時は?道路の上とか、瓦礫が崩れそうとか、あとは地下迷宮の中とか!
絶対動かしたらいけないのか?状況によっては移動させるのか?その時はどうやって動かしたら良いんだよ?
以前に調べたことがあったんだが、調べても全然分からなかった。調べ方が悪かったのもあるんだろうが、それでも多少は誰かが、ネットの何処かに書いてると思ってた。
こんな事なら自動車免許の講習の時に、講師に聞いとけば良かった!
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脈があるのに呼吸が無いってのはあり得るのか?……確かあり得るはず。調べた時にそういう事例もあった。
脈拍はリズムは一定で、おかしな感じは俺には見受けられなかった。息を吹き返させる事に尽力するべきか?それで回復しない時は心臓マッサージも組み込んで……。
「まずは人工呼吸か。もちろん経験は無いし、ぶっつけ本番だな」
津賀とキスをしてしまうとか、これが俺のファーストキスかとか、そもそもキスの内に入るのかとか。この時は不思議と思わなかった。
ただただ、津賀が死んでしまうんじゃないか、何かあったらと言う恐怖だけが渦巻いていて、それを『気』でなんとか抑え込む事に必死だった。
「すまんな津賀。役得だと言う事で、あとで謝るからな」
気道確保の際に頭を動かしても良いのか不安だったが、片手で頭部を支えながら顎を持ち上げ、それから津賀の綺麗な鼻を摘んで、空気が漏れるのを防いだ。
大丈夫、手順は分かってるし、身体も上手く動いてくれてる。身体器用が上手く働いてくれてるはずだ。自分を信じろ。
『息』を意識し大きく息を吸い込む。津賀に命を吹き込むイメージを持って、人工呼吸を開始した。
息を吹き込みながら、津賀の胸を確認する。胸がちゃんと上がっているのを見てから口を離し、次に吹き込むための息を吸い込む。
酸素の割合は呼気だといくらか減ってしまうと言う。吸気して直ぐに吹き込むことを意識する。出来るだけ新鮮な酸素を津賀に送れるように。頼む、助かってくれ。
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「カハッ!」
何度目の人工呼吸か。津賀は三度、四度と咳き込んだあと、呼吸を再開してくれた。
ああ……。助かった。助けられた。死なせずに済んだ……。良かった、良かったぁ。
「って呆けてる場合じゃねーよ!おい津賀!分かるか!痛みは!?苦しいとか気持ち悪いとかあるか!?」
揺らさないように、大きな声で呼び掛ける。これで起きなかったら、皮膚をつねり上げるんだったか?
「……ここは……地下迷宮?ボス部屋が見える……なんで?あれ?……なんで菅田がここに……」
「今は良いんだよ!動けるか?スライムの発生が増えてるらしい!ボス部屋の前とは言え、ここにも魔物がいつ来るか分からない」
ボス部屋前の広場には、魔物はあまり入ってこない。そのためこの広場は、ボス討伐に挑戦する者たちが休憩出来る場所でもあった。
とは言え魔物が増えている中、魔物の動きも活発になっているし、人間も避難するために右往左往している筈だ。それに刺激されて魔物がこちらに来てしまうリスクがあった。
「ああ、そうだ。避難誘導の、援護に……。わりぃな、探索で体力使った、あとだったから。意識を保つのも、キツい……」
「そうか。よし、しばらく寝てろ。なんとかするからな」
「菅田が……?へへ、菅田のくせに。生意気じゃねーか。……でも、今は甘えるわ。頼んだ……」
津賀は目を閉じると寝息を立て始めた。今度はただ眠ってるだけのはずだ。表情も穏やかだし。
『地下迷宮に今日来ないと後悔する』
スキルから感じたその予知は当たっていた。地下迷宮に潜って正解だったし、ここに導いた進退強化のスキルを信じて良かったと改めて思う。
もし俺が今日ここに居なかったら、津賀とあの三人とのやり取りに立ち会う事は無かった。
あのまま津賀が気を失っていたら、津賀の命は助かっていただろうか。それとは別に良くない事が起きてた可能性すらあるが。そんな事は想像するのもムカムカする。
さて、選択肢は二つ。このままボス部屋近くの脇道で、津賀と二人で助けを待つか。
あるいは津賀を背負って出来るだけセーフティエリアに近づくかだ。
本当ならここで、パトロールをしているギルド職員や、津賀のようにボス部屋から出てくる探索者を待ちたいところだ。それだけで魔物に対してのリスクが低くなる。
「とは言え……」
津賀の寝顔を見る。頭に石を受けて意識を失い、呼吸が止まっていた。何も無いと信じたいが、障害が残ってしまう危険がある。早く医者に診せたい。
「それに、今は地下迷宮にいる人間を信じられない……」
まさかあんな危ない奴らが地下迷宮に潜っているとは。地下迷宮に潜る時はギルドで個人情報の照会をする。誰がいつ入ったか、いつ出てきたのかがデータとして残ってしまう。地下迷宮内での犯罪を抑制するための措置だった。
にも関わらず、スライムの大量発生と言うトラブルの中とは言え。あとで咎められてもおかしくない行為をする奴らが出てくるなんて、想像もしてなかった。
「成人からじゃ無くて、学生が潜るのを禁止にした方が良いんじゃね?」
つーか無敵の人怖ぇーって。ああ言うのを増やさないために、イジメ問題とか福祉をしっかりやる必要があるんだ。犯罪に手を伸ばすリスクを減らすために。危うい事をさせないためにさ。
「よし!移動しよう!」
俺は津賀を背負って移動する選択肢を選んだ。なんたって俺の総合レベルは30前後あるはずで。人を背負って逃げるぐらいなら余裕ってなもんでしょ!
「頼んだぜ、『進退強化』と『気』の二人!俺たちを安全な場所まで導いてくれ」
進退強化スキルの“判断能力”が有れば、そして『気』の補助も加われば。より安全なルートに俺たちを導いてくれる筈だ。今回俺がここに来れたように、きっと。
俺はなんとか津賀を背負い、馬鹿三人が置いていった、石の詰まったバッグを腕にかけると立ち上がる。津賀を背負いながら戦うのは難しい。投石でどうにか切り抜けたい。
津賀は驚くほど軽かった。よろけるどころか、スッと立ち上がれて勢い余りそうになってしまった。
総合レベルの高さと、身体器用スキルのおかげだろう。少し自信が湧いてきた。上手くいく筈だ。俺なら出来る。
俺と津賀の撤退戦!はーじまーるよー!!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.7
・身体器用 Lv.6
・進退強化 Lv.6
・待機妖化 Lv.3
・息 Lv.4
・気 Lv.4
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.21




