32話.偶数の壁、事件の予兆
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32話.偶数の壁、事件の予兆
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地下迷宮に潜って、無数にある通路の脇道に籠り、スキルのレベルアップを行う。いつものように、淡々と。そうやって俺は強くなってきた。
「こうやって投石訓練も出来るし、一石二鳥だな。石だけにね!」
『身体器用』と『息』の同時発動をしながら石を投げる。向かい側の壁に淡々と投げる。ひたすら繰り返していくうちに、『新躰強化』のスキルが7に上がった。
「相変わらず“奇数レベル”に上がるのは早いんだよな。なんでだろう?」
俺は愚痴りながらも新躰強化スキルを発動させ、内臓の強化を進める。
以前から思っていたことがある。
例えば第一層から第二層へ行くのは難易度が高く、探索者になろうとしなければ、挑戦することすら出来ない。
例えばスキルのレベルを3から4に上げるには、地下迷宮に潜ってスキルを発動させる必要があった。
例えば新躰強化のレベルを5から6にするには、『待機妖化』と『気』の発動が必要だった。
「偶数の……壁?」
ただの偶然かも知れないが、新しいステップを踏む時に、偶数の壁があるような。そんな気がしていた。まあ偶然だと思うけどね。偶数だし!グウグウうるせーな!コォーッ!
とにかく今は新躰強化を発動しまくるぞ!息スキルもそろそろ4になりそうな予感だし、同時発動だ。内臓の細胞に、新鮮な空気を送り込むイメージで。
地下迷宮の空気って果たして新鮮なんだろうか?これは……是非ともフェイと議論したい議題だな。
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さらに新躰強化を使っていくと、同時発動していた『息』がレベル4になった。
今度は『気』の同時発動に切り替える。新躰強化レベル7の完成も近いかな?レベル6の時より早そうなんだよな。レベル5の時もそうだったし。これも偶数の壁によるものだったのか?
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なんだろう、今日は調子が良いな。新躰強化レベル7、強化完了しました!良い感じ!このまま身体器用と気も併せて、レベルアップを狙いたいところだ。スキルを発動し、投石訓練を再開しよう。
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「総合レベルの低い訪問者の方は直ちに避難してください!大雨によるスライムの発生が加速しています!ギルド職員と探索者の方はゲストの避難誘導を……」
投石とスキル上げをひたすらしていると、聞き慣れた男性の声が、地下迷宮の通路に響き渡っていた。
「スライムの発生が加速?やっぱり雨が降ってきたのか。と言うかこの声、ケンゾウさん?」
知り合いの声がした気がして脇道から顔を出すと、やはりそこにいたのはケンゾウさんだった。
「ケンゾウさーん!」
「おお!菅田さんじゃねーか!こんなところに居たのか?今スライムの発生が増えてるんだ、気を付けてくれ」
「ゲリラ豪雨ですか?」
「どうやら長引きそうだって話だ!にしてもボス部屋の前に誰もいねぇのか。避難誘導にかなり駆り出されてるな」
ボス部屋の前はちょっとした広場になっているんだが、扉から半径5メートル内は、ゲストの立ち入りは原則禁止とされている。
探索者資格を持つ者か、探索者になるための試験を受ける者だけが侵入を許可されており、監視の目も普段はそれなりにあるそうだ。ボス部屋の危険さが分かるな。
「とは言え扉自体は『探索者タグ』が無いと開かないんだがな。まぁこんな状況じゃボス討伐に来るヤツも居ないだろう」
それだけスライムの発生や、それに起因して他の魔物の活動が活発になっているのかもな。大雨の日には稀にある事で、総合レベル5未満のゲストには強制避難を促していた。
地下迷宮の奥にあるここらには、人はもうあまり残っていないだろう。
「菅田さんは総合レベル結構たけぇだろ?具体的には聞かねえけどよ。あぁ、言わなくていい。俺はレベルが低いゲストを集めて誘導してギルドに戻るからよ。菅田さんも一応気を付けてくれよ?」
「はい。スライムの数が目に見えて増えてきたら、投石しながら戻ってきます」
「心得てるな。他のゲストのために多少の石は残してやってくれよ」
「了解です!」
ケンゾウさんが去るのを見ながら、俺は左耳に着いたイヤーカフを撫でる。
フェイに貰ったイヤーカフで、総合レベルもいくらか低めに“擬態”されているんだけどな。ケンゾウさん侮りがたし。
「ギルド職員は大変だな。あれだけ強いんだから、もっと探索者として活動したいだろうに」
本来はこう言った誘導も、ボランティアみたいなもんだよな。避難勧告をしても動かない人を、助ける義務はギルドには無い。もちろん探索者にも。
目の前で危険な状況になってる時にだけ助ける義務はあるが、それ以外は“努力義務”になっている。地下迷宮は危険が前提の場所。警察や自衛隊が護ってくれている、人々が暮らす街中では無いのだから。
「俺も一応、ボス部屋の前に意識は向けとくか。間違ってレベルの低いゲストが来ちゃったら、声をかける程度はしてやりたい」
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それから、脇道の外をなんとなく意識しながら。投石訓練を続けている時だった。
「へぇ、ここがボス部屋か。デケーな!」
「ここをクリアすると探索者になれるんだろ?早くヤリてーな!」
「ねぇ、危ないから早く戻ろうよ……」
悪いことが起きる。そんな嫌な雰囲気を、気のスキルで俺は感じ取っていた。後から思えば、それが何かをもっと早く感じ取れていれば。アイツはあんな目に遭わなかったのに。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.7
・身体器用 Lv.6
・進退強化 Lv.6
・待機妖化 Lv.3
・息 Lv.4
・気 Lv.3
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◆幡羅 謙三
◆身体強化 Lv.9 体力 Lv.8 投擲 Lv.7
体術 Lv.6




