28話.好奇心は肚をも殺す、壁を越える新躰強化
お読みいただきありがとうございます。リアクションや感想、そして評価をいただけると嬉しいです。励みになります!
28話.好奇心は肚をも殺す、壁を越える新躰強化
◆
それは人の気配が無い、第一層の奥にある脇道で起きた。
先程他の訪問者が戦っていた場面を見かけ、そこで『待機妖化』のスキルを検証した後のことだった。
脇道の奥に入り、壁に背を預けながら『息』→『待機妖化』とスキルを発動し、待機妖化のスキルレベルを上げていた。
時間を忘れて、何十回とスキルを発動させ、スキルレベルが3に上がった時に、ふと思った。いや、思ってしまったんだ。
“この状態で『気』のスキルを使えば、もっと効果が高まるんじゃないか?”と。
妖化の文字から妖気を連想していた。地下迷宮には『魔素』が充満していると言われている。だからスキル効果も地下迷宮内で高まるのだと。
つまり『気』は周りの空気、あるいはそこに含まれる物質にも影響を及ぼせるのでは?それが妖化とも関連するのでは?と。
後悔先に立たず。後になって悔やんでも意味が無いから後悔なのだが、それこそ言っても詮ないことだ。
とにかく思い付いたらやってみたくなる。それが好奇心と言うものだ。スキルを使って悪いことが起きるとも思わなかったし。
スキルがあるから俺はここまで自分を変えられたのだ。なぜそのスキルを悪く思えようか?
「グゥッ!……ァァアッ!ガアアッ!!」
好奇心は猫もを殺す。好奇心は、俺の肚をも殺してみせた。
自分の口から出たとは思えない、それこそ魔物のような咆哮が吐き出されたが、そんな声すら気にも留められない痛みが肚を襲ったのだ。
肚、つまり胃の腑を襲う痛みは、ステータスを得るより前ですら感じたものでは無かった。
そして同時に、それはステータスを得たその直後に感じた時の痛みを、思い起こさせるものでもあった。
◆
俺が新入社員として働き始めた直後。健康診断などと併せてやらされたのが“ステータス取得ツアー”だった。
ツアーを企画した旅行会社の案内と説明を地下迷宮内で聞き、その後複数のグループに分かれてステータス取得が行われた。
「これを飲むのか……」
説明ではそれは、魔凝核を粉状にされたものだと言う。早くステータスが得られるように、カプセルや錠剤では無く、粉薬のように飲まなければいけない。
こんな物を飲んで大丈夫かとも思うが、これまで何万人もの人が経験している事だ。早く終わらせようと、同じく渡されたペットボトルの水で流し込んだ。
特に何の変化も無いかと、そう考えた直後の事だった。
激しい痛みが鳩尾をズキズキと襲い、普段から感じ慣れた痛み以上のそれに、腹を押さえたまま硬直して動けなくなってしまった。
そう、ちょうど肚を掌底で撃ち抜かれたゴブリンのように。
暫くして痛みは治まってくれたが、俺は粗悪品を飲まされたのではないかと、ツアーガイドのオッサンを絶許リストに入れたのは当然の帰結だった。
スキル名も『シンタイキヨウカ』だったし、それもあって表示がバグってるんじゃないか?とずっと思っていたのだ。
◆
さて、そんな記憶が蘇ってきたが、痛みは一向に治まらない。このまま死んでしまうんじゃないか?不安が痛みと共に襲い掛かる。
(スキルを……確認……)
藁をも掴む思いで脳内にステータスを表示させる。良くも悪くも、俺には“コレしかない”のだ。そしてスキルにとある変化を見つけた。
(新躰強化が……レベル6に……!?)
何で上がったのかは分からないが、これしか無いと直感で新躰強化を発動する。
一回……二回……。発動する度に、肚の痛みが弱まっていく。腹の中の臓腑が強化されていく……。
いやむしろ、新しいものに再生されるかのような、そんな感覚すらあった。
スキルレベルが6になり、新しいステージに入ったんじゃ?そんな推測が、痛みが弱まると共に頭に浮かんできていた。
「新躰強化の“新”ってこれを示していた?ならこれまでは……強い内臓になるための“準備段階”だった……のか?」
やがて痛みが治まり、倒れていた身体を起こす。流れた脂汗を手で拭い、背中を硬い岩壁に預けて息を吐く。
息スキルを……少し使うのに不安があったが、拍子抜けするほどに何も無く、脈拍と気持ちが落ち着いていく。気スキルは……まだちょっと怖いな。
「昨日行ったばかりなのに。またフェイに話したいことが出来てしまったな……」
パッツン髪に丸眼鏡の、明るい笑顔の女性の事を、俺はその時思い出していたのだった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.6
・身体器用 Lv.5
・進退強化 Lv.5
・待機妖化 Lv.3
・息 Lv.3
・気 Lv.3




