27話.新しいスキルは試したくなる、好奇心は……
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27話.新しいスキルは試したくなる、好奇心は……
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翌日、いつもの公園内で『待機妖化』を使ってみる事にした。待機妖化のおかげか、『息』と『気』がそれぞれレベル3になっていた。いつもこっそりレベルアップするんだよな、この二人。
『前なれば気が満ち、逆なれば神が満つ』
最近また躰道について触れようと、色んな動画を見ている中で聞いた言葉だ。
身体の前側で気が満ちれば、身体の後ろ側で神気が満ちる。豊かに呼吸の出来る状態なら、脳や背骨に走る脊髄、神経にも良い影響がある。
ちなみに神経とは『神気経脈』の略で、神気(精神力などを意味する)が通る道が神経だ。
少年時代、初めて躰道に触れた時。苦い経験や記憶もあったが、恵みある教えもあった。その一つが『虚領頂頸』など、姿勢に関わるものだった。
難しい四字熟語だが、分かりやすく言うと『力を抜いて首を真っ直ぐに立てよう』って事。そう言った綺麗な姿勢、健康に良い身体の構え方を教わった。
真っ直ぐと言えど、現代で言う『ストレートネック』ってやつとは別物だ。あれは猫背の姿勢で顔を前に向けようとして、首が斜めに伸びている状態だ。
この状態で背中を正すと、顔が上を向いてしまう事からもその異常性は窺える。気道や血管、神経なども圧迫されているため、身体に悪い状態で硬直してる異常なもの、つまり異状だ。
「猫背という名前の可愛さに、侮っている人がどれだけ多いことか。猫背は人を殺すのに」
こう言った猫背やストレートネックなどの悪い姿勢が、様々な不健康に繋がる。
呼吸がしづらい身体になり、脳も上手く働かなくなる。
背中の筋肉は伸びたまま固まり、胸の筋肉は縮こまったまま固まる。悪い状態で“ロック”されてしまうのだ。
筋肉が関節を硬め、そして内臓を圧迫する。自律神経などの重要な神経も疲弊する。負の連鎖だ。
逆に言えば良い姿勢が武術、武道の基礎として教えられているように、正しい姿勢が強い身体や巧みな攻撃にも繋がっていく。正の連鎖を起こせるのだ。
「どちらの連鎖を選ぶか。そんなの分かりきってるよな。姿勢を意識するだけでめちゃくちゃお得なんだから」
生きるために必要な息、その息をしやすい姿勢を意識して、筋肉や神経が十分に働ける状態を保つ事。息が気に繋がるわけだ。
だから俺は息スキルのレベルを上げれば、気のスキルも自ずと伸びていくと考えたのだ。今のところそれは上手くいっている。
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今日は実験も兼ねて、早めに休みを入れてベンチに腰掛ける。姿勢良く座り、息スキルを使う。大きく深く呼吸をして、それから待機妖化を発動する。
身体の皮膚感覚がボヤけ、周りの空気もどこかトロミがかったものになる。周りの空気自体も“妖化”しているのだろうか?
「来た来た。どんな反応するかな……」
ランニングマン(仮)は今日も元気に我が物顔で走っている。毎日走ってて偉いね。
普段は俺がベンチに座っていると、チラッとこちらに視線をくれる。相手も俺のことを意識しているんだろう。恋ではないと信じたい。
「普通に通り過ぎて……行ったよな。これは成功か?」
考え事をしながら走っていた可能性は0では無いが、俺のことを認識していないのではないか?待機妖化の効果が効いているのだと思う。
「よし!レベルも2になっている!」
脳内に浮かんだステータス画面で、待機妖化のレベルアップを確認できた。
これで地下迷宮でも上手く使えるだろうか。少しの自信と不安を抱え、俺は公園を後にした。
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今日の目的は『地下迷宮内でも待機妖化が使えるか?』である。ついでに更なるレベルアップが出来ればと期待している。
さて、どうやってスキルの効果を確かめようか?実はノープランだった。スーツとサングラスのオッサンたちが大喜利とかやってる番組並みにノープランだ。誰に伝わるのだろうかこのネタ?
少し前のバラエティ番組がめちゃくちゃ面白いんだよなぁと余計なことを考えていると、初期装備の訪問者がゴブリンと戦っているところに出会す。
こういう時は邪魔をしないようにしながらも、危険がありそうなら一言問いかけてから助っ人に出るのが、地下迷宮のマナーとされている。
もちろん自分が危険に陥らないように見極めが必要で、助けるのが難しいと思ったら周りに助けを求めるように言われている。パトロールをしている探索者もいるからだ。
さて、今回の男性は無難に戦えているようなので、邪魔をしないようにするか。
「これ、スキルの確認に良いな」
戦っている彼には悪いが、スキルの検証に使わせて貰おう。
『息』→『待機妖化』と発動させる。まだ同時発動は出来ない。これは感覚で推測できる。
距離が離れていることもあり、男性にもゴブリンにも気付かれてはいない。躱して攻撃、基本を押さえた良い動きだと思う。今日がデビューの人かも?
さて、ここから少しずつ近づいて行く。待機妖化のため、あまり激しく動くと効果が出ないため、身体の軸がブレないようにも気を付けながら。
5メートルぐらい近付いたか?ゴブリンの視野に入ってるだろう距離だ。これで悟られなければスキルが効いてると判断出来そうだが。
「……大丈夫そう、か?」
不意に声を出してしまったがそれでもゴブリンには気付かれなかった。そのまま男性訪問者の剣がゴブリンを倒し、魔凝核を回収した彼は奥へと去っていった。
他人の戦闘を見てる方が緊張するな。自分が戦ってる時とは別の不安がある。
とは言え、これで待機妖化のスキル効果は確認出来ただろう。少なくとも、第一層においては十分に効果を発揮する筈だ。
「あとは適当な脇道に入って、スキルレベルを上げられるだけ上げようかな?」
まさか、この後にとんでもない事件が起きるだなんて。この時の俺には想像も出来なかったんだ……。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.5
・身体器用 Lv.5
・進退強化 Lv.5
・待機妖化 Lv.2
・息 Lv.3
・気 Lv.3




