24話.潤目さん宅へ、スパイごっこ
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24話.潤目さん宅へ、スパイごっこ
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URMEN内チャットデータ
こんばんは。いつもお世話に
なっております。
以前お話した件ですが、
いつ頃が宜しいでしょうか。
相談させて頂きたい旨もあり、
お忙しい中恐縮ですが、
お時間を頂ければと思います。
ちょ、硬いって〜ちはるん!
仕事のメールじゃ無いんだから
さw
休みだけど、明日はどうかな?
先方の都合で急に丸々と時間が
空いちゃったんだよね〜
硬いですかね?慣れてなくて。
つか誰がちはるんですか!
明日ですね。分かりました。
こちらは問題無いです。
えー?ちはるんダメ?
可愛いのにー
んじゃ10時にこの前の喫茶
店で待ち合わせでもいい?
See Coffeeですね。
オッケーです!
あとちはるんは外で呼ばないで
くださいよ?
おけ!二人きりの時なら良いん
だね!やったー!
そんな事言ってない!
◆
ってやり取りをして、地下迷宮ディベロップメント、通称『CMD』所属の開発者である潤目さんのお宅に、本日お邪魔する事とあいなった。
地下迷宮のあらゆる製品に携わる会社の開発者なため、潤目さんは本来とても忙しい。その分色んな都合に振り回される事も少なくないらしく、今回のようなスポットが発生する事も稀にあるそうだ。スポッとね!
潤目さんと会話していたURMENは、潤目さんが個人で作ったプライベートチャットアプリ。セキュリティの面では信頼出来るとか。
ただどうしても情報が抜かれるリスクは0にはならない為、スキルの事とか、外に漏らしたく無い情報を話し合うために、今日は時間を作って貰った。セキュリティの信頼度で言うと、
潤目さんの自宅>URMEN>>See Coffee
となってるそうだ。情報化社会では少しのことでも気を配らなければいけない。暮らしにくい世の中である。
と言うか、女性の住んでる所に行くのは今回が初めてだ。なんなら他人の家にお邪魔する機会が皆無だったまである。なんだその悲しい情報は?
「ヤバい、緊張してきたら肚が痛くなってきた……。気晴らしに走ってくるか」
時間まで公園でジョギングをして、家で汗を流してから待ち合わせの店に来た。
ほら、女性のお宅にお伺いするからね?失礼があってはいけないのだよ。なんか手土産とか用意した方が良かったか?甘い物とか好きかな?
『See Coffee』の店内に入ると、いつものマスターが迎えてくれた。潤目さんは既に来てると?まだ待ち合わせの10分前だよ?早くない?
店員さんに持ち帰りのサービスは出来るかと聞いたらイケるそうなので、ケーキを適当に四つぐらい購入して、店を出る時に持たせて貰えるようにお願いした。
最初はマスターに聞いたんだけど、なんも応えてくれないなって思ってたら店員さんが声をかけてくれた。俺マスターに嫌われてる?
以前の個室に行くと、やはり潤目さんは既に座って待っていた。
「お待たせしてすみません」
「いいよー、と言うか来るの早かったね?私はここから近いから早めに来たんだよね」
「ここから近いんですか、それは良かった。まだここら辺の地理に詳しくなくて」
大宮の地下迷宮は、大宮駅前のロータリーが有った場所に出来たそうで、そこから再開発があって、今では駅とショッピングモール、それから高層マンションなんかが、ギルドを取り囲むようにして作られた。
既にアイスモカラテを飲み終えていた潤目さんに断りを入れ、直ぐに潤目さんのお宅に向かう事となった。“アイスも空手”じゃないよ?アイス・モカ・ラテだよ?
潤目さんにケーキを買ったと言ったらとても喜ばれたよ。甘いの好きみたいで良かった。モカラテ飲んでるの見た時点で勝確ではあったけどね。
◆
潤目さんが住んでるのはてっきり高層マンションの中だと思っていたが、実際はショッピングモールとオフィス群の半ばにある、デザイナーズマンションの一部屋だった。
6階建ての一階、女性の一人暮らしとしてはやや不安な階だが、オートロックなどの目に見えるセキュリティに加え、CMD独自の技術が生かされたマンションだと言う。
「CMDの社員寮みたいな感じですか?」
「間違ってはいないけど、その中でも研究職の女性に限定されてるねー。男性用のは別にあるよん」
と言う事でマンションのロビーを抜け、さらに奥へと進み。表札の無く、部屋番号だけのドアを開けて貰い中へと入る。なんか手のひらをドアに当ててたけど、もしかして静脈認証かな?
「お邪魔しまーす」
「あいあーい、上着置いて来るからちょっち待っててー」
自分の部屋に帰ってきたからか、素の潤目さんな口調で奥へと消えた。
俺はリビングのソファに座らせて貰い、テーブルにケーキの入った箱を置いて潤目さんを待つ。落ち着かない。
「お待たせー。ケーキは後で食べよっか。冷蔵庫入れてくるー」
「はーい」
また待つ。やはり落ち着かない。ソワソワしてしまう。息スキルを発動して深く息を吐く。疚しい気持ちは無いが、落ち着かないものを外へと吐き出すイメージで。
「んじゃこっちね。こっちがマンガとか映画とか観れる部屋ね」
「あー、『マンガ部屋』ですね。楽しみです」
「話してた通り、色んなジャンルあるから楽しみにしててー」
チャットでの“打ち合わせ通り”に話す。なんかスパイ映画みたいでワクワクしてる。
潤目さん曰く『マンガ部屋』に入ると、部屋の壁は全て本棚で埋め尽くされ、マンガがギッシリと並んでいた。本当に沢山ある。マンガ喫茶開けるぞこの量。
俺たちはそれぞれ好きなマンガを手に取り、床に転がっているクッションにくつろぎながら、マンガを読み始める。とりあえず“フリ”では無くて、実際にマンガを楽しむ。へー、これってコミカライズされてたのか。知らんかったな。
ペラ……ペラ……。ゴソゴソ……。
しばらくするとスマホが震え、俺はそれが合図だと思い出して潤目さんを見る。潤目さんはオッケーマークを出している。上手くいったのかな?
「ちょっち音楽流して良いー?」
「はーい」
潤目さんはリモコンを操作して音楽を流す。JAZZかな?割と激しめのやつで、ビッグバンド的なやつだろうか。音量は適度だ。
潤目さんはおもむろに立ち上がると、マンガが並んでいる本棚のうち、某バスケ漫画の新装版をいくつか抜いて並べ替える。
それから本棚自体を潤目さんが押すと、そこだけ後ろに音も無く下がり、それから左へとスライドした。よく見るとレールのようなものがあり、それが良い仕事をしたのだろう。
唐突に本棚が動き出して思わず口を押さえる。慌てて声が出そうになったが、JAZZに紛れて流れる“マンガを繰る音”に耳を澄ましてやり過ごす。
現れた四角い穴と、その奥にドアが。当然のように無音で開くドアを開け、二人でコッソリとそこをくぐって、それからゆっくりとドアを閉めた。
◆
「ふひー。もう声出して良いよー」
「はぁ。めっちゃ緊張した!」
「やっぱり本棚の仕掛けはマストだよねー」
「映画みたいでドキドキしたわ」
マンガ部屋での一通りの“茶番”を終えて、俺たちは同時に溜め息を吐いた。
「盗撮は多分大丈夫だけど、盗聴だけはどうしても探しきれないだろうからね。念のため必要なのだよー」
「大企業に勤めると苦労するんだな」
「ほんとだよー。もう息が詰まってやになる!」
マンガ部屋でやってた事をお浚いすると、
・マンガを読む音や身動きする音を録音する
・それをAIで規則的にならないようにして
・高音質スピーカーで音を流す
と、こんな手順を踏んで今に至る。全ての部屋は無理でも、ここ一部屋だけならジャミングとか徹底出来るんだって話だ。
はたしてこれで上手くいったんだろうか?まあ念のためという話だし、俺が気にしたところでどうにもならないだろう。
「それじゃあ始めようか?『秘密の話』を」
「ゲ○ドウポーズやめぃ」
「ふふ、楽しいねー!」
まあ楽しいのは同意だけどさ!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.5
・身体器用 Lv.5
・進退強化 Lv.5
・息 Lv.3
・気 Lv.2
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◆潤目 フェイ
◆知性 Lv.6 投擲 Lv.1 観察 Lv.5