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【40000PV感謝!】シンタイキヨウカってなに?  作者: taso
第一章 変わり始める躰
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18話.他者から見た地下迷宮、命と夢と

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18話.他者から見た地下迷宮、命と夢と



 俺がエレベーターに乗り込んだ時、追い掛けるように入ってきた人物がいた。


「おい」


 固い声と共に肩に手を掛けられる。そして振り返った先にいたのは……。


「なんだ、ケンゾウさんじゃないですか」

「はは、お久しぶりです。覚えていてくださって良かったですよ。そうでなきゃイタズラではなく事案になっていました」


 そう、潤目さんの護衛として依頼を受けていたギルド探索者のケンゾウさんだった。


「菅田さん、今日はどのような用向きで?」

「発掘をメインに、いくらか稼げればと」

「そうでしたか。ならば途中まで私と一緒にいかがですか?」


 本日はパトロール業務で潜ると言うケンゾウさん。そのルートの途中まで一緒に行ってくれる事になった。

 第一層は比較的安全とは言え、魔物は出るし色んな訪問者(ゲスト)や探索者がいる。トラブルに巻き込まれるリスクもあるため、片道だけでもケンゾウさんが付いてきてくれるなら助かるな。


「それはありがたい申し出ですね。同中よろしくお願いします」

「そんな硬くならずに。なんなら敬語も必要無いですぞ」


 そう言う事になった。



 幡羅(はたら) 謙三(けんぞう)、65歳。


 彼が探索者になったのは五年前。地下迷宮が一般に公開されて直ぐの事だった。


 60歳で長年勤め上げてきた会社を定年退職。早めのドロップアウトを会社と事前に話し合っていて、今後どう生きようか。そんな時に起きていたのが地下迷宮ブームだった。


 国営放送含むメディアのゴリ押しもあったのだろう。テレビでもネットでも地下迷宮の話題は尽きず、一般公開直後からスキル取得ツアーが、各旅行会社からいくつも打ち出されていた。


 彼の奥さんは一人で定食屋をやっており、わずかな常連客は居たのだが、繁盛らしい繁盛も無く、経営は赤が出始めており。そろそろ店仕舞いも考えていた。そこに地下迷宮の一般公開。


 どうせならと、二人でツアーに申し込んだ。定食屋を開くのが奥さんの夢であったなら、ケンゾウさんの夢は『冒険者』になる事だった。


 冒険者と探索者、多少は違うが、男の浪漫のような職業だ。退職金もあるし、そこまで高いツアー料金でも無い。

 定食屋を開くと言う夢を叶えてくれたケンゾウさんに報いたい。奥さんの願いだった。


 多少蓄えは減るが、お互い先がそう長いわけでもない。記念に二人で行こうじゃないか。そんな軽い気持ちであったそうだ。


 なんの因果か。二人に生えたスキルは、二人がとても欲していたものとなった。


 ケンゾウさんは『身体強化』と『体力』のダブル。そして奥さんは『料理』のスキルだった。


 夢を見るのに遅いなんてことは無い。地下迷宮がそう言っているかのようだった。

 奥さんは店を仕舞う予定だった定食屋をリニューアルし、新たにメニューも増やして、一躍『味と女将の笑顔が評判の定食屋』に。


 そしてケンゾウさんはギルドに申請し、当時は試験も無く、戦闘スキルさえ有ればすぐになれる探索者になった。


 二人の新たな人生が始まったのだ。



 そんな話を行きずりで聞かされた。聞いてる最中、なぜか頭の中に『生〜きて〜』とノンフィクションな歌声がループ再生されていた。


「不思議なもんだよな。こんな歳にもなってよ。ガキの頃からの夢が叶うっつーんだからよ」


 タメ口になったケンゾウさんは、江戸っ子みたいな口調に変わり、それがとても板についていた。男が憧れる男。そんな感じ。むしろ俺の方がタメ口なんて無理だった。人生の先輩への尊敬の念が、自然とそうさせていた。


「それからはギルド所属のギルド探索者になって、依頼を請けながらも少しずつ探索をして。剣技や護身術やらと色々と覚えてな。楽しかったなぁ」

「良いですね。男の夢を体現してるじゃないですか」

「はは、いつ幸運が転がり込んで来るかなんて、分からねぇもんだな。とは言え、人生万事塞翁が馬。気を引き締めていかなきゃな」


 昔の話をするケンゾウさんの顔は、どこか今の自分に重なるものがあった。


 俺もスキルを得て、それが成長して地下迷宮なんかに潜れるようになって。新しい事にチャレンジ出来る喜び、好きなことがやれる悦びを感じていた。


「探索者に限らず命大事に、なにをするにしても、命あっての物種よ。命が無きゃ、世界が消えちまう」

「世界が、ですか?」

「おうよ。世界っつーのはよ。なにも周りに広がってる、外側の事だけじゃねーのよ。自分の中にある、内側のものこそが本当の世界だ」


 ケンゾウさんはパトロールの業務を油断無く行いながらも、それでも熱く語ってくれる。


「自分って言う世界が無くなったらな。どんなに楽しい世界が周りに広がっていようが、どんなに楽しいことが未来に待ってたとしてもよ、なんにも感じられなくなるんだよ。見れなくなるんだよ。好きなことも、愛する人も、全てが世界から消えちまう」

「なんとなく……分かる気がします。健康があってこそ楽しめるものがあるし、命あってこそ、可能性を残す事が出来る」


 これまでの自分を思うと、ケンゾウさんの言葉は分かるような気がした。


「そー言うことよ。おめぇさんも、健康面で色々あったのかもな。この歳になると、顔を見るだけでも、コイツは苦労してるんだなとか、嫌な経験をしてきたんだなとか、分かるようになるのよ。でも今は地下迷宮に潜れているし、健康になってきてるっつーことだよな?恐らくそれも、スキルの影響なんだろうな」


 俺は今後どうなっていくんだろうか。幸せになれるんだろうか?新たな苦しみがやって来るのかもしれない。

 塞翁が馬。何が起こるか分からない世界。地下迷宮なんてファンタジーが現実になった世界。それでも、命が無ければ何も無いのも、また世界。


「外の世界はそれはそれで必要なもんよ。新しい経験、新しい出会い。それが自分の世界を広げていく。それでも内側の世界、内側にある自分を、見失わないようにな」



 人気(ひとけ)はあるが、そこまで多くは無い場所まで来たところで、ケンゾウさんと俺は分かれた。

 ケンゾウさんは今日もまた、訪問者たちの安全を見守りながらも、探索者としての夢を叶え続けているのだろう。


「俺も頑張らなきゃな。弱冠26歳。まだまだひよっこよ!人生、楽しめなくっちゃ、なっ!」


 湧き上がる元気、内なる『気』を感じながら、俺は脇道の岩壁にピッケルを振るのだった。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

菅田(スダ) 知春(チハル)


◆シンタイキヨウカ

・新躰強化 Lv.5

・身体器用 Lv.4

・進退強化 Lv.5

・息 Lv.2

・気 Lv.2


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

幡羅(ハタラ) 謙三(ケンゾウ)


◆身体強化 Lv.7 体力 Lv.8 投擲 Lv.6

 体術 Lv.5

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