11話.伝統技法、その名は投石
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11話.伝統技法、その名は投石
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コツン、コツン、小さい音が連なっていく。
コツン、コツン、小さな音を重ねていく。
やがて手持ちの石が尽きると、立ち上がり背中を伸ばして、反対側の壁に向かう。今まで石を投げていたその壁へと。
俺が今やっているのは、地下迷宮が一般に解放されてからの5年間、脈々と続いている伝統的な訓練法。その名も投石訓練である。
地下迷宮はゲートから転移した広間、通称セーフティエリアから、何本もの通路が広がっていく。大きな通路からさらに細い通路へと、網目状に、血管のようにと広がっている。
細い通路でも幅は3メートルとそこまで狭くは無い。そう言った通路が時には行き止まり、時には別の細い通路と連絡したりと、まるで迷路みたいになっている。地下迷宮と言われる所以の一つでもある。
「暗くもなく、かと言って明る過ぎず。ちょうどいい空間。なんだか居心地良いな」
津賀と親しげだった白い顔の女性が言ってたのも、なんだか分かる気がする。
レベルのお陰で体力もあるし、短い時間の運動なら腹痛や息苦しさも起きないし。ここが俺の聖地だったのか?ごめんよベンチ。新しい聖地が出来たよ。
散らばった石を新躰強化スキルを使いながら拾い集め、うずたかく積み上げてから側に腰を下ろす。更なる投石が今、始まる!
細い通路は行き止まりのことが多く、それらは様々なことに利用される。
例えば石掘り。亜空沼に入る前の列に並んでいる間、ギルド職員に頼めば無料でピッケルを借りることが出来る。そのピッケルで地下迷宮の壁を掘ると、色んな素材の石を得ることが出来る。
大半は普通の石だが、たまに鉄鉱石などの鉱物、運が良ければレアメタルやレアアースなんかが含まれる、大きな塊がポロンと落ちたりするそうだ。
またスキルの訓練を行うものもいる。細い通路は魔物の出現が極端に少ないため、壁に背を向けてスキルを使う事で、ある程度安全にスキルレベルを上げることが出来る。
そして通路のもう一つの利用法、それがこの投石訓練だ。壁を背に、反対側の壁に石を投げる。投げる。投げ続ける。何度も投げて投石の技術を身に付ける。運が良ければ『投擲』のスキルを得ることも出来る。必ずしも得られるわけではないが、これだけでスキルが得られるかも知れないんだから、こんな上手い話は無い。
「スキルレベルは自分のレベル。スキル大事」
地下迷宮で投石なんてしたら当然音が鳴る。そんな事したら魔物が近寄ってきたりして危険だろう?なんて思う人も居るはず。ワイトもそう思いました。
だがそんなに危険だったら、長年続いてる伝統になる筈もない。では何故これが多くの人たちの間で行われて居るのか?
魔物を倒すには専用の装備が必要だ。専用の装備を作るには魔凝核の素材が必要だ。
では初めて魔物を倒した人は、どうやって倒すことが出来たのか?
それが投石だ。殴っても蹴っても魔物を倒せず、逃げるしか無く追い詰められ。そこで咄嗟に掴んだ石を投げたところ、アッサリと魔物を倒すことが出来たのだ。地下迷宮から生み出された、たった一つの石で。
その出来事があったからか、暫くは魔物退治=投石となった。魔凝核の研究が重ねられ装備を作れるようになっても、投石は初級者にもベテランにも、必須のスキル外スキルとなっている。投石は牽制にも使えるからね。
それと発掘や投石なんかの、石が地下迷宮内に当たる音は、弱い魔物を遠ざける効果も有るらしい。だから投石訓練はギルドからも推奨されている。ただ人に向かって投げたら危ないので、こうして誰も使っていない狭い通路を見つけて行うのだ。
「スキルレベルがどんどん上がるな。やっぱり地下迷宮の中で上げるのが、レベル4の壁を突破する条件だったのかな?地下迷宮に入って良かった」
暫くの間、投石中は身体器用のスキルを、石を集める時は新躰強化のスキルを使い続けて、どちらもレベル4に上げることが出来た。
本当はスキルを同時に使えたら良いんだけどね……。どうやらスキルレベルが低いスキルは同時に使えないようだ。なんというか、両手で二台のスマホを使って別々の事をするような感覚だ。
特に文字数を多く使っている新躰強化や身体器用などは、無意識で発動が出来る分、他のスキルとぶつかるような感じと言うか。
その代わり、スキルレベルが上がった時になんとなく『スキルレベルが高まるにつれ、同時発動が出来る』と感じたので、俺はそれを信じてみたい。スキルが発生してから感じられるこの勘のようなものが、俺をここへと導いてくれたのだから。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.4
・身体器用 Lv.4
・進退強化 Lv.3
・息 Lv.0
・気 Lv.0




