97話.妖精とスキルと地下迷宮、庭に温泉が湧きました
97話.妖精とスキルと地下迷宮、庭に温泉が湧きました
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竹炭作りと並行して、庭でバーベキューをしていた俺たち。それも一段落したタイミングで、俺は『鏡花』スキルから現れたカピバラを二人に紹介することにした。
……本来であれば、自分のスキルに関しては“限定的に”話すように心がけていた。それはユニークスキルである俺の『シンタイキヨウカ』に関して、あまり口外するべきでは無いと考えているからだ。
まだ全容を把握できていない未知のスキルを話すことによって、俺だけじゃなく周りの人が第三者から狙われるかも知れない。そんなリスクをみんなにはあまり負わせたくなかった。
じゃあなんで『鏡花』スキルを公開しようと思ったかと言えば……。
(カピバラを見せたい気持ちが抑えられなかったってだけなんだよね)
だってさぁ!この世で一番可愛いと言われている(個人的意見です)カピバラ様をだよ!?自分のスキルで召喚出来るとか!そんなの話さずにいられるだろうか!?いや無理だね!!(反語)
『鏡花』スキルは今のところカピバラを召喚出来るってことしか分かってないし、それだけなら二人には話してしまってもいいんじゃないか?と最終的には判断した。
この二人はこれから探索者仲間としてパーティを組んで行く予定だし、人格的にも口の硬さは信頼している。あとはまぁ、タイミング的にもちょうど良かったし。
「おい、あれ本当にカピバラなんだよな!?」
「ああ。まあ現実に存在しているようなのとはもちろん異なると思うし、まだ知らないだけで色んな秘密があるかもだけど。今のところは普通にカピバラ」
「普通にカピバラってなんだよ……」
「うーん。感覚としては妖精種に近いのかな?」
と言うのはジッとカピバラを観察していた白百合。妖精種と言うのは俺は初めて聞いたけど、やっぱりいるんだな。妖精。
「その妖精ってのは地下迷宮に現れるのか?」
「うん。あとはスキルだね。『召喚』スキル持ちの中でも一部の人が召喚出来る」
地下迷宮に現れる妖精は魔物とは違うらしく、言ってみたらNPCみたいな存在らしい。限られた場所と条件により現れて、探索者に色んな物をもたらすとされている。
時には宝箱、時には秘密の場所、時には呪いや死。
良い運も悪い運も、全ては探索者と妖精次第だと言われている。探索者の言動によっては運を掴み損ねたり、悪い運を退けたり。
「とは言っても、具体的なことは分からない。その殆どは地下迷宮で見つかった書物などから得られた知識でしかない」
「そっか。ん?とすると、さっき白百合が言ってた“感覚”って?」
「私の感覚は『ディープフォレスト』から感じ取ったもの。多分ダークエルフが持っている感覚を通して感じられるものだと思う」
なーほーね?白百合のスキルに関しては俺も全体を把握してはいないけど、白百合が不確かなことを言うとも思えない。
それにカピバラも俺のスキルから生まれた存在だから、妖精種に近いというのも頷ける。何より特別感があっていいよね!妖精ってさ!!
「それであの池とカピバラについての説明はしてくれるんだよな?」
「そう、それ。私たちに見せてくれたってことは、話してもいいと思ったからだよね?」
「ああ。と言ってもつい最近の話なんだけどさ……」
立ち上る煙が色を変えるまでの間、俺は二人にこれまでの経緯を話し始めた。その中で三人に囲まれて代わる代わる撫でられたカピバラは、二人の匂いを興味深そうに嗅いだりと楽しそうにキュルキュルしていた。かわちぃ。
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煙用の穴を埋めて、竹炭作りは終わり。あとは熱が冷めるまで放置するだけとなり、バーベキューの後片付けをみんなで手早く終わらせ、一花と白百合の二人は帰宅の途についた。
秋の日は釣瓶落とし。辺りはすっかりと暗くなり、遠くの空をほんのりと赤く染めるだけとなった夕日を見送りながら、俺はずずずっと棒茶を啜っていた。肌寒い空気を感じながら飲む熱いお茶は、なんだか贅沢な気分にさせてくれる。
お茶と一緒に楽しむのはこの時期限定で売られている芋きんつば。滑らかな芋と薄い皮の食感が心地よい。近くのお店ではこの時期しか売ってなくて、俺にとってはご馳走だ。ゆっくりと秋の味覚を噛み締める。美味いっ!
「事情聴取かー。なんか容疑者みたいで嫌だな……」
帰り際、二人からの言伝で聞いたのがギルドからの事情聴取だった。と言ってもボス部屋で倒した『アンラッビー』についての聞き取りみたいなものだとか。
その場にはギルド探索者で試験官をしてくれたケンゾウさんもいたし、簡単な聞き取りで済むとの話なんだが……。
「あの黒い魔素を取り除いた方法をどう説明するか、それが問題だ」
あの時は俺の『待機妖化』による作用で魔素を変質させて取り除いていたけど。他のやり方もあった気がする。
実際、最後までラビットの尻尾に張り付いていた黒い魔素を取り除けたのは『気妖』による瞬間的な爆発があったからだ。つまり単純な攻撃力があれば、あの黒い魔素は取り除けたんじゃ?と考えることもできる。
「俺の気持ちやスキルの感覚が、どうしても攻撃を躊躇わせたからな……」
対峙した俺としても、何故黒い魔素を払えたのか?そもそもあれは本当に魔素だったのか?その確証は掴めていない。要するに、自信を持って話せる事は何一つ無いのだ。
まあ、適当に答えても良いだろう。アンラッビーはレア中のレア魔物らしいし、地下迷宮で出くわしたとしてもすぐに逃げてしまうと言うし。問題は俺の時のように、ボス部屋に現れた時だが……。
「なんて考えても振り出しに戻るだけか。本当悪い癖だよな、ウジウジ考えるの」
庭の地面にうずくまって寝ているカピバラを見ていると、なんだか心が安らかになってくる。メンタルサポートとしてもカピバラは良い相棒になってくれるかもな。
というか、あんな場所で寝てて寒くないのかな?
縁側から立ち上がり、カピバラが寝ているところまで歩いていく。そこは庭の奥の方、竹林との境界線でもあり、昼間に竹炭を作っていた場所でもある溝。今は土を被せて平らにしているその場所にカピバラは寝ていた。
「そうか、ここは温かいんだよな」
土の下ではまだ竹が高い温度で燻っており、ゆっくりと炭化をしている最中だ。手を当ててみると、まるで床暖房みたいな柔らかい暖かさを感じて気持ちいい。
そういや、カピバラは温泉に入ってくつろいだりもするよな。動物園などでそんな映像が配信されることもあるし、俺もよく眺めては癒されている。
南米なんかで暮らしているわけだし、温暖な気候の方が過ごしやすいのかも知れない。
「近くに自然の温泉があったら入らせてやれたんだけどな。そんな上手い話は無いか」
いつかはこの目で直接『温泉カピバラ』を見たいと思いながら、体質のことや忙しさにかまけて出来ずじまいだった。こうして自分の家族?友達?のカピバラと過ごせるようになったし、是非とも温泉に入らせてあげたい!そしてそれを眺めていたい!!と思うわけだが
……。
そんな事を思いながらカピバラを撫でていると、一瞬だけビビっと、スキルを介してカピバラと繋がったような刺激が身体を流れた。
おもむろに立ち上がったカピバラは泉の方へと歩いていき、泉の周りを縁どるように並んだ石の一つに前脚を乗せると『キュルルル〜』と高らかに鳴いた。
泉の水がペカーっと輝いたかと思うと、透明だった水は白く濁り、辺りにはドライアイスから出るような白い煙が立ち込めていた。まさか、これって。
「おいおいおい……マジかよ……あっちゅ!」
寒くなってきた空気に立ち上る白い湯気。どことなく感じる硫黄の香り。そして指先を入れただけで分かる熱さ。これはまさしく、温泉である。
温泉である。
「これもお前がやったのか?」
キュル〜!とこちらを見上げて鳴いて、カピバラはスーッと泉に、いや温泉に入ってしまった。そして頭だけを出したかと思うと、しみじみと目を閉じてボーッとしている。とても気持ち良さそうだ。可愛い。そして羨ましい!
「え!?マジで!?いいの!?」
スキルを通して、『YOUも入ってきちゃいなよ!』と言ってくれている。リアルでだったらダメだけど、これはスキルによって作られたもの。衛生面も問題無いだと!?
「えーっと、えーっと……そうだ!着替えとタオルと、あとタライ!!すぐ戻ってくるからな!待っててくれよな!!」
カピバラの返事を確認もせず、俺はちょっぱやで家の中に飛んで行ったのだった。カピバラと温泉やっほーい!!
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.10
・深體強化 Lv.3
・身体器用 Lv.8
・進退強化 Lv.8
・待機妖化 Lv.6
・大気妖化 Lv.6
・鏡花 Lv.4
・気妖 Lv.2
・息 Lv.7
・気 Lv.6
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◆津賀 一花
◆ラビットラピッド Lv.24
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◆陽乃下 白百合
◆ディープフォレスト Lv.28




