1話.初めの一歩、始める一歩
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初のオリジナル作品です。
文章量や表現など、気になるところが有ればコメントしてくれると助かります。
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1話.初めの一歩、始める一歩
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「ぜはぁっ、ぐっ、ふぅ……」
一人の青年が聞き苦しい息を吐きながら歩いていた。緑に囲まれた公園の中、散歩やランニング用に作られたコースはクッション性のある道で、利用者への身体に配慮されていた。
何回目の周回遅れか、ランニング頑張ってます系の格好をした男が、迷惑そうに青年を見やりながら颯爽と横を通り過ぎて行く。
なぜランニング勢は我が物顔で道を走れるのか。なぜ歩いてる側が配慮して端に寄らなければいけないのだろうか。そんな偏見と被害妄想を思いながらも、青年はゆらりゆらりとフラつきながら歩いていく。
どうも、青年Aです。鳩尾の痛みを紛らわせようと、地の文調で脳内実況をしていたけど。もう限界です。辛いです。ベンチはよ。
おおベンチよ、何故お前はそんな遠くに居るのだろうか?動けないとは情けない。お前から来い!ベンチ!ここに助けを求めてる人間が居るんだぞ!待ってるだけじゃ何も始まらないんだよ!
今度はミュージカルな感じで気を紛らわしてみるが、相変わらず痛みは治まらず、痛みで息もしづらくなる。視界がボヤける中、ようやっとベンチへと辿り着くことが出来た。
「よっ…こい!」
息も絶え絶えに、辿り着いた聖地に痛みを堪えながら腰を落とす。降ろす余裕すら無い。尾骶骨の痛みなど気にならない程に腹が痛い。そして苦しい。
切れかけたスキルを再発動すると、鳩尾の痛みがジンワリと軽くなる気がした。習慣付いたこのスキルのお陰で、ここまで来れたと言っても過言では無いだろう。
ほんと微々たるものだが。スキルの表示もなんかバグってるし、なんかパチモン臭い。ちゃんと機能してるのかしらん?
この痛みとも長年の付き合いだ。物心ついた頃から訪れる痛みは、さりとて慣れることは無く、ただ治まるのを待つばかりだ。
痛みと、苦しさと、そして不甲斐無さと悔しさと。常に感じるのはそんな感情ばかりだ。
子供の頃から身体が弱かった。食事の後、あるいはちょっとした運動の後、高確率で鳩尾が痛くなる。場所的には心臓の痛みとも錯覚してしまい、最初は心臓が悪いのかと不安だったが。
医者に診て貰っても、病院で検査をしてみても、原因となるものは見つからなかった。
胃腸が弱い体質なのではないか。それが最終的に下されるもので、ただ生活習慣に気を付けてくださいと帰されるのがオチだった。病名が付いたとしても特発性、つまり原因不明のものとされ、処方された薬を飲んだところで大して症状が改善されたりはしなかった。
まあそんな事が繰り返されると、自分も周りもどうしようもなく、親からは困った顔をされてしまうし、他人からは「怠け癖のある奴」「付き合いの悪い奴」などと思われるのも当たり前となっていた。
「なんなんだろうな、俺の人生は」
つい溢れてしまった言葉に、ため息しか出なかった。
やりたい事を諦め、人付き合いを諦め、青春を諦め、そして人生を諦めかけていた。誰かに語っても理解される事もなく、改善する事もなく、救われる事もない。
これでポジティブに生きられる奴がいるなら凄いと思う。それかとんだマゾヒストだ。残念だが俺はどちらでもない。
それでも人生は終わらない。だから、こうして平日の昼日中に一人歩いていた。強い身体が欲しかった。何かを始められる身体を。人生を、自分を諦めたくなかった。
2年前に生えたこのスキルだけが最後の希望だ。使い続けていればいずれは成長してくれるのでは無いかと。そんな淡い希望を持ちながら、それでもうんともすんとも成長してくれないこのスキル。
なんならレベル表示すら無いのが怖い。これ、レベル0って事だよね?成長したらレベル1って表示されるよね?まさかこのまま打ち止めとか……ないよね?
そんな不安と、パンドラの箱の隅に残ってるんだか無いんだか分からない、小さい希望を抱えながら重たい腰を上げた。頭の中に無意識に表示されるステータスから、スキル発動、っと。
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◆菅田 知春
◆シンタイキヨウカ