7.ひとりの騎士の任務の旅-5
探索の任にある騎士である彼は、今まで世界中のいろんな場所を旅してきた。
そして様々な国の人々から、たくさんのものを受け取った。
それは彼がそれまでに知らなかったもので、彼の任務には必要なものだった。
彼はたくさんの出会いによって少しずつそれらを集め、多くの経験値としていった。
世界中を襲った病から二年後に、あの戦争が始まった後、
ある国から「言葉」を
ある国から「金銭」を
ある国から「技術」を
ある国から「領土」を
ある国から「権利」を
ある国から「衣服」を
「支配」に対する大きな権限を持つ国々から、彼はそれらのものを受け取った。
受け取ったものは全て等価交換によるものだと、彼は彼女に話した。
それらについて彼は詳しく語るつもりはないらしいが、それ以外に受け取ったものの話を、羊毛にまつわる取引トラブルにあった東の国の彼女にしてくれた。
これから話をする国も羊毛の産地である国のうちのひとつだ、と彼は彼女に伝えた。
「これはある国の話である。
ある国と別の国との国境付近では、古き時代にこのような取引があったそうだ。
その取引が行われる島には誰も住んでいない。
その島を訪れるのは、二つの国の人間が、取引を行なうためだけに訪れるのだ。
取引を行いたい一方の国の人間が、何かを置く。
しばらく後、もう一方の国の人間が、そこにあるものを別のものに交換して置いておく。
さらに時間が経った後、一方の国の人間が、それに対してまた別のものを置く。
その繰り返しで取引は続いていき、時には何も置かれなくなることもあったという。
今はその島は一方の国の領土となったが、国の境界線付近では二つの国ではいまだに言葉による取引が続いていると言う。
そこで交わされる言葉は自分達が使う言葉であって、もう一方の言葉ではないから、お互いにまともな意思疎通はできていないようだ。
結局取引は成立せず、言葉だけが残されるという状況らしいがね。
取引とは金銭によるものだけではない。
もともと物と物との交換で…あまりに古い記録なので定かではないが、古き時代の指導者の言行録と、貨幣制度の始まりの記録は同じ頃のものらしい」
ある国…「支配」に対する大きな権限を持つその国から、彼は古に起こり現在まで伝えられている取引の記憶、「伝承」を受け取った。
「伝承」はおとぎ話のようなもので、彼はそれを「物語」だと言った。
「探索の任では、このような物語を受け取ることもあるのだ」
彼女は彼に何故「物語」を受け取ることになったのか、と聞くと、彼はあるレースの配当金代わりさ、とにやりと笑って言った。